第63話 現実さま少々お待ちください

 夢の中で、小売店の店員だった。

 レジのない古風な店で、お客様1人に店員が1人ずつ電卓を手に対応する。お客様も年配の人が多い。

 店は混雑している。


 お客様の中には、店員の説明を聞きながら考えたい人もいる。その一方で、急いでいて、買いたいものを早く決めたぶん我先に会計を済ませてほしい人もいる。

 考え中の人や、小銭を取り出すのや決済アプリの扱いに手間取っている人に順番を譲ってもらうこともある。

 会計中に欲しいものが変わる人もたまにいる。

 あるお客様の頼みで在庫を見に行くために近くを通ったら、他のお客様に声をかけられる場合もある。


 いま私の目の前にいるお客様は、店員と話しながら考えたいタイプで、年配の女性だ。

 私は他のお客様方に「少々お待ちください」を何度も言いながら対応している。


 何かの音がして、目が覚める時が来た。

 これは夢だったんだ、と思った。

 夢の中で働くだけでも業腹なのに、その夢の中の仕事にまで横槍が入るとは、どういうことだ。


 いま私が目を覚ましてしまったらお客様はどうなるんだろう? 他の店員に引き継ぎもしないで、気の毒なことだ。


 夢だからそんな責任は発生しない……と分かっているが、会計が済むのを待っている年配の女性が何か言いながらこちらを見ているのだ。

 

 完全に目が覚めたとき、仕事から解放されたというより、邪魔が入ったことに苛立ちを感じた。もちろん目が覚めないほうが困るに決まっているが、タイミングが悪い。


 あのお客様は、目の前の店員が「もとの世界に戻る」瞬間を目撃したことになる。買い物はろくに出来なかったかもしれないが、珍しいものを見たと思って機嫌を直していてほしい。





 

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