第5話R

「死ねぇーーー!」

 彼らは驚くほど従順に本能に従い、まるで血にうえた獣のようになんの躊躇いもなく襲ってくることに僕は恐怖していた…。だけど…一方で僕は冷静だった。僕はすでに準備していたのだ。奴らの頭上に強烈な雷が落ちることを…!

「…サンダーボルト!」

 ゴブリン達の頭上に紫色の雷が空気が裂けた音と共に落ちた。僕はその音と共に立ち上がったあと、ゴブリン達の隙間を駆け抜けて投げ捨てた剣を拾い鞘から抜いた。

「……」

 僕は倒れた人を庇うように次の攻撃に備えて構えていたが、ゴブリン達はバタバタと倒れ、それからもう動くことは無かった。




「……倒したみたいだな」

 僕がわざわざ取り乱した態度を取ったのは理由がある。まずはこの倒れた人に魔法がいかないように自然にこちらに来てもらわないといけないからだ。

二撃目を考えてこの人のそばに剣を投げたのもそうだ…。

でも…まぁ…一番の理由は違う……。それは……。

「…武装解除したやつに襲いかかってくるんだから…。仕方ないよな…」

 このゴブリン達を倒す正当な理由だ。どんな小さな理由でもいい。僕は僕を納得させる理由がほしかった。

「でも…」

 強そうな力を見せつけて、脅すくらいにしとけばよかったのかな…。

 雷で焼け焦げたゴブリン達を見ると少し可哀想にもなっていた。命のやり取りをしたもの同士が、本来あってはいけない感情を胸に抱いたその時だった。

「…なんだ…?」 

 ゴブリン達の体はバラバラに崩れたかと思うと小さな紫色の怪しく輝く結晶となり、僕の体にスッと吸い込まれていった。なんとなくだが、体の奥が熱い。

「……経験値か……? ……ほんと…ゲームみたいだな…。……ステータス。………でも…レベルアップはなしか…。おっと…そんなことよりも…」


 僕はゴブリン達の持っていた道具袋を漁った。何も今そんなことをしなくてもいいだろうと思うかもしれないが、僕は違うと思う。もう一つ片付けないといけないことがあるのだ。そう…この子の事だ…。

「…えっと…これはポーション? …んで、これはただの紐…。わりと頑丈そうだな…。それに…よくわからん缶詰…。ゴブリン達の食べもの…か…?」

 うーん…。近くに村もあったし…これを食べるのはよしておこう…。でも、缶詰があるってことはある程度文明が発達しているのかな…。まあ…それを考えるのはあとにしよう…。

「…あとは…汚っ……何かこぼしてるな…。…地図に……。あった…。この子の似顔絵だ…」

 僕はベトベトになった地図と似顔絵をつまんで取り出した。似顔絵は滲んでいてほとんどダメになっていたが、フードを被った女の子の似顔絵は辛うじて見えた。恐らくはこの絵の人物とあそこで倒れている人物は間違いないだろう。

「うーん…」

 ゴブリン達の知能から考えて、もし…計画的犯行だとしたらこういったものがあるとは思っていたけど…。魔王とか言ってたし…ここを早めに立ち去ったほうが良さそうだな…。ちょうどいい事に紐もあるから、まずはこの人間の両手両足を縛るか…。

