第40話 美しすぎて夢かもしれない
あまりに幼い日のことで夢か現実かわからない思い出。
母方の伯母に車を運転してもらい、海に行きました。白い砂浜のまぶしい海水浴場です。
水着になって波打ち際で遊んでいたら、仰向けにころんでしまいました。
ちょうどそこに波が来ます。
目を開けていると、澄みきった海水にのって赤紫色で透明な海藻のカケラや、ピンク色で不透明な何かのカケラが、わたしの顔の真上を流れてゆくのが見えました。
こんなに美しい水中の景色を見たことは、今なおありませんでした。
せめてどこの海なのか知りたくて、伯母や、現実なら一緒だったはずの母に聞いてみたことがありますが、どうもハッキリしません。
流れる海藻の欠片を「顔の上をとおる」と認識したのは私だけで、そこしか覚えていないのですから、他の人の記憶と照らし合わせようとしても上手くいかないのは仕方ありません。
連れて行ってくれた人から考えて、場所は九十九里浜の海水浴場と思われますが、そこでは波打ち際の海水はもっと砂まじりになるのが普通です。
何より不思議なことに、呼吸が苦しいとは全く感じなかったのです。
夢だから苦しくなかったのか、苦しさを忘れていたのか、それも謎のまま。
夢と判断するべき材料が多いですが、もし現実だったら奇跡的です。
けれども、いまではどちらにせよ楽しい思い出なのです。
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