第21話R

「うーん…。まだなにか未練があるのかもな…」

「未練ね…。…なにか忘れてるかしら……」

「…思いだせないのか?」

「…まったく……」

「なにかしてほしいこととかないのか?」

「…うーん。…しいていうなら……」

 目の前の黒髪のエルフは立ち上がり、恥ずかしそうに口をとがらせた。なんとなく検討はつくが、あえて触れないようにするべきなのだろうか?

「……」

「…早く…しなさいよ……!」

「………キスしろって事?」

 そもそも、触れられないだろ…。

「気分だけよ、気分…。あなたの事はあんまりタイプじゃないけど…。仕方ないわよね……」

「……」

 …こいつ、さらっと酷いこというな……。

「…生きてる時、忙しすぎて恋もできなかったのよ。…あれ? そういえば、なんで忙しかったのかしら? …まぁ、そんな事はいいわ……。…で、ダメなの? こっちだって妥協してるのよ?」

 好き放題いいやがって…。まぁ、正直可愛いいので悪い気はしないけど…。

「…わっ、わかったよ。…するから成仏するんだぞ。早く目を閉じて…」

「…うん」

 シルフィーの目が閉じたのを確認すると、僕も近寄って目を閉じ唇の辺りをめがけてキスをした。まあ、触れられないので感覚は全くないのだが…

「……」

「……」

 …そろそろ、いいかな……。

「…シルフィー、これでいいのか? …って、あれ?」

 数秒して僕がゆっくりと目を開けると、シルフィーの姿はどこにもなかった。

「……」

 …成仏したのかな……。



 突然の恋愛シミュレーションゲームにないはずの心臓がドキドキと脈を打っているような高まる気分で、しばらく窓の外を見ていたが、落ち着きを取り戻した僕はプレイデッドを解除し、階段を降りて赤猫に幽霊が消えたことを説明した。

「…これできえたとは思う……」

「よかったにゃー。おっと、猫語がでてしまった…。まぁ、約束通りしばらくタダで泊まっていいよ。あと、これあげる…」

 赤猫は箱の中から小さな赤色の鈴を取りだして僕に手渡した。僕は小さな鈴を受け取ると、少し揺らして見たが、音色も白猫にもらったものとそっくりだった。

「…同じのを俺は持ってるぞ?」

「それは姉さんのさ…。これは僕の…! 鈴をいっぱい持ってたらいいことあるかもよ」

「…そうなのか? じゃあ、ありがたくもらっておくよ…。……じゃあ、アリス…二階にいこう」

「ごほんっ…。私は、ミトでしょ?」

「ああ、ミトさん…。二階にいくよ」

「りょうかいー」



 僕は部屋に入ったあと柔らかいソファーに横たわり、ステータス画面を開いた。そこまで時間が経ってないので問題ないとは思うが、こまめに状況確認をしておくのは、クリアするには一番重要な事だ。

「点滅はなし…。それに本は見れないと…」

 現状はそこまで警戒しなくてもよさそうだな。…なら、時間もあるしギルドにいってみるか…。もしかしたらなにかヒントがあるかもしれない。

「アリス、俺はしばらくギルドにいってくるけど…。…アリスはどうする?」

「さっきので疲れたから、ご飯食べて少し横になるわ…」

「そうか…。じゃあ、いってくる」

「いってらっしゃいー」


 僕は背伸びしている赤猫にギルドの場所を聞いた。赤猫はマップを広げて、小さなメモ用紙を取り出し、器用に行先を書いてくれた。

「…それなら街の中央付近にあるよ。書いとくよ」

「…そうか、ありがとう」

「いえいえだにゃ…」

 さて、いくか…。…ん? …なんだこれは?