「ちょっと痛いかもしれないけど、勘弁してくれよ…」

 僕は紐を手に取り気絶している女の子を慎重に縛り始めたが、グルグルと手や足を縛ると少し悲しい気持ちになってきた。

「……なんだか、俺が悪者みたいだな…。でも、仕方ないよな…」

 ゲームであればこの人はゴブリンに襲われていた良い人ってことになるが実際には悪い奴と悪い奴って構図もあるだろう。まあ悪い奴って定義も難しいのだけど…。


「よし、取りあえず縛りは完了…。さてと…この人を起こすか…。おい、起きてくれ…」

 僕は頭のフードを外した後に頬を軽くたたいた。フードを外すと肌が白く、ツヤツヤとした長い金髪の女の子は外国人のモデルのような可憐さだった。

「…あれ?」

「…んっ?」

「この子、耳が長いぞ…。まっ、まさかっ、さっきの絵は!?」

「……だっ、だれ!? …え!? 縛られてる! …さっきのゴブリン達の仲間ね!」

「まっ、まて! 敵じゃない!…と思う…。さっきのゴブリン達なら…」

 僕はゴブリン達のボロボロになった装備がおいてある場所を指差した。彼女の顔は最初はひきつっていたが、次第に現状を理解していったようだ。なかなか強い子なんだろう。

「…あなたがやったの?」

「まぁ…一応…」

「助けてくれてありがとう…。あなた、人間みたいね…。…雇われたのかしら?」

「通りすがりだよ…」

「通りすがり…? こんなところを…?」

「まぁっ、まぁ…理由があって…」

「とっ、ところで縄を外してくれない? 痛っ! これ…外れなくって…」

「ああ…。全ての質問に答えてくれたら外すよ…。答えられなければ君もああなる…」

 …もちろん脅しである。

「…味方ではないってことね……」

 僕は彼女の肩を掴んで、精一杯悪そうな顔をした。僕の三文芝居に騙されてくれるか不安だっが、彼女の顔は段々と強ばっていった。

「…まず一つ目に君はエルフかい?」

「ええ…」

「……二つ目に…耳触ってもいい?」

 少し興味本位でそう聞くと、とてつもないくらいに睨まれた。ほんの出来心だったのに…。

「断るわ…。触るというなら触ればいい。だけど、あなたを絶対に許さないわ…。少しでも触れれば…私はここで……」

「まっ、まって!? ごっ、ごめん。そんなに怒ると思わなくって…。今の質問はなし…」

 …すごく残念だ……。

「…知らないのかもしれないけど女のエルフの耳は大事なとこなの」

「大事なとこ?」

「にっ、人間で例えるなら…むっ、胸とかよ…」

 なるほど…。いきなり胸を触らせてくれといわれたら怒るよな…。

「ごめん。俺の住んでるとこじゃエルフなんていなかったから…。ほんとごめん…」

「……別に悪気が無いならいいわよ…」

「じゃっ、じゃあ…最後の質問…。何故ゴブリン達が君を襲ってたの? …魔王と関係があるの?」

 僕はさっきの似顔絵を彼女の目の前に差し出すと狐につままれたようにキョトンとしていた。僕は彼女の態度にまた変な質問でもしたかと不安になった。

「…私が誰だかわかってないの?」

「…どういう意味?」

「…いえ、なんでもないわ……。まぁ…簡単に言うと…エルフの力を使いたい魔族達が私を襲ったってわけ…」

「わかった…。…ゴブリン達が襲っていたのはそういう理由だったんだね。もしかしたら、君も悪いやつかもって思ってたんだ…」

「わかったなら…そろそろ縄…解いて…腕が痺れて…」

「ごめん、すぐに縄を解くよ…」

 僕は彼女の手と足の縄をちぎった。彼女は手や足の状態を確認すると、起き上がり軽く会釈をした。



「まずは助けてくれて感謝するわ」

「お礼はいいよ。腕痛かっただろうし…」

「…腕?」

「…痛かったんじゃないの? 軽く縛ったつもりだったんだけど……」

「あっ、あんたが縛ったの!? バカじゃないの!?」

「だっ、だって…ゴブリン達が複数で襲うほどの実力を持ってるんだよね…?」 

「いや…それは…違うというか…」

「…違う?」

 ものすごい剣幕で怒ってきたが、僕の言葉に彼女は何故か言葉を詰まらせていた。謙遜しているだけなのか…それとも、なにか言えない事情でもあるのだろうか? 

「ごほんっ、ごほんっ…。まっ、まぁ…縛ったことは大目に見るわ…。感謝してよね…?」

「…えっ? …あっ、ありがとう……」

「…でも…あなた人間にしては強いのね? …そうだ! …ボディーガードとして私に雇われない?」

「…ボディーガード?」

「…まだ…この辺りに奴らの仲間がいるかもしれないでしょ?」

「それは…そうかもしれないけど…」

 どうしようかな…。特にいくあてもないし、世界の現状を知るためには少しぐらい旅をするのもいいかもしれない…。

「…どうなの?」

「ちょっとまって…」

「そうだ…。…裏スキルの……。…あった! マリシアウルネクスト…さっきの点滅は消えてる…。つまり、現状の脅威が消えたという事か…。…ということは魔王が悪意という事なんだろうか?


「…さっきからなにやってるの?」

「…えっ? 君には見えないの? このステータス画面?」

「…ステータスは装置とか使わないと見えないでしょ?」

 僕には見えるんだけど、普通じゃないのか…。まあ、神様がくれたスキルだから珍しいのかな…。

「…わかった。どこまでボディーガードすればいいの?」

「ここからニ、三日、北に進んだところにエルフの王都があるわ。まぁ詳しい事は宿屋で話すから、まずは近くの村までいきましょう」

「あの…」

「…どうしたの?」

「……ゴブリンはいないよね?」

「あっ、当たり前でしょ!」

 エルフの女の子と共に迷いながら森を抜けると村が見えた。気持ちいい風が吹く中、僕達は村の中に入ると、そこには驚く事に人間だけではなく小人やエルフやドラゴンが歩いていた。



「小人やドラゴンまでいるなんて…。本当にすごいな…」

 …本当に異世界だ。

「あなた、他の種族見るの初めてなの? でも、コビット族の事を小人って言うのはやめた方がいいわよ。コビット族はそういうとドワーフと一緒にされているみたいで怒るの…」

「そうなのか? 気をつけるよ…。…でも、家とかは普通なんだな」

 僕はワクワクしながら辺りの景色を見ると木やレンガで作ってある家がたくさんあり、道もある程度レンガで舗装されていた。村の規模の割りにはお店の数も多く外国の田舎のスポットって感じで、しばらく歩くと街の中心に小さな噴水があり、とてもきれいでのどかな感じがした。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る