召喚失敗勇者と地下通路
空き家は普通の民家の大きさとは違い、少しくたびれてはいるがお屋敷と呼べるような大きさの建物だった。
建物の周囲には高さがおよそ二メートル程はあろうかという壁が設けられており、外側からは中の様子を伺い知ることが出来ない様になっている。
正面の正門は鉄格子で作られてはいるが、鎖を南京錠の様な鍵で止めてあるだけの簡素な鍵があるだけだった。
この鍵を普通に壊そうとすると流石に音が出て問題がありそうだったけど、そこはラルスさんが用意していた大きなワイヤーカッターのような物を取り出し、ほとんど音もせず鍵を切断してしまった。
ラルスさんが先頭になり扉を押し開けて敷地に侵入するが、敷地内の庭は荒れ果てていて見える範囲の一階の扉や窓には板が打ち付けられていた。
しかし、荒れ果てている庭の中に人が通っているであろうと思われる道が見え、その道沿いに歩いていくと唯一板が打ち付けられていない裏口にたどり着いた。
しかし、流石に鍵は掛かっているようでどうするのかと思っていると、何か工具を取り出し暫くかちゃかちゃやっていると、カチンと言う音がして扉が開いた。
なんでも、特殊な素材を用いて鍵穴を開ける道具があるらしく、ラルスさん達衛兵にはその所持が許されているとの事だったけど……今回のような場合は通常許可が出ないのだけど、ビューのお兄さんのマルセロさんから許可書を貰い、今回は特別に所持が許されたんだってさ。
扉が開いたのを確認して罠などが無いか確認した後、私達は空き家の室内になだれ込んだ。
「特に何事もなく侵入できましたね」
「そうだな。ただ、ここまで何もないと本当にただの空き家なのではないかと心配になりますが」
「――床をよく見ろ。誰も住まなくなって長いせいか、こちら以外には足跡が残っていないぞ」
ラルスさんが簡単に開錠出来少し不安に思っているようで、パーラー君はそもそもここが本当に空き家なのではないかと心配していた様だけど、普段あまり話をしないヴィン君が月明かりしかない暗がりの中床に溜まった埃に着いた足跡がある事を示し、皆でその足跡を追って行くことにした。
流石に室内までは月明かりが入って来ないため、私が全員に『
暗視の魔法をかけると真っ暗闇の廊下のはずなのに、視界は昼間のように明るくなり、そのまま足跡を追って廊下を歩いていく。
しかし、その足跡も突き当りの壁付近で足跡が無くなっていたが、気が付いていないのかただ管理がずさんなのか分からないけど、壁付近に扉を引いたような形で埃が無くなっていた。
「恐らく隠し扉でしょう……この部分だけ何度も触ったような跡がありますね――飽空きました」
ラルスさんが見つけた壁は、その部分だけ何度も触ったかのように木に艶が出来ていて、そこを押し込むとガコンと言って壁の一部がせり出して来た。
せり出してきた部分を引くと地下へと行く階段が現れた。
ラルスさんが振り返り首を振りこちらに合図をした後、階段を下って行くと――そこは石造りの倉庫のような場所になっていて、奥には一枚の扉が見て取れた。
この底のような場所はさっきの屋敷のような埃っぽい匂いではなく、人の体臭のような物が漂い他にも何とも言えない匂いが漂っていた。
私以外の人もこの匂いには気が付いているらしく、アイリスちゃんは私と同じように少し嫌な匂いと言った感じ方だったみたいだけど、他の面々からは怒気を表していた。
始め何にそこまで怒っているか分からなかったけど、周りを見渡している間に大体の理由が分かってしまった。
壁沿いには等間隔に楔のような物が撃ち込まれ、その楔の一つに手錠のような物がくっ付いているのを見つけてしまったのだ。
恐らく奴隷たちを拘束か何かして虐待なのか――あまり相続したくない事をしていたに違いない。
その事に気が付いてしまい少し気分が悪くなって屈みこもうとしてしまったが、それを後ろにいたアイリスちゃんが抱き留めてた。
振り返ってアイリスちゃんを見ると、彼女の顔も真っ青になってしまっているが首を横に振っていた。
「アイリスちゃんごめんね。ちょっと気分が悪くなっちゃって」
「――いえ、仕方のない事です。しかし、ここで屈みこまれるのはあまりよろしくないかと存じます」
「そうよね、ありがとう」
「アカリ様扉の開錠は終わりました……その、廊下の様子を確認して頂きたいのですが――大丈夫でしょうか」
私が気分を悪くなっている間に恐らく地下通路に繋がっているであろう扉の開錠は終わっていて、ビュー君が私を心配そうにのぞき込みながら魔法を使ってほしいと言ってきた。
周りのみんなも私の方へ視線が集中しており、皆に心配をかけてしまっていたようだ。
「大丈夫よ。さっさと終わらせて、こんな事を仕出かしていた奴らに罪を償わせないといけないわね」
私はそう言ってから、『
扉の外は土で出来た幅と高さ二メートル程の通路になっていて、どちらにも人の姿は見受けられなかった。
遠視では音が拾えないため実際の状況は良くわからないけど、静まり返っているように見える。
念のため『
「とりあえず、通路には誰も居ないし音も聞こえないわ」
「アカリ様ありがとうございます。それでは予定通り、アイリスの作戦で良いのでしょうか?」
「一応皆の同意を得ましたが――少しやり過ぎな感じも致しますが」
「大丈夫! 私に任せておいて。アイリスちゃんの作戦と完全に一致はしないけど、あの作戦よりも安全な感じにするから。私が魔法を使ったら全力でここを脱出して、外の状況確認をしてから目的地に向かうわよ」
少し不安そうにしているけど、皆は私の事を信用してくれているのか頷き準備を始める。
地下通路へとつながる扉をビュー君が音がしない様に慎重に少しだけ開き、扉の向こう側にま真っ暗闇が広がっていた。
開いた扉の隙間に簡単ではあるけど一部を除き目張りをして準備は完了。
「皆行くよ、間違って吸い込まない様にね『
私が使った刺激の煙はいわゆる催涙スプレーのみたいなもので、目や鼻に強烈な刺激を与える煙を生成するものでそれを突風で後ろから押してあげるとあら不思議、猛烈な勢いで強烈な刺激の煙が地下通路内を押し寄せ繋がっている建物に押し寄せるのだ。
もしここと同様の扉が在ったとしても、突風の魔法で扉は吹き飛び建物内にまで煙が侵入し、外からはあたかも火災でも起きているかのように見えるおまけつきよ。
「扉を封鎖して外の様子を見に行きましょう」
私の合図で皆が一斉に屋敷の外まで駆けだしていく。
外に出た後空を確認すると、月明かりにたらされて夜空には五本の煙が上がっているの見て取れた……あれ、五本? 店と家の二か所と、後は屋敷の四か所だけだったと思ったんだけど……見落としでもあったのかしら。
私が抱いた違和感を他のみんなも感じているようで、私は煙の出ている個所を脳内で地図と照らし合わせてみるが、流石にどこから出ているかまでは予想できなかった。
「……まさか」
「……こんなことが」
ガイの街出身の二人にはどこから煙が上がっているのかわかったみたいだけど、二人とも顔を青ざめさながら呟いていた。
「ねぇ二人とも、もう一本の煙はどこから上がっているの?」
私の問いに二人は動揺し、どうしようかと考えて居る素振りをしていたが、ビュー君がこちらへ振り返りその煙が出ていると思われるとこを告げる。
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