召喚失敗勇者と奴隷
煙が充満する屋敷の中は大混乱になっていた。
突如轟音と突風が屋敷内を駆け巡り、強度の弱い窓や扉が粉砕されたのだ。
襲撃に備えていた傭兵や奴隷たちは何が起こったか分からないまま、突風の衝撃で倒れ伏していた。
「一体何が……」
正面入り口を守るように言われていた傭兵の一人が倒れ伏しながらつぶやく。
周囲には同じように依頼を受けた傭兵と貸し与えられた奴隷たちが倒れており、打ち所の悪かった一部の者達は昏倒している様だ。
「リーダー、これが襲撃なのか!?」
起き上がった傭兵に無事だった他の傭兵が声を掛けてくる。
「わからん。しかしこの煙、どこかで火事が起きているのかもしれん」
突風と同時に侵入してきた煙が部屋中に立ち込め、濃霧の中にいるような状況になっていた。
「まずは状況確認だ!」
リーダーと呼ばれた傭兵が呻いている仲間たちに声を掛け、幸い傭兵たちの中には怪我や気絶をしている者達は居ない様だ。
しかし、借りていた奴隷の半数は昏倒もしくは破片などで怪我を負っており、全体的な士気はかなり下がってしまっている。
「――なんだ、あの音は! それにこの黒い煙は……」
状況確認を終えたばかりのリーダー達の元に何かが破裂する音と共に、女性の悲鳴と共に今までの薄い煙ではない真っ黒な煙が一つの通路から流れ込んで来ていた。
「一体何が起きていやがる。お前は付いてこい、残りは正面からの襲撃に注意しろ」
リーダーは傭兵の一人を連れて煙が侵入してくる通路を歩いていく。
近づくにつれ怒声と悲鳴が大きくなり足早にその声がする方へと向かう。
煙を辿り傭兵たちがたどり着いたのは調理室だった。
「っな!」
調理室の中を覗いた傭兵は調理室の凄惨な状況に絶句してしまう。
かまど周辺からは火が立ち上り、壁や床にまで延焼してきているのだが、そこに半裸の奴隷と思われる男性が室内にある薪や燃えるような物を投げ込んでいたのだ。
それにより火はさらに燃え上がり、直ぐに消化をしないと間に合わない状況になっていた。
そして室内を見渡すと一人の男性が頭から血を流し倒れており、壁際には数人の半裸の奴隷に囲まれた裸の使用人らしき数人が女性と体中傷だらけの男性がうずくまっていた。
「リ、リーダー」
「っは! お前たち何をやっている! さっさと火を消せ! お前達も何をやっている!」
リーダーの叫び声で振り返る奴隷達。
火を焚いている奴隷は気にせず燃える物を投げ込み続け、使用人たちを囲んでいた者の数名は血走った眼をしながら手に包丁を持ったままこちらへ向かってくる。
「あははは、誰が火を消すかよ」
「そうだぜ、俺達を今まで手酷く扱ってくれた礼をしているだけだぜ」
「そうそう。それにどのみち俺達には帰る所なんざないから最後に楽しませてもらうぜ」
奴隷たちは何故だか契約が切れて居るらしくやりたい放題の状態だ。
隣にいた傭兵が「どうします?」と視線で聞いてくるが、どうするも何もないだろうが。
「お前達さっさと投降しろ、さもなきゃ叩き切る!」
「はん、やれるもんなら――やってみろ!」
火を焚いていた奴隷以外の者達が手に持った包丁を振りかざし襲って来る。
「バカ者どもが!!!」
傭兵のリーダーは剣を抜き、襲って来る奴隷達を迎え撃った。
もう一人の傭兵は「馬鹿だこいつら」と呟きながらも、一応剣を抜き構えを取る。
「馬鹿はお前らだ!これでも喰らいやがれ!」
「げ、マジかよこいつら」
奴隷の一人が包丁を持っていない方の手で机に置いてあった小瓶を傭兵へ投げつける。
「そんなものに当たるっかよ!」
他の奴隷達も近くにある物を投げながら突撃してくるが、傭兵たちはひらひらと身を躱しながら投擲物を避けていた。
「死にやがれ!」
三人の奴隷たちがさまざまな物を投げながら近づき、三人同時にリーダーへと切りかかる。
「――遅い!」
リーダーは剣を持つ反対の鉄の小手が付いた手で一人を殴りつけもう一人を剣で斬りつける。
殴られた奴隷は隣にいた奴隷を巻き込み倒れ伏し、斬りつけられた奴隷は包丁を持つ手の手首から先が飛んで行った。
「ぐあ!」
「っち、邪魔だどけ!」
「あぁああああ! 手が、俺の手が!」
傭兵はこの隙を見逃すはずもなく、倒れていた奴隷二人を串刺しのように突き刺しもう一人の首を刎ねた。
刺された奴隷二人は始めは悪態を付きながら暴れていたが、次第に動かなくなり冷たくなっていった。
「後はこいつを止めんと――なんだ!?」
「うわ! か、風が!」
リーダーが火を焚いている奴隷を止めようと足を瞬間室内に強烈な風が巻き起こる。
『
誰かが魔法を唱えると火災が起きている壁一面に水の壁が現れ消化された。
傭兵たちは魔法を唱えた声がする方へ視線を向けると、そこには十代半ば――もしかするともっと若いかもしれない――容姿をした鎧を着こんだ少女が立っていた。
「これをどういう状況ですか?」
火が消されて嘆き悲しむ奴隷を一瞬見つめた少女が傭兵たちの方へ無理なおり聞いてくる。
「待ってくれ! 俺達は屋敷に雇われた傭兵だ。煙と悲鳴が上がったから掛け付けたらそこの使用人たちが襲われそうになっていたから助けただけだ」
リーダーが少女に説明するが少女はリーダー目を見据えて動かない。
その瞳は何か考えているようだったが、その少女が何か言うより先に別の所から声を掛けられる。
「そ、その人たちは私達を守ってくださいました。あ、あの、魔導士様。この人がそこの奴隷に刺されて死にそうなんです」
「それは大変。『
少女は応用魔法の回復を使用して男性使用人の傷を回復させると、こちらへ向き直り事情の説明を求めてくる。
状況的には味方っぽいが護衛にこんなのがいるのなんて聞いていないが、ここは素直に従っておかないとまずそうだな。
傭兵二人は視線を合わせ頷いた後、リーダーが事情を説明していく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます