クソスキルのせいでハードモードでニューゲームしたref
九楽
はじまり
第1話R
「ここは夢?」
そこは綿菓子のようなピンク色の雲が無限に広がる不思議な空間だった。
「やっと、起きました?」
可愛らしい声の聞こえる方へ振り向くと、淡い水色のフリルをつけた小学生くらいのピンク色の髪の毛の女の子が立っていた。
「俺、疲れてるな。夢を夢と自覚するぐらい変な夢を見たのは子供の時ぐらいだ。流石に小学生には興味ないぞ…。だが、これは俺の深層…」
僕が実はロリコンなんじゃないかと思っていると、彼女は言葉を遮って声を荒げた。
「まず私は小学生ではありません! 神様です! あなた疲れすぎて…今、死の淵にいるんですよ?」
「……ふーん」
「驚かないんですか?」
「まあ、夢だし…」
「まあ、皆さんそういうんですけどね。生きてるのが当たり前なので…。ですが…」
彼女はぶつぶつと念仏のように小言を唱え始めたが、僕は聞いていなかった。辺りを見渡すと静かでなんとも心地よさそうないい感じの空間だ。早く話を終わらせて寝よう。
「…で? …死神様がなんのよう?」
「死神じゃないです! むしろ生神です」
「…それで? 生神様がなんのよう?」
彼女は大きな溜め息をついて、腰に両手をあてた。幸せが逃げていきそうだなぁなんて思っていると、彼女はだるそうに口を開いた。
「…はぁー。…もういいです。簡単に説明しますね。今、私が管理している世界が何者かに破壊されそうなのです。それをなんとかしてほしいのです。まずは…」
「……」
話長いな……。やばい…眠くなってきた…。
僕はピンク色のふわふわとしたクッションのような雲に寝っ転がった。なかなか反発力が強い反面、不思議と体に馴染むように沈み込んだ。寝た事はないけれど、高級ベッドと比較しても引けはとらないだろう。……たぶん…。
「つまり……」
「……」
…気持ちいい。夢の中でも深く眠れそうだ……。
「…ということなんです。…って、何寝てるんですか!?」
「残業続きで眠いんだよ…。せめて、夢の中くらい…」
「寝てもいいですけど、まずは私の話を…!」
「…やだよ。めんどくさい。自分でやればいいじゃん。僕はもう一眠りするから……」
「……そっ、それが出来ないから困ってるんです! 話を聞いてくださいぃいーー!」
彼女は寝っ転がった僕に近づいて、僕の体をブンブンと揺さぶった。しかし、僕はそれに抵抗して閉店時のシャッターみたいに目を閉じ続けた。だが、その努力も虚しく、結局彼女に無理やり起こされてしまった。
「……やっ、やめろ! 話聞くから!」
「はぁ…はぁ…」
「せっかく気持ちよく寝れそうだったのに……。…それで…なんで俺に頼む必要があるの?」
「それがルールなんです」
「…ルール? 俺…ルールに縛られるの嫌いだな。別に俺以外でも…」
「…あなたにもメリットがあります。もし手伝ってくれたら生き返らせます」
「……それはルール違反じゃないの?」
仮にでも人が一人死んだんだ。それを生き返らすなんて世界のルールに反するんじゃないのか? ……設定甘いな…僕の夢も…。
「全く問題ないです。あなた一人生き返らせたところで世界になんの影響もありません」
「……多少はあるだろ?」
「全くありません」
「…ほんの少しくらい……」
「ありません」
僕は彼女のあっけらかんとしたその態度に少しカチンときた。流石に夢の中にしても、言っていい事と悪いことがあるだろう。僕は少しイジワルな事をしてやることにした。
「じゃあさ、そんな影響もない人間を送ってなにになるの? …ぷっ、神様って俺よりバカなのかな……。…っていうか、本当に神様なのかなぁ?」
「…私は神様です」
「……バタフライエフェクトって知らないかな?」
「…バタ…フライ? エビフライの仲間ですか? なぜ急に食べ物の話を…?」
「ははっ…違うよ。バタフライエフェクトってのは、ほんの小さな影響でも大きな影響になるって……。まっ…子供だから知らないか~…」
「……こっ、子供!? 私は子供じゃありません。これでも私は…」
「…なるほどわかったぞ! 子供じゃないなら、ポンコツ神だな」
「……ポン…コツ…神………?」
………自分の夢相手に何を向きになってるんだろう。
僕は自分の行いを少し悔いていると、彼女はふわふわと浮き始め、表情も変えず僕に近寄ってきた。
「…ん? なんだ…急に近寄ってきて?」
「…本当はこんな事はしたくありませんでした。ですが、信じて頂くには仕方ありません……」
柔らかい小さな手が僕の頬に触れ、彼女は顔を近づけてきた。…まさか、色仕掛けか!?
「…まっ、まてっ!? 顔が近い! 俺はロリコンじゃ…!」
「…この哀れな子羊に…神の裁きを……。……うぉりゃあああ!」
「…なっ!? …なにする!? …やめっ!? …ん? ……いたっ…。ちょっ、ちょっと離せって…! いただだ!! …やっ、やめろっぉおお!!!」
急に顔を近づけてきたので、変な事でもされるのかと思っていたら、僕の頬を原型がなくなるくらい容赦なくつねってきた。
その痛みは凄まじく、僕は情けない声を上げてしまった。
「……ふぅ…すっきりしました……」
「…うぅっ………」
「ごほんっ…。ほんとーうに心苦しいかったのですが…どうしても貴方に信じて貰うにはこうするしかなかったのです。なにせ…私はポンコツ神ですからね…!」
「…よっ、よくもやってくれたな! めちゃくちゃ痛かったぞ!ほんとにめちゃくちゃ……」
…痛い?
