第40話

 シオンさんはなにか言おうとしていたが、しゃがみ込んで僕が綺麗に完食したプレートを隙間から取ると牢屋からでていった。


「…流石にかなりのロスだな……」

 まあ、フラグを折れなかった俺にも責任はある。…まあ、仕方ない。なにもできないなら寝るか…。

「…ミ…ツ…け…タ……」

「えっ!?」

 床に寝転がると不気味な声が聞こえ、飛び上がって周りを見渡したが人の気配は感じなかった。

「…誰もいない。気のせいか?」

 安心してもう一度寝転がると、外の方から爆発音が発生して地震のように床が揺れた。

「なっ、なんだ!?」

 …騒がしい。…なにかあったのか?

 僕は即座にステータス画面を開きスネークイーターを解除して魔人化した。

「ついでにためておくか…」

 アリスからもらったペンダントにMPをチャージし、首にかけてチャージ量を確認した。

 MP十万か…。なかなかチャージできたな。…って、MP十万ってかなり高いんじゃないのか!? …こんなものよくあったな。

「アリスに今度お礼をいっとかないとな。…さて、いくか!」

 壁を破壊して外に出ると、沢山の黒いもやもやした物体が小さな竜巻を起こし城中を壊していた。

「…なんだあれ? …それに誰か戦ってる。あの格好、もしかしてシオンさん? …じゃあ、本体はあれか!」

 人間のような黒い魔物…。それは動きが素早く次々と竜巻を起こしてシオンさんを攻撃していた。

 相手のHPは…。

「HP…いっ、一千万だと!? …なんだこの化物は?」

 俺に…倒せるのか? HP十五万しかないのに…。…ってそんなこと考えてる場合じゃない。シオンさんがピンチだ。


 僕は猛スピードで魔物に近づき剣で攻撃を受け止めた。シオンさんは驚いた様子で声をかけてきた。

「なんだっ!? 新手かっ…! いや、お前は…!?」

 っていうかここまでジャンプしたのか…。シオンさんもただ者じゃないな…。まぁいい…。戦いに集中しよう…。まずは…。

「…デスマッチ……」

 目の前の魔物とあの閉ざされた空間に入ると、敵は距離を取りこちらの様子をみているようだった。


「……」

 …さて、どうするか? …とりあえず闇の魔法でも当ててみるか?

 手のひらに六属性の魔法を発動し闇の魔法へと変化させた。見るだけで前よりも禍々しいそのオーラは、当てなくても相当やばい威力なのがわかる。

「…くらえ!」

 闇の魔法を込めた球体が相手に当たるとそこを中心に闇が一気に広がり辺りを闇の世界に変え、数秒後に爆音とともに元の景色に戻った。当然、マジックイーターを発動してガードしているが吹き飛ばされそうになるほどの恐ろしい威力だった。

「…っ!」

 相手の反撃に備えて、僕は剣を構えて相手のHPを確認すると残りは八百万程になっていた。

「…って、喰らいすぎじゃないか!?」

 なっ、なんて威力だ。…でも、おかしい。…なんで避けもしないで当たったんだ? …それに襲って来る気配がない。…まるで戦う気がないみたいだ。

「……」

 …死んだのか? …いや、動いてる。…くそっ、魔法を発動した!

「…ギィィイア!」

 無数の竜巻が四方八方から襲いかかってきたので、僕はマジックイーターとマジックコンバートのコンボで空中に飛びながらそれを叩き斬った。

「…次から次へとっ!」

 相手を見るとすでに次の魔法を発動していた。巨大な黒い竜巻だ。

「…なっ!?」

 …あれはヤバそうだ。…厄介そうだがやるしかない。

 僕は相手の黒い竜巻と逆回転の竜巻を発生させて弱めた後に叩き切った。

「…いけぇええ! はぁ…はぁ…。なんとか…。…って、うお!」

 僕の気が緩んだ瞬間を狙って、奴は間合いを詰めて襲いかかってきた。僕は鋭い爪のような攻撃を剣で受け流した。

「…くっ! なんて、スピードだっ!」

 くそっ! 連続攻撃のせいで魔法が発動できない。…いない! どこに消えた? …後ろか!

 奴は猛スピードで直線的な攻撃を繰り返し、空間の中心にいる僕の動きを制限した。

「…っ!」

 身動きが…取れない! このままじゃまずい!

 僕はガードしながら必死に逃げ道を探したが、逃げる場所などなかった。

「…くっ!」

 どこでもいい…。どこかに逃げないと…。

「……」

 いや、僕がこの空間の中心に立ってるから、こんな直線的な攻撃をしてくるのか…。早く地面に…。いや、待てよ…。逆にいえば…絶対に近づいてくるってことか…。

「なら…」

 …エンチャントだ!

 僕は六属性を今度は剣に一つずつエンチャントしていった。

「…ぐっ!」

 相変わらず凄い攻撃だ…。でも、これならガードしながらできる…。媒体があるぶんさっきより少しやりやすい…。

 黒い大剣はエンチャントする度に、禍々しく空間を歪ませていった。

「よし…」

 エンチャントはできた…。でも、まだだ…まだ…。ぐっ…! 勝負は一回…。……今だ!

「…ぶっ飛べええええ!」

 黒い魔物は僕の大剣に跳ね返され、地面に叩きつけられると、どす黒い緑色のオーラを放ち急に暴れだした。

 くそっ…。まだ、HPが…。浅かったか…。また厄介な魔法を発動しようとしてるな…。今度は一体なにを…。いや、違う…。…自分で自分を攻撃しているのか?

「…なっ、なんなんだ、こいつ?」

 相手のステータスを確認すると凄まじいスピードでHPが減っていた。そして、HPが残り1になると獣のような声をあげて僕に飛びかかってきた。

「ギャァアアアア!」

 驚いて思わず叩き斬ってしまったが、黒い魔物は消えていき、周りを見るとデスマッチが解除されていった。どうやら倒したのだろう。


「ステータスは…。うわっ…」

 HPとMPは予想通り一千万超え…。そして、スキルは六属性吸収、七属性攻撃超強化、弱点特攻、オールヒール、状態異常無効化、軽減バリア常時発動、高速移動、ステータス可視化、???。裏スキルは物理有効、雷属性吸収無効化か。

「…って相変わらず化物みたいなステータスだな。…ん? …???ってなんだ?」

 …まあいい。元の世界に戻ってきたみたいだし、面倒なことになる前に森に逃げよう。

 森の茂みにつくと誰もいないことを確認しドクターペインを発動後、スネークイーターを生成し元の姿に戻った。

「よし、これで元の姿に戻れたし…。さっさと城に戻ろう」


 急いで城に戻ると所々壊れて辺りには柱や壁が崩れ落ち、広場には怪我人も沢山いて、うめき声をあげていた。

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