第17話R

 僕は怒りにふるえ、タオルで全身を吹きドライヤーのようなもので風魔法を使い頭を乾かしバスタオル一枚腰に巻きアリスの帰りを待った。

「ただいま…って!? なっ、ななななんでバスタオル一枚でいるのよ!」

「…早く!」

「…えっ!? ななっ、なにが!?」

「早く買ってきた服をくれ! 早く!」

「あっ、そっ、それね…。これでいい?」

 青と白の半袖に灰色のズボン、普通の服だった。僕は上着を脱ぐと、アリスはくるりと後ろを向いた。

「ああ、これでいい。悪いが後ろを向いてくれ」

「ごめんなさい。その…そんなに怒ってるとは思わなくって…」

「いや、勘違いしなくていい。アリスが原因じゃない。俺はコーラを顔面にぶっかけられようが、大抵の事は許せる…。だが、やつは越えてはならない一線を越えたようだ…」

「や、やつ?」

「ああ…神だ! 教会にいってくる!」

「ええ…。よくわからないけど、服洗っとくからね」

「ああ、助かる」

 僕は全速力で教会へ向かった。このまま一晩過ごすなんてゴメンだ…。完全に閉まる前に急がなくては…。



「おお、君は先ほどの…。探していたんだよ」

 教会の扉をドンドンと叩こうとしたが、よく見ると隙間から光が漏れている。鍵は閉まってないようだ。

「よかった…。間に合った…」

 中に入ると信者らしき人が数人いて、一番奥にいる司祭は僕を見つけると駆け寄り話かけてきた。僕は片膝を地面につき、それっぽい感じでお願いした。

「司祭様、お願いがあります。少しの間この教会の中で一人にさして下さい。神が望んでいます」

「おお、神が…わかりました。みなさん外へでましょう」

 司祭様は、中の人達を先導し連れ出してくれた。そして、扉が閉まったのを確認すると僕は叫んだ。

「…このポンコツ神がぁあああ! でてこいやぁああああ!」

「なっ、なんで、怒ってるんですか!?」

「…なんで? お前、あの光の輪をどこにつけた?」

「見えるから嫌だといわれたので、もう一つの可愛いあなたの頭につけましたが…。それにかなり重要なところだと認識しています!」

「お前はバカなのか!? なあ、バカなのか!?」

 僕は神様の銅像に向かって悪態をついた。この光景をさっきの人達に見られたらドン引きだろう。でも、関係ない。

「…バカバカいわないでください」

「みえなくするとかあるだろ!?」

「そんな難しい事できません!」

「…じゃあ、けしてくれ」

「うーん…。もう…つけちゃったので、ちょっと難しいですね。移動させることならできますけど…」

「…まさか、外せないのか?」

「解除条件は世界を救うまでです。簡単に外れちゃいけないので、かなーりがっちりつけたんですけど…」

 …解除条件…厳しくないか……? …まぁ…それは仕方ないにしても…。

「…わかった。せめて…腕輪っぽく出来ないか?」

「それなら大丈夫ですよ。では、左手に移動させます」

「ああ…」

 光の輪がスッーと移動して、左手首についた。さっきよりは相当マシだが、まだ不満がある。

「…これでどうでしょう?」

「あと…これじゃあ目立つから、ピカピカ光らないようにしてくれ…」

 これじゃあ、まるで…イベントの参加者だな…。いったことないけど…。…っていうか、敵にモロバレじゃないか……。

「わかりました」

 神様が詠唱するとピカピカ光る輪が金属製の腕輪になった。六つの羽根に孫悟空が頭につけてるようなグルッとしたデザインが腕輪に彫られてあった。

「…これでどうでしょうか?」

「……まあ、これならオッケーだ」

「ふぅ…。よかったです」

「よくはない…。いいか覚えておけ! 今後…絶対にあそこにはつけるんじゃない!」

「うーん。痛みでなにもできなくなるって聞いたんで、あそこにしたんですけど…。難しいですね…。覚えておきます…」

「わかればいい…。じゃあな…」

「はい。頑張ってください」

「疲れた…。さっさと帰るか…」

 教会の扉を開けると、驚くべきことにとてつもない数の人達がいた。来るときはあんなに人がいなかったのに、ものの数分でなんでこんなに人が増えてるのかわからない。優に百は超えるだろう。


