第39話
僕は牢屋の鉄格子を掴み、シオンさんに勢いよく近寄ると、足元においた食器が鉄格子にあたり、一面に冷たい金属音が響いた。
「だっ、大丈夫だ。そこまで問題じゃない。ただ、君が起きないから、絶食しているらしい。メイドの噂によるとな」
「そんなことしなくてもいいのに…」
「私もアリスに会ってきたが、少し顔色が悪かった。恐らく…噂というのは、本当だろう…」
「シオンさん、アリスに伝えてくれないか? ご飯はおいしいし、しばらく牢獄暮らしでも悪くはないって…。だから、気にするなって…」
「ふっ…。そういってくれてよかったよ…」
僕が必死にそういうと、シオンさんは軽く笑みをこぼした。なんというか、上手くはいえないが、少し違和感のある笑い方だ。
「…よかった?」
「実は君を拘束した人に頼まれてね」
「ああ、あの人か…」
「そう…。君の様子をアリスに伝えてほしいと…。じゃあ、私は君の様子を伝えてくるよ。これで食べてくれるだろう」
「そうか…。じゃあ、早く伝えにいってください」
「ああ、じゃあ…。…おっと、もう一つの頼まれ事を忘れていた」
シオンさんはポケットから小さなペンダントを取り出した。それは、黒色の宝石でよく見ると宝石の中から無数の小さな光が見える変わったペンダントだった。
「…なにこれ?」
それを受け取ると、光にかざして眺めた。
「お姫様からだ。一緒に買いにいけなくてごめんっていってたよ。…多分、相当いいものだろう」
「…綺麗だな。星空を閉じ込めてるみたいだ」
僕はアリスと夜空を飛んだときの事を思い出した。
「…あとこれは、伝えるかどうか迷ったんだが一応伝えておこう。さっき、しばらく牢獄暮らしも悪くないっていってたが本当にそうなるかもしれない」
「…どういう事?」
僕が尋ねるとシオンさんは三本指を立てた。
「…理由は三つだ。まず一つ目にお姫様に反省させる為だ。君が、いくら満喫してるっていっても流石に牢獄だ。つらい思いをさせているのはわかるだろう」
「なるほどな…。アリスの家出をやめさせたいってことか…」
「そうだ。二つ目に君が倒した魔族の報復を恐れている。ただ、君が手元にいれば色々やりようはある」
「…引き渡すとか?」
「ああ…。ただ、それに関して言えば恐らくないだろう。まあ、君が四天王を倒してるとかそんな話になれば別だかな。はははっ…」
「はははっ…。そんなわけないじゃないかー」
シオンさんは笑っていたが、僕は内心かなり焦っていた。顔には恐らくでていないだろう。
「私もそう思う。三つ目は…すごくいいづらいんだが…」
「…なんだ? そんなやばいことなのか?」
「やばいといえばやばいかな…。…その…アクションはあったのかい?」
…アクション? どういう意味だ? …攻撃?
「…あっ!」
「まっ、まさか、心当たりがあるのか!?」
「いや、実はさっき…じゃなかった。シオンさんと別れたあと…林の中で…」
「にゃっ、にゃやしのなかぁああ!?」
牢屋中に響き渡るほどシオンさんは驚いた顔をしていた。別にそこまで驚くような事でもない気もしたが、もしかするとかなりまずいことをしていたのかも知れない。
「…まずかったかな。お互い…その遊びのつもりだったんだけど…」
「遊びって…。きっ、君は…なにを考えているんだ!」
「いっ、いや、本気でやったらまずいだろ…。相手、お姫様なんだから…」
「それはそうだが…。どっ、どっちもまずいに決まってるだろ!」
「大丈夫だよ。まぁ、遊びだって…。ふっ…。まぁ、そういいつつも軽くもんでやったけどな…」
僕は子供の時に地区のチャンバラ大会で優勝した事を思い出していた。
「もっ、もんでやっただと!?」
シオンさんは目を見開き、何故か顔を真っ赤にして大声で話しだした。
「あぁ、大した事なかったよ」
「バッ、バカ! 声が大きい! 誰かに聞かれたらどうするんだ!」
…シオンさんの声のほうがよっぽど大きい気がするんだけどな。
「…でも、途中からアリスのやつが本気になってきたから正直疲れたよ。こっちは寸止めしてやってるのに…」
「ぅにゃぁああああ! はぁ…はぁ…。わっ、私が…私が…もう少しついていれば…」
変な声を上げてシオンさんは何故かガックリと肩を落としていた。
…そんなにしたかったのか? そういえばアリスもシオンさんともやりたかったっていってたけど…。
「まぁ、今度会ったときに一緒にしようよ。俺も興味あるし…」
「にゃっ、なんでそんな話になるんだ!?」
「なんでって…。アリスも俺もシオンさんの本気のテクが見たいんだ。ギルドでも王国でも噂されるぐらいなら相当すごいんだろうし…」
「だっ、誰だ! そんなバカな噂している奴は!?」
…シオンさん、さっきからなんで顔を赤らめているんだろう? なんか会話も噛みあってない気もするし…。ストレートに聞いてみるか。
「そんなにまずかったかな? アリスとチャンバラしただけなんだけど…」
「あっ、当たり前だ! 君達にチャンバラなんて…。…チャンバラ?」
「時間つぶしに木の枝で顔面無しの寸止めチャンバラしてたんだけど…」
シオンさんは片手で顔を押さえて声にもならない声を上げ、しばらく黙った後に話だした。
「…ごめん。そうじゃなくてだな…。その…言い方が難しいんだが…。だから、お姫様とその…ね? 二人で…同じ宿に泊まってたらさ…」
アクション…。二人で同じ宿…。シオンさんの妙な態度…。つまり、それって…。
「ない! ないないない! 絶対にない!」
「やっと気付いてくれたか…。…全く君には疲れたよ。…というか、それだけ否定すると余計に怪しまれるよ」
疲れきった表情でシオンは軽く笑いながら言うと、僕は全力で否定した。
「ないものはない!」
「まあ、そういうことだ。もう少しすれば君は形式上ここにいることになるが、恐らく近くの宿に一ヶ月程度は軟禁されるだろう」
…一ヶ月は長いな。
「なかなか面倒くさい事になりそうだな…」
「まあ、そういうことだ。私はいくぞ」
「ありがとう。シオンさん」
「気にするな。ああ、あと…。いや、また今度にしよう。じゃ、元気でな…」
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