第14話 俺のココロは
初めてつみきに会った時、俺は動揺を隠せただろうか。
環七を走る車のライトに反射して見えたつみきの顔は、随分と大人びて見えた。
憔悴して何もかもがどうでも良くなった、あの虚ろな目がそう見せたのだろう。
この目をしている人間は何を仕出かすか分からない。
そしてその目は、俺自身にも経験があった。
愛犬の銀が殺された時だ。
もうどうでも良くなり、犯人をこの手で殺そうと思った時の目。
それを止めてくれたのは、家族の愛と銀との思い出だった。
一緒に泣いて、銀を火葬してくれた父と母。
俺の身を案じ、警察にも相談してくれた。
銀を思い出し涙する度に頭を撫でてくれた。
その後、耳を切り取られて復讐を決意するのだが、こればっかりは誰にも止められなかった。
複数の格闘技の良い所を身に付け、闇討ち的に次から次へと半殺しの目に遭わせていった。
それ以来、学校で絡まれても堂々と叩き伏せ、肩で風を切って歩いた。
イジメやカツアゲをしている者を片っ端から殴りつけていった。
感情に任せて。
イジメは無くなったものの、俺は孤立した。
学校という場所は俺にとって刑務所の中の工場と一緒だった。
独居房から出て工場へ行き、ルーチンワークをこなしてまた独居房へ帰る。
そんな冴えない毎日だった。
でも唯一、保育所からずっと一緒だった英一が傍にいてくれた。
その頃の俺は英一に甘えっぱなしだったと思う。
不機嫌をぶつけ、楽しい事も素直に楽しいと言えず、そのくせ辛い時は頼る。
子供だったと反省している。
今も頼る事はあるが、対等な立場で付き合える唯一の友人だ。
両親の事故死に耐えられたのも、英一がいてくれたからだと思う。
そんな頼れる人間がこの子にはいない。
虚ろな目で現れた時にそう直感した。
なら、俺がそうなろうと思ったのだ。
つみきが俺を頼るかどうかは分からない。
もしかしたら一日、二日で帰るかもしれない。
もし、そうじゃなかったら。
俺の提案を受け入れてくれたら。
必ずこの子を地獄から救う。
普通の学生の様に理解のある友達と遊ばせたい。
大人になってから、あの頃は良い青春してたなって思わせたい。
俺と同じつまらない道だけは歩かせたくない。
例え俺自身がどういう結末を迎えても。
初めの頃は純粋にそういう気持ちで接していたと思う。
いつ頃からだろう、つみきを異性として意識してしまったのは。
段々と子供らしい表情をするようになり、言葉も砕けてきた。
俺の修業にも素直に従い、心身ともに強くなった。
ここに来た時よりも遥かに。
もうそこらにいる集団でしか粋がれない子供や、
酒に頼って生きている心の弱い大人じゃ相手にならないだろう。
そんな素晴らしい成長を目の当たりにしたからだろうか。
妹みたいだ、という感覚は剥がれ落ち、好きだという気持ちになった。
だが、正直な所それが恋という感情か俺には分からない。
以前いた彼女の様に愛せるか分からない。
それでも俺はこの子を守りたい。
幸せにしたい。
初詣のあの時、あそこまで真っ直ぐに好意を伝えてくれたつみきの気持ちに答えたい。
本当はネックレスを渡すつもりじゃ無かった。
でも気持ちが止められなかった。
俺はこれから罪を償いに行かなければいけない。
一年か二年か分からないが、つみきが成長する所を見られない日々が来るだろう。
その間に俺への気持ちが無くならないとも限らない。
もし、それでも俺を好いてくれていたら。
何があっても必ずつみきを幸せにしようと思う。
たった数ヶ月の共同生活だったが、俺の人生の中では最高に輝いて、ときめいた日々だった。
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