第24話R
…なんとかしてあげたいな。
「うーん。なにかいい方法は…。…ん? …なんだこれ?」
僕はヘンテコな装置に触れてアイテム画面を開いた。すると、設計図のような画面が現れ、それに手が触れるとわけのわからない文字だらけの画面が開かれた。
うーん…。上にスクロールしても下にスクロールしてもわけがわからないな…。それにこの左側の画面もわけがわからない…。まるで…。
「まさか…。プログラミング言語か!?」
内容はわからないが一定の法則性を感じる。なによりこの美しいコードの並び…。
「……」
でも、イジれるかわからないな…。素人だったらこのコードを適当にイジってやろうとかいうんだろうけど…。本当にブラックボックス化しているやつは触らないほうがいい…。まじで…。…でも、この最後の空白の部分に付け加えるのはどうだろうか?
「……直接やるしかないよな……」
僕はヘンテコな装置に触れて、一つ一つプログラムを書き込むイメージをして魔法を発動した。そうすると装置は緑色に輝きだし、同時にコードらしきものが次々と追加されていった。
…よしよし、いいぞ……。
「なっ、なにをしてるんだ!?」
「できるかわかりませんけど、改造してます。………よし、これでどうだ!」
「かっ、改造!?」
僕がレバーを下げるとタンクには泡立ちのある液体が注がれていき、ボトルが六つでてきた。僕はその内の一つを取り蓋を開けて飲んだ。
「…うまい! 成功したみたいだな」
博士は何も言わず、ボトルを一本手に取り、ゴクゴクと息継ぎもできないほど一気に飲み込んだ。…っていうか、そんなに一気に飲んで大丈夫だろうか……。僕はすぐに避難できるよう、スッと一歩後ろに下がった。
「こっ、これは…。まさかお前、エンチャンターなのか!?」
「…えっ? えっと……。エン…チャンター?」
「補助魔法器具が作れるのかと聞いてるんだ!」
「…そうなんですかね?」
「なっ、なんで、疑問系なんじゃ!」
「そっ、そういわれても…」
この世界の補助魔法器具の作り方なんてわからない。でも、現にできているというこの状況を考えると方向性としてはあっているのかもしれない。……よくよく考えたら、この力を使って武器にエンチャントすれば、かなり戦略は広がりそうだな。
「…いくらだ? いくら払えばいい?」
「…お金はいらないんですけど、外の倉庫に置いてあるコーラを山ほど持って帰っていいですか? とりあえず、千本くらいほしいんですけど…」
「せっ、千本!? 売りにでもするのか!?」
「いえ、全部飲む用ですよ」
「のっ、飲むのか…!? すっ、すごいやつじゃ…。まぁ、別に構わんが…本当にそんなものでいいのか?」
「十分です…。……あと、この試作品のコーラも持って帰っても?」
「好きにしろ…。全く恐ろしいやつじゃ…」
僕は外にでて、そびえたつ宝の山を見ながら考えた。問題はどうやって持って帰るかだ。流石にこのバッグには入らないだろうし…。
「…あっ、あれ? 底が見えない!?」
このバッグ、お財布みたいに空間が…。そうか…。なるほど、なるほど…。神様、わかってるじゃないか…。…よしよし、これなら相当な量が入るぞ。それから僕は、無我夢中でバッグの中にどんどんコーラを詰め込んでいった。まるで羊の数え歌だ。
「コーラが一本……! コーラが……」
「…なんてことじゃ。ワシは夢でも見ておるのか? …そっ、そうじゃ、すっかり忘れておった!」
博士はなにかを思い出し、走って部屋に戻っていった。なにかあったようだけど、あの様子だと、大したことじゃないだろう。…というか、僕はそれどころじゃない。至福の作業タイムで大忙しだ。
「ふぅ…。詰め終わったな…。よし、帰るか…」
「まっ、まてっ!」
博士は息を切らせながら走ってきた。なぜか手には封筒を持っている。急ぎのものをポストにでも入れてほしいのだろうか?
「……忘れ物ですか? 仕方ない…。…今回はサービスですよ」
「はぁ…はぁ…。…バカ者! 忘れ物はお前じゃ! 完了届けがいるじゃろ! …ついでにこれじゃ!」
「えっ、えっと……すみません。……なんですか、これ?」
一つは完了届けと書いてある。もう一つは白紙の封筒だ。
「よいか? 受付に二つとも渡すんじゃ。絶対にお前が封筒を開けるなよ。もし、開けたらコーラを全部返してもらうからな!」
「わっ、わかりましたよ…。じゃ、帰りますね…」
僕がフワフワと浮くと、あの時のアリスと同じように博士は驚いていた。やはり、この魔法は珍しいのだろう。
「とっ、飛べるのか!? それで…あんなに早かったのか…。本当にお前は不思議なやつじゃな…」
「じゃあ、いきますね…。ありがとうございました」
「…まっ、まて!」
…ん?
突然、博士に大声で呼び止められたので、僕は驚いて勢いよく急ブレーキをかけた。もう少しでさっき飲んだコーラが、元に戻るところだった…。僕は胸の辺りをさすりながら、ゆっくりと博士のところに下降した。
「僕…まだなにか忘れていますか?」
「…今度はワシが忘れていた。感謝の言葉を伝えるのをな…」
「そっ、そんなのいいですって…」
「いわせてくれ。本当に…本当に…ありがとう…。これで約束が果たせる。妻との約束をな…」
「奥さんがいたんですね……」
「ああ…。今はあそこで眠っておる…。後であのコーラを飲ませてやらんとな…」
博士は庭先を見つめて少し悲しそうな顔をしていた。そこには、沢山の花に囲まれた小さな小さな墓標がたてられていた。
「……喜んでくれますかね?」
「まぁ、そこそこじゃろうな! あいつはワシより厳しいからのー…。…はははっ! まぁ、更に改良して最高のコーラを作ってみせるわい」
「…その時は飲ませてください」
「…バカ者! …いつでもこい!」
「…はい!」
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