第46話

 …なるほど少しカマをかけられたのか。

「なかなかの演技でしたよ。迫真の演技っていうか…。本当に斬られちゃうのかと思いましたよ。ははっ…」

 僕が冗談混じりにそう言うと、シオンさんは一瞬暗い顔をした。

「…別に全部が全部、演技ってわけじゃないけどな……」

 見間違いかもしれないけど、誰かを殺しそうな…そんな表情をしていた。

「…えっ?」

「いっ、いや、勘違いするなって…。君のことじゃないから…。そっ、そんなに警戒するなよ」

「はっ、はい…」

 こっ、怖かった…。

「それにしても君にはなにか…お礼しないとな…」

 …お礼? …なんのお礼だ? …特に心当たりがないぞ。…まっ、まさかっ!?

「よっ、夜中にイタズラしたから、きっ、斬る気ですか!? ごっ、ごめんなさい! …あっ、あれは違うんです! 寝ぼけてて、つっ、つい、出来心で…」

「…なにをしたんだ?」

 …あれのことじゃなかったのか……。

「ふっ…。演技ですよ…。なかなか上手いでしょ? …もしかして、騙されちゃいました?」

「だっ、騙された〜。もしかして、本当になにかされてるのかと思ったよ」

「はははっ…」

「はははっ…。…さて、冗談はここまでだ。…正直にいえば今なら許してやる」

「実は…」

 僕はシオンさんが寝ている隙に頭にネコ耳をつけた事を謝罪した。


「…君はバカなのか? …ったく…まぁそれくらいなら許してやるよ。…他にはなにもしていないんだろうな」

「…はい。…すいませんでした」

「それで…。なにか私にできることはないか? …なんでもいってくれ」

 なんでも…。

 僕は雑貨屋でもらった黒いネコ耳をシオンさんに見せた。

「…このネコ耳をつけた状態でシオンさんの可愛い演技をみてみたいです」

「バカにゃっ…。ごほんっ…。バカな事はいうな! やっぱりスパイかもしれないし、もう少し疑っておこうかな…」

 シオンさんは僕の方をジーっとした目で見ていた。

「…冗談ですって! スパイじゃないですから!」

「はははっ、冗談だよ。まぁ自分から二回も牢屋に入る情けないスパイなんて聞いたことないしな」

 シオンさんは表情が崩れ笑っていた。

「意外に寝心地よくって…。なんてまぁ、冗談は置いといて…。そういうわけで…これ以上目立ちたくないから、あの黒い魔物はシオンさんが倒したってことにしてくれれば非常に助かります」

「まあ、私はいいが…。やはり、王様には伝えた方がいい。下手をすれば国を巻き込むぞ…」

「王様には一応伝えているんですけど…。皆に迷惑かけたくないから明日か明後日の朝にこの国をでようと思うんです」

「…わかった。私もできることがあれば可能な限り協力しよう…。ところで話は変わるんだが、朝食を食べた後であってほしい人がいるんだけど…。…少し時間いいかな?」

「…別にいいですけど、その話は後にしましょう。お姫様が限界のようなので…」

 僕は下を指差した。アリスは身振り手振りでさっきから催促していた。

「…みたいだな。私も訓練に付き合わされてお腹がすいた。…降りよう」

 僕達はアリスの元に降りた後に、シオンさんオススメのお店に行き朝食をすませた。…なかなか朝からボリューミーな感じだった。


「…それで、あってほしい人って誰なんですか?」

 僕は小皿に乗ったハムを口に運んだ。 

 …ジューシーでなかなか美味しい。

「ああ…。恐らく関係ないと思うんだが…。でも…君の話を聞いてると…。まあ、すぐに終わるからついてきてくれ」

 シオンさんがフォークをテーブルに置き神妙な面持ちで答えるとアリスはシオンさんに尋ねた。

「…それって、私はついて行かない方がいいよね?」

「…別について来てもらっても構わないのですが、そんなに面白い場所でもないので、先に城に送り届けましょうか?」

「…そうね。今回は、私がいない方がよさそうだし、お願いします。アル! お昼は、わかってるよね?」

「ああ、わかってるよ。終わったらすぐに戻る」

 それを聞いたアリスは満足そうにシオンさんと城に帰っていき、三十分程度したらシオンさんが再び戻ってきた。

「アリス姫は無事に届けてきた。さて、会計も済ませたし…。じゃあ、行こうか」

「はい。いきましょう」


 僕はシオンさんに連れられ綺麗に舗装された道を通った後に住宅街を抜け細い小道を抜けるとある場所についた。

「…ここは…教会?」

「ああ…」

 そこはダイオンで見た教会とは違いどちらかといえば質素で…というかボロボロだった。王国は広いので中にはこういう教会もあるのだろう。

「…教会の中ですか?」

「ああ…」

 ふと、教会の入口付近を見ると子供達と一緒に遊んでいたシスターはシオンさんに気付くと子供達を待たせてこちらに歩いてきた。

「…シオン様、ありがとうございます。また、とてつもない額の寄付をされたと司祭様から聞きました。…本当にありがとうございます」

「いや、気にしなくてもいい。ここには世話になっているからな。この人を教会に入れたいんだがいいかな?」

 …なるほど。寄付をしていたからあんなにも部屋が質素だったのか。

 そんな事を思っているとシスターは話しだした。

「…はい。今は教会には誰もいません。…お好きな会話をされても大丈夫です。私は入口付近で立っていますので…」

 …変な言葉だな。お好きな会話って…。一体誰にあわせたいんだ?

「…ああ。…じゃあ行こうか?」

「えっ…。ああ、行きましょう」

 

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