憧れのギルド編
第20話R
「疲れたぁ……」
「ああ、楽しかった!」
大体一時間近く操作をした僕とは違い、アリスはとても空の旅を満喫していた。着地すると、僕は両膝にもたれかかった。
全くこいつは…。
「…それで、ここがダイオンなの?」
「そうね…」
先ほど上空から街並みをみたが、さっきまでの村よりは発展しているものの、そこまでの差は感じなかった。街の周りは石造りの壁に、巨大な木でできた頑丈そうな門があった。
「ちょっと想像と違ったな。まあ、こういうのもあるか…」
「どんなの想像してたの?」
「いや、まぁ…剣闘士が闘技場の中で戦いあって…」
「戦いあってそれからどうするの?」
「それをみるとか…」
「…それ…楽しい?」
「おもしろくはないな…」
たまにある格闘技の番組を見て熱くなる気持ちも確かにわかるが、僕自身そんなに好んでみてはいない。
……ゲームだと面白いんだけどな…。
「さぁ、ギルドにいくんでしょ!」
「わかってるよ…。でも…闘技場みたかったな…」
「まったく…。あれ…でも、ギルドの近くに…闘技場があったような気もするわね…」
「…そうなの? さっきはみえなかったけど…」
「確か…。でも…聞いた話だし…違ったかしら…。うーん…。なにか…大事な事を忘れてる気がする…」
「大事な事って…?」
「うーん…。…まぁ…歩いてたら思い出せるわよ。さぁ…ギルドに…。あっ、その前に宿屋探そう! 今度は幽霊の出ない部屋よ…。…確か…赤猫亭だったよね?」
「…そっ、そうだな。…って、おいていくなよ!」
アリスはフードを深く被り直すとテクテクと歩き始めた。僕は駆け足でついていくと、アリスは大きな門の近くで立ち止まった。
「…あっ! ……うーん…。どうしよう…」
「…ん? …どうしたんだ?」
「あれよ、あれ…」
「…あれ?」
アリスの指差す方をみると、門の方から兵士二人が槍を持ってこちらに向かって走ってきていた。モンスターでもでたのかと驚いて後ろを振り返ってみたが、どこを探してもモンスターはいない。
「…なぁ…アリス……。…あの人たちなんでこっちに近づいてきてるんだ?」
「街の近くは空を飛んじゃだめなのよ。セキュリティ上の理由ね…。一応、ギルドの近くは妨害魔法でみえないようになってるんだけど…。そっか…だから…闘技場もみえなかったのよ!」
「へぇー…。…って、なんで早くいわないんだ」
「ごめん…完全に忘れてました」
「……」
「だってしょうがないじゃない。空飛んでくるなんて思わないもん…」
「まぁ…そうだな…」
…でも…困ったな。
「まてっ、そこのもの! 今、空から飛んできたな…。怪しい奴め…。そっちはフードを被っているな。フードを外せ!」
おいおい…どうするんだこれ…。
「あの…僕たちは怪しいものでは…」
「怪しい奴め…。口答えするな…! …ん? お前…汚い顔をしているな…。ゲヒヒ…。おい、お前も見てみろ…こいつ…」
「はははっ、ブサイクな面しているでありますね」
「……」
酷くないか……。
悪態をつきながら、小太りの鼻のでかい兵士は僕の頬に槍を向けた。パッと見は人間のようだが、ゴブリンに負けず劣らずブサイクな顔をしている。もう一人の方もヒョロっとしたノッポのゴブリンみたいだ。そんなゴブリン野郎共にブサイクといわれた僕は、この世界基準でどんな顔なんだろうか…。
「…っ!」
つねられたので振り返ると、アリスが小声でなにかを伝えようとしていた。
「これみせて…」
手渡されたのはよくわからない丸型の緑色の宝石に金の装飾がついたネックレスだった。エメラルドの様な耀きだけで、明らかに高そうなものだとわかるが、これがなんだというのだろうか?
「……」
…なんだこれ? …これをみせればいいのか?
