第3話R
彼女が再び呪文を唱えると新しい靴が何処からともなく現れた。今度は青色の柔らかそうな靴で、履着替えた後に軽く動いてみたが、さっきより違和感がない。…というか、履き心地が良すぎてまるで靴を履いてないみたいだ。
「…うん、これでオッケーだ」
「では、最後にお金とポーションを少し渡しておきます」
「なんだか急に冒険っぽくなってきたな。…そういえば疲れにくくなる薬みたいなのはないの?」
僕は神様からお財布とポーション入りの瓶を受け取ったあと、腰につけたバッグにポンポン入れていった。
「その靴自体が疲れにくいです。貴方の装備品には魔法がかかってます。まあ、普通の人だとレベル99…つまり完全にレベルの上限一杯までにはなってると思います」
「へぇ…。…えっ、そんなことしていいの?」
なんか…チートっぽいけど…。
「あくまで普通の人です。人間の枠からはでていないのでオッケーです。それにレベルが高ければ強いとは限りません。気に入らなければ魔法を消しますよ?」
…確かにゲームでもレベルなんて関係ない時があるよな。
圧倒的な経験やテクニックで高レベルのキャラクターを使うアマチュアをボコボコに倒すゲームの実況動画をふと思い出していた。
「なるほど…。裏スキルもあるけど、裏レベルもあるってことね…。…じゃあ、このままでいい」
「わかりました…。…他に聞きたいことはありますか?」
「ん~。いや…特にないよ」
「わかりました。…それでは、健闘を祈ります」
「じゃあ、いってくる…!」
「お気をつけて…」
僕は不謹慎だとは思いながらも、ほんの少しだけ今から始まるゲームのような冒険にワクワクしていた。一歩一歩前に進み、目の前にある巨大な扉の前に立ち、両手で重い扉を思いっきり開け、新たなる旅路の扉をも開こうとした。だが、その時にとんでもない異変に気付いて、僕はそのまま氷のように固まった。
「……なっ、なっ、なんじゃこりゃぁああああ!」
目の前の僕は普段知っている僕ではなく何年も前の高校生の時の僕だった。僕は口をパクパクとさせながら、この意味不明な状況を上手く伝えようとしてみたが、やっぱりこんな時はシンプルな言葉しかでてこない。
「…どうしました?」
「どうしましたじゃない! なっ、なんで、若返っているんだ!」
「あっ、すいません。説明するの忘れてました。あなたの体力が一番ある時に戻したんです」
「…なっ、なんで、そんな事を!?」
「なんでって…。あなたの体力がないからですよ。嫌なら戻しますけど…。…どうします?」
……まあ、確かにデスクワークばっかりで運動もしてないから体力なんてないか……。…五十メートル全力疾走したら息切れする自信がある。
「……神様…これでいいよ。ただ、こういう事は驚くから先にいってくれ。…ほんと心臓に悪い。寿命が縮む……」
「だったら良かったです。今は縮む寿命がありません。ノーカンです。ノーカン! ノーカウント〜…」
「……」
「じょっ、冗談ですよ! 怖い顔しないでください。以後、気をつけますから〜…」
…以後なんてあるんだろうか……。
「…じゃあ、今度こそ行ってくるよ」
「はい。お気をつけて〜…」
完全に出鼻を挫かれたけど、過ぎたことは気にしないようにしよう。そんな事を思いながら、しばらくまっすぐ歩いていると辺りのピンク色の雲は消え、代わりに白い霧が段々と濃くなっていき、数分後には前も見えないほどの白い霧に僕は包まれてしまった。
「……このまま行ってもいいのか?」
引き返すにしてもさっきの扉はもう見えない。…というか、どこからきたのかももうわからない。…このまま進むしかないみたいだ。……でも、どっちに?