「なっ、なんだ!? …この人の数は?」

 …何があったんだ……。

 僕がでてきた事を確認すると司祭が近づいてきたので、慌てて司祭を教会の中に入れて扉を閉めた。

「…司祭様、ちょっと入ってください。…なんですか、これ?」

「はい…。一目あなたをみようと駆けつけてきたのです」

 元凶は俺……。いや、あいつか……。

 僕は奥の銅像を睨めつけたあと、司祭に話しかけた。なんか遠くの方から小さな声で言い訳を言っていそうな気もしたが、今度会ったときに文句を言ってやる。とりあえずは…早く逃げよう。これ以上増えたらまずい…。

「…司祭様、裏口はありますか?」

「…裏口ですか?」

 竜族や魔族が近くにいるかもしれない…。さっきのアリスの話を聞く限り、顔が売れない方がいいだろう…。

「私は神の使いなのですが、使命の為には目立ちたくないのです。深くは言えませんが、実は…」

 僕は適当に話を作って司祭にそれっぽい感じで話をした。まぁ…適当っていっても、全くの嘘じゃない。僕がここから無事に脱出したあとも、イタズラかなにかだったということにして犯人は消えたことにしてほしい事を伝えた。

「……そうだったのですか…。それは申し訳ない事をしました。では、こちらへ…」  



 司祭の後についていくと、部屋の中にある大きな時計台の前へついた。古びた時計は壊れて時間が止まっているようだ。だけど、妙だ。辺りを見渡しても裏口は見当たらない。

「…ここになにかあるんですか?」

「はい…。少しお待ち下さい」

 司祭が時計の中の板を外すと、大人一人入れるくらいの穴があいていた。僅かだが風の流れを感じる。

 …なるほど、隠し扉か……。

「…ここからでられるんですか?」

「使った事はありませんが、抜け道になっていると前の司祭より聞いています」

 使ったことはないか…。まぁ、仕方ないか…。

「…ちなみに前の司祭はいつ頃使ったんですか?」

「…五十年は経っているかと……」 

「五十年……」

「…確かに時は経っていますが、頑丈には作られているようです。…裏口もありますが、人の目もありますので……」

「わかりました…。では、司祭様…後はお願いします…」

「天使様…神の御加護を…」

 僕はライターほどの火をだして、狭くて暗い穴の中をなんとか入っていった。しばらく歩いたが、確かに誰も入ってなかった割には綺麗だ。問題なく歩ける通路が残っている。もちろん苔は生えて、カビっぽい匂いは少しするが…。



「……」

 結構歩いたけど…。中は意外と広そうだな。奥の方は暗くてなにも見えないけど…。

「…ん?」

 すると、少し離れたところが、ゆらゆらと揺れていた。一瞬、人影かと思ったが、そもそもこんなところに人がいるわけない。

「…何なんだあれ……?」

 ゆらゆらっていうか…。なんか近づいてきてないか…。まさか…モンスター…。まっ、まさかな…。…いや、モンスターじゃないか!? 

 そこには頭に草がたくさん生えた大根のようなモンスターが目を光らせていた。火力をあげてよくみると、僕の周囲をたくさんのモンスターが囲んでいた。

「ギュ〜…」

「黙って通してくれると、助かるんだけど…」

 どうやら、言葉は通じないみたいだ。僕は手のひらから大きな火の玉を上空に浮かせた。数十体ってところか…。周囲の状況を確認しながら、剣を素早く抜き、敵のステータスを確認した。

 HPは100…。そこまで強くないけど…。でも、裏スキルを持ってるかもしれないし、できれば倒したくはないな…。

「…ギュ!」

「くっ…!」

 僕が油断してそんな事を考えていると、背後からの攻撃に気付けずに頭突きをもろに食らってしまった。ダメージはそこまで受けてないが、僕は体勢を崩してしまった。

 まずい…。逃げるか…。でも、こんな暗闇の中じゃ、逃げ切れないかもしれない…。

「…ん?」

「…ギュ…ギュ…」

 …どうしたんだ? このモンスター…。

 さっき体勢を崩したときにたまたま攻撃があたり、葉っぱの部分を刈り取ってしまったモンスターがいたが、目をつむり寝転んでいた。HPは減っているが、死んではないようだ…。