腫れ上がった頬がジンジンと痛む中、僕は彼女に文句を言おうとしたが、言葉に詰まってしまった。
…なぜ夢なのに痛いんだ? …ははっ…まさか……。
「…これで信じてもらえました? おバカさん?」
「……俺…本当に死んでるの?」
彼女は僕の問いに対し、コクリとうなずいた。僕はその事実にただただ愕然するばかりだった。
「…話、真剣に聞きます?」
「……はい」
僕は起き上がり正座すると、ピンク色の髪の毛の子は目の前に座り話し出した。どんな深刻な話をするのかと思っていたら、意外な言葉から始まった。
「今、あなたのいる世界でファンタジーゲームってありますよね?」
「ああ、あるけど…」
「簡単にいえばそんな世界です。レベルやHP、MP…。そして、魔法やスキル…。まぁ…そんな感じですね」
彼女は一冊の古臭い茶色の本をどこからともなく取り出した。その本は表紙がボロボロで文字もかすれていた。そして、パラパラとめくりながら彼女は説明を続けた。
「…それは?」
「貴方には三つの選択肢があります。まず一番、なにもせずに元の世界に戻る。これは死にます」
「…きゃっ、却下!」
流石に死ぬのは嫌だな。残業地獄の最高記録保持者といえど…。
「ニ番、適性検査を受けてしばらく旅にでてもらい適性がなければ元の世界に戻る。これは生き返らせます」
「……保留!」
「最後に三番です。ニ番に近いですが適性があり無事原因を排除し元の世界に戻る。これも生き返らせます」
「……ちょっと待って…。どっちみち生き返るんならニ番の方が楽じゃない?」
「続きがあります。もし、原因を排除…。つまり、世界を救ってくれた場合は、なんでも好きな願い事を一つ聞きます」
僕は冗談みたいな事をポンポンと言ってみた。彼女は僕の冗談みたいな質問に淡々と答えていたが、笑みひとつなく全く冗談を言っているようには見えなかった。
「つまり大金持ちになりたいとか…」
「はい」
「かわいい子と結婚したいとか…」
「はい」
「世界征服したいとか…」
「それはダメです」
「…まあ、そうだろうね」
「ですが、世界を滅ぼさない世界征服なら歓迎です。まあそれが無理なんですけど…」
つまり、影響範囲が比較的小さい個人レベルのお願いなら何でも聞いてくれるのか……。
「……例えば後で、その願いやーめたってのはできるの? ランプの魔神みたいに不幸な未来になりたくないしさ」
「…まあ、それぐらいはいいです。ただ、そんなことするぐらいなら最高の人生にしたいとか、そんな願いにすればいいですよね」
「…確かに……」
…しかし、願い事か……。どうしようかな? お金と女の子に不自由しない生活…。豪邸で 毎日、かわいい女の子とゲーム三昧……。………いっ、いや、ここはやっぱり世界平和だろ! でも…影響範囲狭いしな……。なっ、なら、仕方ないよなぁ…。
僕の頭の中では様々な欲望と妄想が繰り広げられたが、結局結論は出なかった。
「…悩むのは世界を救ってからにしてください」
「そっ、そうだな…」
「では…願い事の話はこのくらいにして、まずは適性検査を行います。立ってください」
膝に手をつき立ち上がると、しばらくして彼女を中心に光の粒子が浮き上がっていき、僕の体をキラキラと輝く光が包み込んでいった。
「…なんだが変な気分だな」
「終わりました…。うーん…。…今から結果をいいます」
「……悪かったの?」
彼女の顔は明らかに曇っていたが、僕はそこまで悲観していなかったので、軽い気持ちで聞いてみた。
「レベルは1…HP100…MP100…。スキルはメランコリーライフです」
「凄いな! 本当にゲームみたいだ。どんなスキルなんだ?」
「…レベルがあがりづらいです」
「……は?」
なに…その罰ゲームみたいなクソスキル……。
僕は予想の斜め下を行くとはおもわず、しばらく開いた口がふさがらなかった。彼女はすごく申し訳なさそうな顔をして話を続けた。
「…私もいいづらいんですけど、あの〜レベルがとてつもないくらいあがりづらいです。…しかも、外せないです」
「……まっ、まぁ…いいか…。…それで何をくれるの?」
「……何とは?」
「…ふっふっふっ。わかってる、わかってるって…。お約束なんだろうけど、もったいぶるなよ」
こういうときは決まったテンプレ通りの展開がある。少し驚いてしまったが、俺ぐらいになれば…というか、大抵のやつならこの後の展開なんて簡単に予想できるだろう。
「…なにがですか?」
「こういうときは、それを帳消しにするくらいの凄い武器やスキルを一つだけ選べるんだろ!」
「…そんなものありません。ファンタジーの見過ぎです」
「…ない?」
「あげませんよ。そんなもの…」
僕は立ち上がって小学生みたいな神様に人差し指をさして激高した。だって、こんなのあんまりだ! チートも最強武器も一つもないなんて!
「お前はもっとファンタジーを勉強しろー! どうやって世界救えって言うんだ。 世界救ってほしくないのか!! このポンコツ神がー!!!」
「あっ、あなたはファンタジーの見過ぎです!」
「なっ、なんだと!」
「そもそもその世界で最強のスキルを仮にあげたら、あなたこそ世界の脅威ですよ!」
「なに?」
「あなたの世界で例えるなら、核ミサイルのスイッチをポンポンあげるようなものです! あなたが自暴自棄になって自分の世界とは関係ないゲームみたいな世界だからって押さないっていえますか!?」
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