第86話 旅行のしおりが無い

 団体旅行の途中で、ホテルの部屋にチェックインしたところだった。高校の修学旅行のような……というのも高校のクラスの皆が当時の姿で登場したからだ。

 ホテル周辺は賑やかで、実在する場所でいえば上野駅周辺のような雰囲気。

 屋内も現実のホテルにはあり得ない雑踏ぶりで、ファッションビルのよう。それこそ在りし日のABABみたいな。


 部屋にトランクを置き、レストラン等のあるあたりの通路に出たら「チェックインの順番待ち」をしているいくつものグループの人々がいる。若い人が多いが私服で、同じ学校ではないとわかる。

 お花見の場所とりよろしくレジャーシートが敷かれて、座っている人のいるところもあれば、荷物を置いてあるが見張のいないところもある。


 私はお手洗いに行きたくなり、そのままはぐれてしまった。

 小さな紙袋しか持っていなかったが、それを持って入りたくない気がした。

 知らないグループの誰もいないシートの上に、誰かの荷物に寄りかからせる形で、紙袋を置いてきてしまった。


 用を済ませて戻ったら(夢の中でトイレに入っても大丈夫なほう)、私の紙袋はレジャーシートごとなくなっていた。

 たぶんシートを敷いたグループが戻ってきて自分たちの荷物を回収し、勝手にものを置いた見知らぬ迷惑者の荷物は捨てた、ということだろう。


 紙袋には旅行のしおりを入れていた。貴重品は入れていない。

 自業自得だが寂しいな、と思った。

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