第25話R

 僕は心の奥がムズムズとするような、なんとも言えない妙な気持ちでギルドに戻り、受付のお姉さんにクエストの完了報告を行った。



「お姉さん、終わりましたー」

 受付のお姉さんは僕の方をじっと見ると、優しく微笑んだ。…というか…なんというか……。これは…まるで…。

「……」

「…あの……」

 …捨て犬を見るような哀れみの眼差しだ。

 受付のお姉さんは受付台に置いた封筒を少しも見ずに僕の手を取ると優しい言葉をかけ始めた。

「落ち込まないでください…」

「…えっ?」

「苦情の処理は私の方でやっておきますから…。まぁ、最初は誰だって失敗しますし…。大丈夫ですよ…」

「あっ、あの…」

「……ほんとはだめですけど…。次回だけは少し割のいい仕事を斡旋しますから…。…皆には内緒ですよ…?」

「いっ、いや…」

「……わかってます…。なにもいわなくてもわかってますから…。だから…ほら元気だしてください! …もう…人生が終わったなんていっちゃだめですよ!」

「……ちっ、違います! クエストが終わったんです!」

「……はい?」

「クエストが無事に完了したんです…」

 僕の返答はあまりにも予想外だったのだろう。受付のお姉さんは僕の首根っこを捕まえて小声でとんでもない事をいいだした。

「そっ、そんなわけないでしょ! まだ一、ニ時間くらいしかたってないのに!」

「本当ですって…。これが…完了届けです」

「…まっ、まさか……。…完了届けを偽造したんですか!? はっ、犯罪ですよ!? 牢屋にでも入りたいんですか!?」

「ひっ、人聞きの悪いことをいわないで下さい!」

「…というかそんなことしても中を見れば……。…あれ?」

 お姉さんは封筒をビリビリと破ると中の紙を取り出して光に透かしたり、紙質を確かめたりしていた。調べれば調べていくほど、お姉さんの表情は段々と曇っていった。

「……本物でしょ?」

「たっ、確かに本物みたいですけど…。…いっ、今なら許してあげますけど、この装置に通して偽造がわかったら本当にかばいきれませんよ?」

 僕は完了届けを手にとりコピー機のようなものにのせて、それらしいスイッチを押して紙を通した。すると、青色の光がスッと柱状に浮かんだ。

「…どうですか?」

「まっ、間違いなく…本物です。…すっ、すいませんでした」

「謝らないでください。お姉さんが優しさでいってくれてるのはわかりましたから…」

「そういってもらえると助かります。…それより、この封筒はなんなんですか?」

「博士…。いえ、クエストの依頼者が受付に渡せっていってたんですけど…。…僕も中身は知らないんですよ。中身見るなっていわれて…」

 受付のお姉さんは白紙の封筒を開けて中の手紙を取り出して、読み始めると口がどんどん開いていき、固まっていた。もしかして、こっちには苦情でも書いてあるのだろうか。…コーラ…持って帰りすぎたかな……。

「…なっ!? ごっ…ごっ… 」

「…ごっ? …どうしたんですか?」

「…すっ、すみません。…ととととっ、取り乱しました」

「なんて書いてあったんですか?」

 手が震えて明らかに様子がおかしい。…やばい内容なのか?

「おおおっ、驚かないで聞いてください。…あっ、貴方に専属の契約がきています」

「…専属?」

「あっ、貴方には関係のない話だと思っていたので、説明しなかったんですが…。これはギルドに所属している人の仮の口座にお金を預けてもらうと優先的に依頼できるというものです」

「へぇ…」

「細かい点は置いておきますが、こっ、この仮の口座にはお金が入っているんです。たった一回の依頼をこなせば正式に全てのお金がひきだせるようになります…」

「なるほど…」

「いっ、いま、貴方の仮の口座には…ごっ、ごっ、ごっ、五百億ギル振り込まれています」

「へぇ……五百億……」

「…そっ、それだけですか?」

「…でっ、でも、そのとんでもないクエストが成功しないと使えないんですよね? だったら、そんなお金なんてないようなものだし…」

「…一回クエストを受ければ、成功…失敗に関わらず…着手金として…その時点の口座の二十パーセントが自由に使えます」

「……」

 ゲームで昔…裏技を使って所持金増やしたなあー…。

「受けるだけでいいんです…。うっ、受けてください!」

「…まっ、待ってください! …おっ、俺だって混乱してるんです!」

 …こっ、これは、異世界豪遊ハーレム計画に移行できるんじゃないのか!? …いっ、いや、ダメだ! ゲーマーの感覚が告げてる…。確かに冒険に金は大事だけど、ここまでの大金を受け取れば絶対にクリアできない。…というか遊んでしまうと! 

「悩む必要なんてありません! こんなチャンス…二度とないかもしれませんよ!?」

「……」

 たっ、確かに…。こんなチャンスは二度とないかもしれない。でも、待てよ……。ハーレムって…。バカバカしい…。よくよく考えれば、この僕が…ゲーマーである僕が三次元女子に敗れるというのか? ふっ…。ありえないじゃないか…。

「お姉さん…。ちなみになんですけど…。僕の事どう思いますか?」 

 …物は試しだ。…一応、この可愛い受付のお姉さんで確認しておこう。僕の意思が強ければ受け取ろう。…余裕だろうがな。

「…とっても格好よくて素敵だと思いますよ。…ちょっとだけ、ご飯連れてってほしいなとかって思ってます」

 …めっちゃかわええな……。

「……」

 …一撃じゃねえか! ダメだ…。完全にダメだ…。今のでわかった…。俺は意思がかなり弱い…!

「どうしました?」

「…すみません。保留でお願いします…」

 …断りきれなかった……。

「そっ、そうですよね! 急にご飯とか無理ですよね!?」

「いえ、そっちではなくて専属の件です」

「そっ、そっちですか!?」

「おっ、お願いします。僕の顔を見て…いっ、色々と察してください。僕も本当に辛いんです」

「…わっ、わかりました」

「でっ、では、今日は帰ります…」

「…あっ! 待ってください」

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