第2話R
「…うーん……」
そう言われると確かにRPGゲームをする人間は普段絶対にしないモンスターの殺戮を楽しんでいる。でも、それは本当に命を奪っているわけじゃない…。あくまでゲームだ。だから楽しんでできる。
「どうなんですか?」
「…うーん……。難しい問題だからもうちょっと待ってくれ」
…いや、そもそもこれはゲーマーとかそういう問題じゃないのかもしれない。むしろゲーマーだからわかる。プレイスタイル…その人間の本質だ…。ある日、世界で一番強い人間になったとしてその力を悪用しないと言い切れるのだろうか? 更にいえば現実世界とは関係ないゲームのような異世界で…絶対にしない!なんてそんなの口ではなんとでも言える。
「どうなんですか!?」
「…確かに神様のいう通り現実感のないゲームみたいな世界だったら、絶対に悪用しないとはいいきれないかもしれない。…もっ、もちろん、する気はないぞ!」
彼女は厳しい表情をしていたが、少し優しい顔になり、一息ついた。彼女の姿は確かに子供だが、時折見せる表情はなんというか大人びている。
「まあ、本当にあなたがそんな人だったらここには呼んでないです。でも、人間は憎しみや悲しみ…。そして、怒りで…前が見えなくなってしまうこともあるんです…」
「…ごめん。俺が悪かった。あまりにスキルがしょぼくて……」
「きっ、気持ちはわかりますが…」
「…でも、さっきの話を聞く限りでは影響を与えない程度のスキルは貰えるってことなのかな?」
「…全く立ち直るのが早いですね」
「どうなの?」
「まぁ…そのつもりですが、魔法を扱えるようにする基本的な初期スキルしか渡せません」
彼女の手から光り輝く球体が現れ、宙を回っていた。なんというか、とても幻想的だ。
「…それでは渡します」
僕の周りから、金色に輝く光の粒子が浮かび上がると、体が少し浮かび上がった。それと同時に彼女の手から解き放たれた輝く球体が僕の体の周りをぐるぐる周りスッと中に入っていった。
「…これでできるのか?」
夢にまで見た魔法がまさか夢みたいな世界で叶うとは…。
「はい。人差し指を前に出し大きな火の玉をイメージしてください。大きさ、色、温度、音…イメージ力が強ければ弱い魔法もとてつもない魔法になります。そして、イメージが固まったらファイアーボールと唱えてください」
僕は言われたとおり、人差し指を前に出し自分の想像できる最大の大きさ…。数百メートルの高熱に燃え続ける火の玉をイメージした。そして、色はあえて赤色だ!
「神様…いくぞ!」
「すっ、すごい。なんてイメージ力…。一体どんな魔法が…」
…人生初の魔法、最高の魔法を発動だ!
「いけぇ!! ファイアーボール!!!」
……ボッ。
それは大きな火の玉というよりはタバコをつけるにはちょうどいいサイズの炎だった。なんだろう…凄く…虚しい。
「…え? うそっ…。ぷっ…ダメっ…イメージ凄かったのに…。これくっ…だめ笑っちゃダメ…傷ついちゃう…。我慢っ…」
神様は自分の足をつねって笑うのを我慢していた。僕はその姿を見るとゆっくりと火を消した。
「…話が進まない。我慢しなくていい。笑いきるまで笑ってくれ」
「でっ、では、遠慮なく…。ぷっ…くはっはっはっ…」
…笑いすぎだ。
あの後、全ての魔法を試したが結局どれもこれも同じ結果だった。自分でもここまでひどいとは思わなかったが、水魔法は水鉄砲…、風魔法は扇風機…、雷魔法は静電気並みの威力だった。残りの二属性に期待したが、結局同じでアイスニードルと叫ぶと鼻水が凍ってツララになり、ダイヤウォールと叫ぶとシャーペンの芯がどっさりとでてきた。
「さっ、流石に笑えなくなってきました…」
「あれだけ笑えばな…」
「ごっ、ごめんなさい」
神様は笑いすぎて涙を流していた。少し笑いすぎだと思うが神も笑いすぎて涙を流すのかと少し驚いていた。でも…神を笑い転がす男…そんな称号は嫌だな。
「…これはどういうことなんだ?」
「…もしかしたら、裏スキルのせいかもしれません」
「裏スキル?」
「はい。ステータスには現れないスキルがあります。むしろ貴方の世界でいうと…」
「いわなくてもわかる…。センスなしだろ…。ぐずっ…」
僕は小学校の時の体育を思い出していた。跳び箱に突っ込んで、病院に連れて行かれたのは今でも覚えている。大した事はなかったが、頭にネットのような物をしばらく被せられ、ついたあだ名はスーパー玉ねぎだ。……せめて剣士をつけろよ…。
「どうしますか? 二番にしますか? 特別に旅にでなくても生き返らせますよ」
そんなことをいわれなくても、もちろん決まっている。
「三だ」
「わかりました。ニ番…えっ、三番ですか!?」
「俺はゲームの難易度は最高難易度でしかやらん! さあ、つれてけ!」
「本当にいいんですか?」
「…一応確認しとくが、あっちの世界で死んでも元の世界には生き返れるんだろ?」
「はっ、はい。…生き返らせますけど、ほっ、本当にいくんですか?」
「ああ…。…で、なんなんだ? その世界の破壊されそうって?」
「予知です。…ただ、遠い未来になればなるほど見るのが難しくて正確な事は私にもわかりません」
彼女が手を挙げて降ろすと、白い煙と共に雲の中から鏡のような巨大な扉がでてきた。金枠でできた豪華な扉だ。
「…でかいな。…これを通ればいいのか?」
「はい。一度通ると帰るとき以外はもう戻れません。準備はいいですか?」
「ああ…」
「では…。あっ、待ってください。武器や防具を渡すのを忘れてました」
「おっ、おい…」
大丈夫なのか…。この神様…。
あまりに流暢に話していたので、てっきり装備は現地調達してくれと言うことなのかと思ってしまったが、どうやらそうではないらしい。
「すいません。異世界に送るのはあなたが初めてで…」
彼女が呪文を唱えると茶色の革のジャケットに手袋とブーツ、鉄の胸当て、腰につける小さなバッグと剣が現れた。僕は早速着替えることにした。
「うーん…」
少しブーツが痛いな…。普段、履かないから違和感もある…。
「どうしました?」
「なあ、革靴って走り辛くて嫌いなんだけど…。…スポーツシューズみたいなのないか?」
「うーん…。そうですね…。材質の柔らかな物にしましょう」
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