「…まいったな……。…どうすればいいんだ……。……ん? …何だあれ?」
僕が立ち止まっていると、急に真っ白く光る小さな四角い光が少し離れた場所に現れた。僕はそれに近づいていくと、段々と大きくなり、立ち止まっていても、真っ白く光る扉がまるで襲いかかって来るように僕の体を飲み込んだ。僕はあまりの眩しさに両目を閉じて、左手で顔を覆った。
「…っ!」
風が吹いた。ゆっくりと目を開けると、さっきいた場所とは明らかに雰囲気が違う。沢山の木々が天高く生い茂っている。そんな場所に僕は出ていたようだった。 試しに振り返ってみたが、さっきの光の扉は見当たらない。
「…ついたみたいだな。…さて…ここからどうするか……」
辺りを観察すると、草や木が人の歩くスペースを奪って生い茂り生えていた。道らしい道もなく、どうやら整備はされていない。つまり、この近くに人が住んでいる感じはないようだ。
「しまった! …モンスターでるのか聞いとけばよかった」
まさか人を殺めてレベルアップは嫌だぞ…。
「…うーん…まずは村にいくか……」
…だけど、どっちにいけばいいんだ? この辺はゲームと違う。NPCがいればどこに行けばいいのか教えてくれるのに…。まあ、まずは現状把握だ。視界に入った中で一番高い木に登ろう。
「……」
…だが、どうやって登るんだ? 木登りなんかしたことないぞ…。…というより力がなさ過ぎてできない。
「…ダメもとで登ってみるか。…よいしょ…おっと!? …あれ?」
僕は木の表面に思いっきり爪を立て力を入れた。そうすると柔らかいスポンジのようにズボッと指が入っていった。
「…腐ってる? まさか…」
僕は全力でジャンプすると次の瞬間、辺りの景色が一望できるほどの上空にいた。前髪がグジャグシャに乱れるほど風が吹き荒れていたが、そこでみる景色はなんとも最高だった。だが、そんな感傷に浸る間もなく、一つの疑念が湧いた。
…これが普通の人間のできることなのか?
「……違う…よな…?」
でも、さっきから落ちる気配がない。浮かび続けてる。だとしたら………魔法が使える前提での普通の人間か…!
「…魔法が使える……。 やったぞ…!! でも…おかしいな…。あんなに練習してもダメだったのに……。……まっ、まぁいいか…」
たぶんあのポンコツ女神のせいだったんだろう。そういうことにしとこう…。…さてと…お次はどんな魔法を……。……な〜んか引っかかる…。なんだ…? ゲーマーとして…何か重要な事を忘れてる…気がする……。
「…まっ、まさか!? スッ、ステータスはどうやってみるんだ!? …ステータス!」
僕が焦りながらそういうと、透き通った青色の四角いステータス画面がパッと目の前に現れた。僕はステータス画面から、ある項目を探して見つけると、背筋が凍りまくった。
「…あっ、あぶねえ……」
MPは98…97…やっぱり減り続けてる。
「調子に乗って空を飛び回っていたら魔力切れになって死ぬところだった。気付いてよかった……。…ん? …なんだあれ?」
よく見ると遠くの方に白い煙が立ちあがっていた。煙の長さから考えるとついさっきつけたって感じだ。
「…誰かいるのか? …近くまでゆっくりこのまま飛んでみるか……。…ん? …あっ、あれ? …はっ、はやっ、ぎゃあああああ!!!」
僕は目的地までゆっくり走るような速さで飛ぶイメージをしたが、まるで制御ができないジェットコースターに乗っているようなとんでもない速さで飛び出した。僕はあまりのその速さに地面に足がつくと腰が抜けてしまった。
「はぁ…はぁ…。しっ、死ぬかと思った…」。
なっ、なんて、速さだ。MPは…90か…。
「あっ、あんまり減ってないな」
…使用時間が短いから? …うっ、気持ち悪い…。
僕がハァハァいいながら苦しんでいると、ピロンとどこからともなくへんてこりんな電子音が聞こえてきた。
…なんだ、今の音は?
辺りを見ても特に変わった事もなかったので、もう一度ステータス画面をみると何故かステータス画面の一部が点滅していた。
「…裏スキル? なんだこの項目は? さっきまでなかったぞ?」
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