召喚失敗勇者と傭兵
「そう……よくやったわねあなた達」
傭兵のリーダーから事情を説明され何があったのか理解したアカリだが、傭兵たちはアカリの事が気になって仕方が無い様子。
しかし、傭兵たちは余計な事を聞いてきたりはしなかった――彼らは自分達とアカリとの力量差を何となくであったがわかる程の実力を持ち合わせていたからだ。
「あなた達はこれからどうするつもりですか?」
アカリの問いに傭兵たちは顔を見合わせた後、リーダーが真剣な顔をしながら答える。
「どなたか存じませんが助力を感謝いたします。私はこの屋敷を守る様に依頼された傭兵のリーダーです。よろしければ事情をお話しいただけませんか?」
傭兵たちは既にアカリの事が侵入者だとわかっている。しかし、物腰や言動で物取りや恨みで動いている侵入者ではない事は明白であったから、自分たちが一体何に加担しているのかを確認する必要があったのだ。
傭兵たちは金で契約する。
しかし、契約の内容に嘘があった場合はその契約を破棄する権限を要しているのだ。
そうでなければ契約時に聞かされていなかった重大犯罪の加担などさせられた場合、傭兵全員が強制的に犯罪者になってしまうから当たり前と言えば当たり前なのだ。
そして、ここに居る傭兵たちのリーダーは銀翼の双竜と言う傭兵団の団長をしており、今現在のきな臭い状況を確認しなければならない立場なのだ。
まっすぐにアカリを見つめるひとみに曇りは無く、子供ともいえる年齢のアカリに真摯に対応しているこの人なら話しても問題ないと直感が訴えていた」
「いいわ、手短に話すわ。ここの奴隷商と教会の者が結託して違法奴隷を扱っているの。証拠はここには無いのだけど、王都へ戻れば公爵家の者が証言してくれるわ。私達はその教会の幹部と奴隷商を捕まえに来たの」
「……公爵家。では、あなた達は正式な捕縛命令を受けた騎士団か何かでしょうか?」
「いえ、私は違うわ。ただ、魔導騎士団は正式に来ていてその手伝いと言った感じかしらね。だからあなた達も私と同じようにお手伝いした方が良いと思うわよ」
「なるほど! では我々は邪魔にならない様、無関係な屋敷の者などを屋外へ退去させたいと思うのですがよろしいでしょうか?」
流石にリーダーをやっているだけあって頭の回転は速いみたいね。
「それで構わないわ。もし、騎士団の人達に何か言われそうだったら、私に言われて協力していると伝えれば問題ないわ」
「わかりました。それで、あなたは……」
「私はアカリ=シクラ。先日召喚された勇者よ」
最後だけ可愛く言ったのに傭兵たちは敬礼するような恰好をとり、ご武運をと言った後部屋の奴隷と使用人を連れてそそくさと部屋から出て行ってしまった。
「ぶぅ。何ですかあの人は、失礼です」
そんなことを言いつつも、実際はそこまで悪い感情を抱いているわけではなかった……でも。
「ゲルメヌトと奴隷商の居場所位教えて言ってくれても良かったのに」
そんな愚痴を呟きながら、アカリはゲルメヌトたちを探すために建物を捜索する。
人気のない通路を一人歩いていくが、建物の一階は既にもぬけの殻になっていた。
扉と言う扉は解放されており、通路から覗くだけで誰か残っているか確認するが、一切の人気が無いのである。
アカリは頭を傾げながらも、駆け足をしながら二階へと上がって行く。
一階に誰も居ないのは、火事があったこともあるが先ほどの団長が傭兵たちへ伝達し、一階部分の人をすべて屋外へと逃がした為だったのだ。
二階に上がる階段はエントランスホールに設置され、無駄に豪華な装飾が施されてはいるが、階段自体の機能に問題が無い範囲なので問題ない。
まあ、人が五人並んで降りても余裕で昇降できる幅は現実では使い道は無いと思うんですけどね。
そんなことを考えながら二階に上がり通路を覗き込むと、通路には少数ではあるが使用人と思われる人々が急ぎ足で闊歩し、何か荷物をある部屋から運び出している様だ。
その部屋からは男性の野太い怒声が聞こえてきていることから、恐らく件の奴隷商の部屋だろうと目星を付け何食わぬかをで通路を歩いていく。
すれ違う使用人たちは怪訝な顔をしていたが、堂々とした歩調で鎧を纏い帯剣もしていることから傭兵だと思ったのか、誰も声をかけてくるものは居なかった。
そして、怒鳴り声が聞こえてくる部屋までたどり着き中を覗くと、そこには豪奢なガウンを纏った初老の男性とアラサーくらいの女性、そして使用人たちが幾人かいるようだった。
男性は使用人たちに金目の物を集めさせ、使用人の持つ袋へ押し込んでいる。
女性の方は少し眠そうな感じでぼーっとしているみたいで、周りがバタバタしているのにあまり興味はなさそうな感じに見える。
使用人が持っている袋は、恐らくハンナが持っていた袋と同様に見た目の中身の容量が違う特殊な物なのだと思うのだけど、それがいくつも転がっているのを見ると嫌な気分になる。
そんなことを考えていると怒鳴っている男性が不意に私が覗いている扉の方へと視線を向け、訝しげな視線を向けてくる。
「ん? そこに居るのは誰だ? ――その恰好は傭兵か。なぜこんな所へ来ている、お前達が守るのは一階だったはずだ、さっさと戻って死守せんか!」
はぁ、もうめんどくさいからいいかな?