「…ひとつ気になったんだけど、この看板に書いてある…お客様限定!モフモフしながら無料撮影!?宿泊料金半額チャンス!…ってなんなんだ? ……もしかして…お触りできるのか!?」

 ふと横を見るとカウンターに妙な看板が立て掛けてあったのて興奮しながら赤猫に尋ねると、ため息をついて赤猫は嫌そうな顔をして答えた。

「はぁ…。よく下の方をみてよ…」

「…した?」

 看板を見ると下の方に小さくなにかが書いてあった。そこには赤い太文字でこう書いてあった。

「美女限定…」

「そういうこと…。…でも、基本的には女の子なら写真撮影は誰でもオッケーだよ!」

「…俺は?」

「当然、無理だよ」

「…幽霊の件、解決してあげたよね?」

「…男に抱かれる趣味はないんだ……。こっ、これ、あげるから勘弁して……」

「…なんだこれ? …ニャーニャーチケット?」

「僕の故郷にあるお店の割引チケット…。…おさわりし放題……」

「……」

 仕方ない…。さっさといくか…。

 僕は胸ポケットにそれを入れ、辺りの様子を見ながら目的地まで歩いていった。落ち着いたら、今度いってみよう。




「なるほどね…」

 この街にはドラゴンとコビットが少しいるくらい。…あとは金髪のエルフばっかりだな。…というか人間の僕が歩いていて大丈夫なのか? 下手をしたら神族と勘違いされて襲われたり…。

「……」

 …いや、街中を歩いていても驚かれないところを見ると人間自体はどこかにいるのかもしれないな……。

 そんな事を考えていると目的地らしき場所が見えてきた。

「…ん? …あそこかな?」

 焦げたような黒い木で作られているビンテージ風の建物は、周りの建物とは違う雰囲気を醸し出している。看板が立てかけてあったので見てみると、見たこともない文字だったが、不思議な事にギルドと読める様な気がする。

「どんなクエストもお任せください。ご連絡はこちらまで…か……」


 中に入ると、そこそこ人はいるようだったが、風貌を見る限りは、ここにいるほとんどの人間は依頼者というよりは、冒険者ってやつなのだろうか? 筋骨隆々の逞しい身体、傷の入った腕、ちょっと近づきたくないようなやつらばかりだ…。

「…とりあえず、受付探すか……」

 僕は迫りくる巨体にぶつからないよう細心の注意をして前に進むと、カウンターの様なところに女性が立っていた。明らかにここにいる人達とは違って賢そうな人に見えた。

「お次の方…どうぞー」

「……」

 周りを見渡したが、誰もいないようだ。整理券番号の様なものも持っている人もいない。そんな事を考えていると、受付の女性と目があった。

「お次の方…どうぞー!」

「はっ、はい!」

 たぶん、僕がいっても問題ないだろう。

「それで…今日は依頼ですか? …受注希望ですか?」

「えっと……。…あれ?」

「…どうしました?」

 …ん? …この人…耳が尖ってない? まさか、人間か!?

「…なあ、あんた人間か?」

 綺麗なフリフリのスカートをつけた敏腕美人秘書みたいな女性は、さっきまで笑顔だったのに冷たい目をしながら答えた。

「…貴方も人間…ですよね? …ご用件は?」

「ああ、いや…その…」

 確かに人間に人間ですよね?って質問はまずかったかもしれない。

「…なければお帰りください」

「あの…僻地からでてきて…同じ人間にあったのも初めてで、右も左もわからないんですが、ギルドのシステムを教えてくれませんか?」

 僕が不安そうにいうと受付のお姉さんの目は優しくなった。

「すっ、すいません。そういった方だとは…たまにいるんです。差別主義者みたいな人が…。…ですが、貴方のような方もたくさんいます。ここには仕事があります…。一緒に頑張りましょう!」

「ええっ…ああ、はい…!」

「それでは説明を始めます」

 …説明を聞くと、つまりこういう事だった。説明を聞くとギルドというのは短期間アルバイトの斡旋所みたいなところで仕事を随時募集している施設なのだ。



「…という事です。おわかりいただけましたか?」

「はい。なんとなくですけど…」

「それはよかったです」

 まあ、確かにゲームの世界でもそんな感じかもしれない…。でも、ゲームはクエスト非達成で報酬ゼロになっても、またやり直せばいいかー…なんて甘く思えるけど、リアルで完全成果主義だと相当きついな。

「あの…今の話とは関係ないんですけど、さっきの差別主義者ってなんなんですか?」

「それは…」

 それから話していく内に受付のお姉さんの冷たい目の理由も分かった。実は、神族イコール人間みたいな感じで神族が滅ぼされた後に人間は差別されてきたらしい。最近は表面上にはでていないが、今でもいるのはいるそうだ。

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