第65話 戦国武将のカードがもらえる

 これは昨年の12月29日に見た夢なので、今年の初夢ではありません。


  *  *  *


 何らかの医学的実験に、被験者として参加することになった。

 被験者は二十数名いて、実験室にはベッドがずらりと並ぶ。人が横になるには幅が狭く、しかも固い、進学塾の机みたいなベッドだ。


 まず着衣のまま、ベッドに寝るように指示されるが、みな私と同じように戸惑っているのか、誰もそうしない。


 研究者の助手はつとめて明るい声で宣言した。

「今日の実験は本来無償ですが、ちょっとした景品がありますので今からお配りします。みんな大好き戦国武将のイラストカードです!サムライ達が見守っていると思って、安心して実験に参加してくださいね」


 そんなので安心できるか!

 でもカードは気になる。安心する材料には全くならないが、きっと格好いい絵に華やかな装丁の施された、気分の上がるアイテムに違いない。


 ……と思ったら、戦国武将が多数登場するゲームか何かの見開き広告が載った、新聞の切り抜きだった。

 武将が勢揃いしたキービジュアルを、そこに描かれた人物1人ずつバラバラに切り分けたものだ。裏にはべつの記事の断片が印刷されているのが透けて見える。

 舐めた真似をしてくれおって!


「あなたは徳川家康、あなたは豊臣秀吉、あなたは織田信長……」

 一人一人に配る「カード」の武将の名が告げられ、粛々と受け渡しが行われてゆく。

 不思議と誰も「せめてラミネート加工して!」などと騒いだりしない。


 考えてみれば、戦国時代という殺伐とした時代に、現代の価値観とは相容れないことも山ほど行いながら日本社会の礎を築いてきた人物を、単純に善悪とか好き嫌いとか言えない。

 しかし、創作物の登場人物(あるいはその元ネタ)としてなら好き嫌いの俎上に乗せられる。

 悪役だって作品を面白くすることに貢献すれば愛着を持たれるのだから、知名度と出番が人気に直結すると言えるだろう。

 せめて歴史に詳しくない私でも名前くらいは知っている人物だといいな、と思いながら順番を待っていた。

 私の直前の人は「丹羽長秀」を受け取った。


 私には「黒田官兵衛」が配られた。

 圧切長谷部の持ち主であり、小説「黒牢城」のダブル主人公の片方であり……。


 好き嫌いの対象にできないと述べたばかりだけれど、でも好きか嫌いかで言えば、好き。

 これはかなりラッキーなほうでは?


 絵を見る前に目が覚めた。

 映画「首」を観に行くことに決めた。



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