「そうですね、とりあえず……『
「っぐ! おいお前、一体何をしているのかわかっているのか! お前達を高い金で雇っているのは私なんだぞ! 」
「っきゃ! ちょっとあなた何をしたか分かっているの? あなたが濡らしたこの服は傭兵如きでは買う事が出来ない高級品なのよ! 」
とりあえず見える範囲の人々は全員魔法で捕縛していると、階段の方からドタバタと足音が近づいて来るのが聞こえた。
「お、おい! 今なら不問にしてやるからさっさとこれを解除しろ! ワシはシーレンベック伯爵に口が利けるんだぞ! お前なんぞ……ええい! さっさと解かないか! 」
「んふふふ、そ・れ・は・無理! だって私あなた達を捕まえに来たんだから! あ、ベロニカさんこっちだよ!」
足音が階段の当たりで止まったのでそちらへ視線を向けると、ベロニカさん達の姿が見えたので手を振って魔導騎士団の人々を呼び寄せる。
おっさんたちこの部屋にいる人達は、足音が近づいてきたことに気が付き全員顔を青ざめ始めた。
数人程顔色が変わっていない人も居るけど、たぶんその人たちは奴隷の人達なんだと思う。
「アカリ様お待たせ致しました。……この者達は?」
「うん! ここの奴隷商主人たちだよ」
「流石はアカリ様ですね。――全員捕縛しろ! お前達抵抗するなよ、抵抗したら容赦は出来ないからな」
ベロニカさんの合図で魔導騎士団の人達が部屋になだれ込み、抵抗する間もなく――私の拘束しているので抵抗できないんですけど――室内にいた人たちを全員捕縛した。
隣接した部屋にも数人居たようで、そちらの人も合わせて十人程の人が魔導騎士団に捕縛され、主人と女性以外で逃げようとしたのは二人しかおらず、他の人達はおとなしく捕まっている。
「お、お、お、お前達、ワシにこんな事をしてどうなっても知らんぞ! ワシはシーレンベック伯爵と――」
おじさんは一人なんやかんや騒いでいたけど、魔導騎士団の一人が魔法で火の玉を浮かび上がらせておじさんへ向けると、顔面蒼白にあり黙り込んだ。
「アカリ様、ベロニカ隊長、ゲルメヌトが見当たりません」
「おい奴隷商、ゲルメヌトはどこに隠れている」
「ふ、ふん! お前達に教える訳が――ごめんなさいごめんなさい、命だけは助けてください! ゲルメヌトは一階の応接間前の壁にある隠し階段を降りた先にある、地下の貴賓室に隠れています! そこは――」
騒ぎ出すおじさんに向けベロニカさんが石の矢を幾本か出すと、ペラペラと簡単にゲルメヌトの居場所について話始める。
何でも地下に降りた隠し通路の先にゲルメヌトみたいな下種な人達用の部屋があり、今日――私が口にできない様な事をして――明日の朝一には街を抜け出す算段をしていたみたい。
「アカリ様」
「ええ、行きましょう」
捕縛している人たちを見張る為に魔導騎士団員を二人程残し、私達はゲルメヌトを捕まえに行くために走り出した。
召喚失敗勇者 祝福と二倍の勇者パワーで異世界を楽しみます 転々 @korokoro0729
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