「おいっ、今なにを渡した!?」
「さっさとだすであります!」
「あの…これ…」
「なんだ、貴様! そんなもの…。……そっ、それは!? …まさか、王家の紋章か!? …偽物に決まってる……。…お前…確かスキルをもってたな……。さっさとこの偽物を見てみろ!」
「……もうみてるであります」
「…ほう……」
「…これ…本物であります……」
「だろうな……。こんなもの……。…本物!?」
僕はアリスにいわれた通りネックレスを見せると門番二人は明らかに動揺し、槍を地面に置いて土下座をした。
…うーん。…どこかでみたシーンだ。…なんかすごくいいたいな〜。あの名ゼリフ…。
「このお方をどなたと心得る…。先の副将軍…ミト様であらせられるぞ!」
そのまま僕は兵士相手にペンダントを見せつけ、ミニ時代劇をやっているとアリスは小声で怒って僕に話しかけてきた。
「誰よ、そのミトって!」
「…バッ、バカ! 偽名だよ。バッ、バレたくないんだろ?」
本当のバカは僕である…。
「なるほど…。頭良いわね」
二人でコソコソと話をしていると門番が話しかけてきた。さっきまでの横柄な態度は全く見えない。弱々しい死にかけのような顔だ。
「あのー顔をあげても…」
「頭が高いっ!」
「はっ、はあっー」
「…ねぇ…そろそろ許して上げましょう。元々は私達が悪いんだし…」
「……じゃあ…二人とも立ってください」
門番はお互い顔を見合わせたあと、立ち上がった。二人は後ろを向きコソコソと話を終えると、こちらを向いた。
「…いやー申し訳ありません。先程の無礼はこの街の挨拶のようなものでして…。…あまり下手にでるとつけあがる者が多くてですね。…全く、そんな事は神に誓って思っておりません!」
「私は一言もいっておりませんが、そうであります!」
「ぐっ、お前っ……!」
「パッ、パワハラであります!」
小太りの兵士はノッポの兵士に掴みかかり、今にも殴りそうだった。流石にこれ以上は権力を振り回すのはよくないだろう。これじゃ…悪代官になってしまう。
「…ごほんっ……。喧嘩はやめてください。まぁ、今回の件は水に流しましょう」
「…あっ、ありがとうございます」
「…ありがとうございますであります」
「…じゃあ…僕達は街に入ってもいいですね?」
「はい…どうぞどうぞ…。ところで…あのー…この街になんのご用でしょうか?」
「えっと…いや、それはいえないんですけど…極秘任務なんです。…この事は内密に頼みます」
「…私達でよければなにか手伝いますが……」
「…では、誰にもいわないでください。先程のやりとりも含めてすべて忘れて下さい。…僕等はただの冒険者です。…いいですね?」
「わかりました。わっ、私達は忘れるであります。…冒険者よ。…もっ、門の通行を許可する」
「…ありがとうございます」
小太りの兵士は緊張しているのかわからないが、変な言葉遣いで話した後、門を開けてくれた。そうして、僕らは無事に街の中に入ることができた。
「なぁ…アリス……」
「…なに?」
「……やっぱ、なんでもない」
「…へんなの……」
二人きりで歩いているときにさっきの暴言について聞こうと懐ったが、肯定されてしまうと、流石に立ち直れないので僕は胸にそっとしまった。
「ここだな…」
しばらく探すと街の中央に赤い猫の絵が描いてある先ほどまで泊まっていた宿屋そっくりの建物があったので僕達は中に入った。
「いらっしゃい」
声のする方を見るとカウンターに置いてある小さな箱の一つから可愛い顔が飛びだした。もふもふしたい…そんな気持ちを抑え小さな鈴をポケットから取りだした。
「あのー…これみせれば安くしてくれるって聞いたんですけど…」
「なんだい…それ? …ああ、姉さんに会ったんだね…。なるほど…。貸してあげたいんだけど、あいにく貸せる部屋が一部屋もないんだよ。…でも、まあ…あの気難しい奴からそれを貰うなんて大したもんだ…。どうやって、もらったんだい?」
「実は幽霊を退治して…」
「なに! 君は幽霊を退治できるのかい!?」
「いや、退治というか…。納得して、でてってもらったというか…」
「まぁ、どっちでもいいよ。実は一部屋だけ空いているんだけど、数日前から変なラップ音がしだして客を泊めれないんだ。どうにかして貰えるんなら、しばらくタダで泊まっていいよ」
…数日前? …なにか引っかかるな。
「…アリス、どうする?」
「いやっていいたいところだけど…ここにくるまで、ものすごい人だかりだったでしょ? ここ以外も空いてるか怪しいわ…。…なにかイベントがあるのかしら……」
「…それならポスターが貼ってあるよ」
「……これか…」
そのポスターには第三九回闘技大会開催と書かれていた。よく見ると、豪華賞品有りと書かれている。確かにやたら体格のいい人とすれ違ったのはそういう理由かもしれない。
「猫さんも困ってるようだし、アルがなんとかしてくれるなら助かるけど…」
「…わかった。しばらくアリスはここで待っててくれ…」
「わかったわ」
「…赤猫さん、鍵くれないか?」
「はい。…先生、よろしくお願いします」
僕はかわいい猫のキーホルダーがついた鍵を受け取り二階にあがった。部屋に入ると前回の宿屋とは違い、誤魔化しのない普通に綺麗な部屋だった。数日前まで貸し出されたというのもよく分かる。
「よし、やるか…」
部屋に入り鍵をかけてカーテンを閉め、ベットに寝そべった。なかなか心地良い…。僕はステータス画面を表示させて、プレイデッドの画面を開き、前回と同じように設定した。
…まあ、自分の為じゃないから裏スキルを使っても問題ないだろう。
「魔人化はしなくていいか…。恐らく幽霊の正体は…」
僕は目の前の椅子を見ながら、ある予想をしてプレイデッドを発動した。
「やっぱり…」
起きあがると目の前の椅子には予想通り黒髪のエルフ…シルフィーが座っていた。今度はワンピースじゃなくて白くてモコモコした秋服を着ている。
…こいつ、成仏したんじゃなかったのか?
「…シルフィーどうしたんだ?」
「だっ、だれ!?」
「ああ、えーと…アルだよ」
「…アル? 全然この前と違うじゃない! 驚いて損した…」
「シルフィーも前とは違う格好じゃないか?」
「…えっ? ああ、気付いたらここにいてこうなってたの…」
不思議そうな顔をしてシルフィーは、右手を上げ服を見つめていた。
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