第41話

「…大惨事だな……」

 仕方ない…。これ以上被害が広がる前に少し危ないけどリカバリーを使うか…。

 辺りを見渡して怪我をしてない体力がありそうな兵士に声をかけた。

「兵士さん…。怪我人を集めてくれ。俺が回復する」

「君は誰だ?」

「通り過がりの回復術士だ。ポーションで回復できなさそうな人を連れてきてくれ」

「…わかった。今からこの広場に怪我人を運んでくる」

 しばらくすると数人の兵士達が足を折ったメイドを連れてきた。


「…うっ、痛い……」

「もう、大丈夫だ。よし、治すぞ!」

 負傷者達が見守る中、メイドの傷が段々と治っていくと辺りのエルフ達は喜んだ。

「…凄い。本当に治ってるんだな。どんどん頼む…」

 それから流れ作業のように兵士達が怪我人を運んできて、結局十数人ぐらい治した。どうやら、この辺にいる兵士達は演習中で外にでていたのでそこまで怪我人がいなかったようだ。


 よかった…。あまりひどい怪我人はいないみたいだ…。とりあえずは終わりか…。

 そう思っていたら血相を変えて先程の兵士が走ってきた。

「すまない。一緒に来てくれ! 大変なんだ!」

「どうしたんだ?」

「王様が大変なんだ! 早く! 急いで来てくれ!」

 崩れかけた城の中に入るのは危険そうだな。時間もかかるし…。それなら…。

「わかった。王様の場所まで飛んでいく」

「飛んでいく?」

 僕は魔法を発動して空中へ浮遊すると、兵士の手を握った。

「さあ、案内してくれ」

「すっ、すごい。ほっ、ほんとに飛んでる! …あそこだ。あの一番くずれた場所!」

「…わかった」

 上昇し崩れ落ちた屋根からさっと降りると、そこにはたくさん人が集まっていた。シオンさんに僕を捕らえた老人や兵士に医者の姿だ。


「アルッ!? きてくれたのね!?」

「アリスか!?」

 ぱっと見わからなかったが、それはお姫様姿のアリスだった。

「お願い。お父様を治して! あなたにひどいことをしたのはわかってる。でも…でも…」

 声を震わせながらアリスは泣き崩れ王様に抱きついた。

「…わかった。…アリス、少し離れてくれ」

 アリスがメイド達に支えられながら離れた後、そこに倒れている王様と思わしき人物の体の状態を見た。それは予想以上にひどく、かろうじて生きている状態といったところだった。

 …これはかなり難しい。リカバリースリーよりのリカバリーツーだろうな。

 王様の体に触れ、リカバリーを発動してみたがやはり予想通りの状態だった。

 なるほど…。色の消えかかった無数のパズルを組み立てろということか…。流石にこれは…。

「…アル? 治りそう?」

「…ごめん。これは無理かもしれない」

「…そう。…そうよね」

「うっ、アリス、アリスがいるのか?」

 どうやらアリスの声に反応して王が目覚めたようだ。

「お父様!?」

「アリス、可愛い顔が台無しだ。すまない。色々冷たい事をいって…」

「お父様、私が悪いのよ」

「アリス…。この国を頼んだぞ…」

「おっ、お父様!? おとうさまぁああああ!」

 王様はアリスにそう言い残すと再び意識を失った。アリスの泣き叫ぶ声は僕の心を締め付けた。

 …くそっ! なにかいい方法はないのか!?

 急いでステータス画面を開いてなにかできることがないかを考えた。

 考えろ、考えろ…。…ん? レベルが5になっている。スキルポイントは21だ。よしこれを…。ダメだ…。リカバリーはスペル…スキルじゃない。

「いや、待てよ…」

 …スキルフルを限界まで上げたらどうなる? でも、それをやってしまうともう外せない…。まあ、考えてる暇はないか!

 即座に僕はスキルフルを上限限界まであげた。そうすると名前が変化した。

「…フルスキルフル? まあいい…。アリス、もう一度リカバリーをやらしてくれ」

「でもっ…」

「時間がない! アリス、俺を信じろ!」

「…うん」

 アリスが離れると素早く王の体に触れてリカバリーを発動した。

 …なるほど。さっきよりピースが大きくなった。それに色も見易くなって組立方もわかる!

「これなら…いける!」

 一つピースを埋め込むごとに黄金のバズルのような光が王様に入りこんでいき、失った体を再生していった。

 …焦るな。……慎重に…早く! …あと、少し……。…あと、少しだ……。

「なっ、なんじゃこの魔法は!」

「凄い…君は一体…」

 …消えるな! ……あと、少しなんだ!

「アル…お願い!」

「………よしっ、これで終わりだぁあああ!」

 最後のピースを埋め込んだ後、僕は仰向けになって倒れ込んだ。正直、かなり疲れた。

「ふぅ…。…ツギハギの医者になった気分だ」

「うっ…。ここは…」

「…おとうさまぁああああ!」

 泣きながらアリスは王様に抱きついていた。僕はそれを見て少し心が温かくなった。

「…アリス? …私は生きているのか?」

「…うん。…いっ、生きてるよぉぉお!」

 よし、大丈夫そうだな…。他にもいるかもしれないし、そろそろ行くか…。

 一安心して起き上がり、先程の兵士の肩を叩いた。

「…兵士さん。他に怪我人がいないか広場に戻ろう」

「あっ、ああ…。いこう…」

 僕達は先程の広場にまた戻り、残りの怪我人を治していった。何人かひどい怪我をしていた者もいたが、フルスキルフルのおかげで簡単に治すことができた。恐らく百人くらいは治しただろう。アリスにもらった魔石のおかげで変身せずに治すことができて本当にラッキーだった。


「…これで全部だ。間違いないな?」

「ああ、人員点呼して全員無事を確認した」

「…そっか。じゃ、俺は戻って寝てるから…。なにかあったら牢屋まできてくれ」

「ああ…。…牢屋? まぁ、わかったよ。本当にありがとう。君はこの国の恩人だよ…」

「じゃ…」

 僕は空を飛んで牢屋の中に戻り、座って外の景色を見つめていた。


「うーん…。絶景…。でも、やっぱり壁に穴が空いてると寒いな…」

 壁、直せないかな。それに非常事態とはいえ、このままじゃ怒られそうだし…。直す、直すか…。

「…ん? …もしかしてリカバリーで直るかもしれないな。…まっ、ダメもとでやってみるか…。…リカバリー!」

 まぁ、どうせ直せな……。いや、これ直せるぞ…。…リカバリーって便利だな。

 魔法を発動し、辺りの壁とついでに城も元の状態に戻しておいた。これで怒られることはないだろう。

「…よし、終わった。疲れたし、寝よ…」

 寝心地はあんまりよくないけど、ヒンヤリとして気持ちがいいな…。

 硬い床に寝転がりそんな事を思っていると、強烈な睡魔に襲われ眠りについた。

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