「ギュ〜…」

 しばらくみていると眠そうな顔をして、地中の中に入っていった。僕は左手を前に出して、魔力をた溜めていった。

「なるほど…。弱点ってことね…。ファイヤーボール…はまずいか…。じゃっ、ウインドカッター!」

「ギュ、ギュ…!?」

 風の刃が彼らを吹き飛ばしながら斬り刻んでいった。僕は敵が怯んだうちに、間合いを詰めて、剣と魔法を使い、どんどん刈り取っていった。すると、予想通り大根型のモンスターはどんどん地中の中に潜り込んでいった。

「これで最後…!」

「ギュゥ……!」

「ふぅ…。終わったな…」


 戦闘を終えて少し休憩した後に、しばらく歩いていると石で作った螺旋階段が見えた。上からは月明かりがさしている。

「やっと、ゴールか…」

 それを登っていくと地上にでることができたが、登っている時に妙なデジャブが浮かび上がってきて、僕は立ち止まった。

「なんだ…今の…」

 まただ…。ここに一度来たことがある気がする。でも、それは夜じゃなかった…。太陽の光が指していた気がする…。

「……そんなにわけないか…」

 疲れてるみたいだ…。早く…ここから出るよう…。



「けほっ…。どうやら、村の外にでたみたいだな…」

 どうも出口は古井戸を偽装して使っているみたいだった。辺りをよく見ると、上蓋のようなものがあったが、壊れて真っ二つに割れていた。

「汚れちゃったな…」

 せっかく買ってきて貰ったのに申し訳ないな…。

「おわびにコーラでも買って帰るか…」

 僕は服についた落ちない汚れを必死に手で叩いていると、後ろからただならぬ気配を感じた。この気配は…。

「…待ってたわよ」

「…アーデル……!?」

 部屋にいたときの姿とは違う。スネークイーターズも解除していないのに、彼女は元の魔人の姿に戻っていた。

「…幽霊でも見てるのかって、顔してるわね」

「……どうしてここにいる?」

「貴方にぶっ殺されたからかしら…。それとも殺されなかったからかしらね」

「…俺は殺してなんか……」

「…私も私の事を知る必要があるのよ。貴方と同じでね…。だから、ずっと貴方が一人になるのを待ってた…」

「…へぇ……。…っ! …抜けない!?」

 僕は剣の柄をゆっくりと手探りで握ろうとしたが、あちらの方が上手だ。氷の魔法で剣は封じられ、鞘から出すことができない。彼女はその隙に僕の喉元をつかんだ。

「…今回は私の勝ちね? …負けましたは?」

「…っ!」

 …やられる!?

 そう思ったが、彼女は僕の予想を裏切り、何故か喉元を掴んでいた手の力を弱め、僕の顎をクイッと引っ張った。

「…負けましたは?」

「……」

「…ねぇ?」

「……」

 …どういうつもりだ。…というかこいつ……。…ってか、めちゃくちゃ煽ってくる…。

「…なんかいったらどうなの? それとも…負けましたもいえないの?」

「…ぐっ…負けました」

「はははっ…面白かった…。じゃぁ、後は…罰が必要ね……」

 彼女は僕の口元に唇を寄せてきた。僕は驚いてあたふたしていると、額に思いっきり衝撃が走った。

「…騙したな……」

「…お互い様よ」

 彼女は無邪気に笑っていた。この姿だけ見ると、この前のような殺気は感じ無い。本当に悪ふざけしているだけにしか見えなかった。とりあえずは、警戒を解いてもいいのか?

「…どうやって…その姿に戻った?」

「…夜だけは戻れるのよ。でも…貴方が犯人だったのね」

「犯人ってわけじゃ…。…勝手になったんだ……」

「まぁ…いいわ…。この姿のほうがちょうどいいでしょ…。それより…実は貴方にお願いがあってきたの…」

「…お願いって? …って、それ俺のお財布!?」

「半分もらっていくわ。この姿だと色々不便でね…。でも、こうなったのも、元々は貴方のせいだし、仕方ないわよね?」

「…お前が襲ってきたからだろうが!」

「…はて…なんのことかしら? おっと…そろそろいかないと…。はいっ、返すわよ!」

「……おっ、おいっ!」

「…じゃあ、また会いましょう…」

 彼女はカエルの財布を僕に投げ、スッと上空に飛んでいき、闇夜に消えていった。そこに残ったのは静けさと虚しさだけだった。

「……」

 ……あいつ…次は負かす……。

 僕は雑貨屋により、パンとコーラを買ったあと宿に帰った。なんだが、色々ありすぎてドッと疲れた一日だった。

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