第64話 蟹を洗う

 1匹の生きている蟹を洗っていた。

 ぬるま湯のシャワーをやさしく当てて丁寧に洗うのだ。


 食糧なのかペットなのか、誰のもので何故私が洗うことになったのか、全く分からない。

 茹でた後のように赤い体色だが、動くから生きているのだ。

 

 関節にシャワーをあてると、まるでロボットが変形するみたいに殻の隙間が開いて、今まで隠れていたパーツが見えてくる。


 脚を一通り洗ってからお腹からお尻まわりにシャワーをあてると、メインの甲羅が持ち上がった。


 蟹の甲羅をお皿として使う場合の、そのお皿になる甲羅である。

 それが開いたときにあったものは、蟹味噌とかエラとかそういう「じっくり見たことは無いが情報としておぼろげに知っているもの」とは全く異質なものだった。


 貝柱のようにも入れ歯を上下に合わせたようにも見える器官が露出した。

 その器官をまばらに囲むように青い小さなツブツブが点在している。

 もしかしたらこれは蟹ではないのかも……と疑念が湧いたが、洗うのが面白くなってきていた。


 その貝柱めいたパーツにもシャワーを当てる。正面から、左右の斜め横から入念に。するとそのパーツはさらに展開して、開口部に弁のついた管のようなものが表れた。


 口吻やら顎やらが出てきて食いつかれたらどうしよう? と一瞬だけ思ったが、それはないと直感した。

 (夢の中で直感というのも変だけれど)


 「蟹」は喜んでいるし私に敵意を持っていない。だから身体の内部に近いパーツをゼロ距離で開示してくれるのだと思う。

 

 グロテスクな見た目だが、なんだか可愛く思えてきた。


 いつの間にか目が覚めた。





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