召喚失敗勇者と決行
「魔導騎士団の責任者のベロニカさんも来たことだから、これから本格的に作戦を決めていこうと思います」
ラルスの紹介と、彼が今まで調べて来てくれて分かったことをベロニカさんにも説明し、どのような対処をしていくか相談していく。
現状の戦力としては、私を含め六人と魔導騎士団員が一個小隊で三十二名との事だった。
「現状戦力で監視と捕縛を同時に行うのであれば、一小隊――四個分隊にまで分けることが出来ます。そして勇者様の隊で一か所を抑えて頂ければすべての個所を抑えることが出来るかと思います」
「しかしそれでは戦力が一番大きい奴隷商の館を抑えることは難しいのでは? 」
「はい。ですが、空き家を除く四ケ所をまず監視して、無人と思われる空き家に侵入して地下通路の有無の確認、通路があればそこから館へ侵入して内部から混乱を起こすのが良いかと思います」
「なるほど。地下からの侵入であれば内通者がいるのではないかと向こうも混乱するだろうし、恐らくそれ程戦いやすい場所でもないだろうから数で圧倒される恐れはなさそうだな」
なるほどね。地下通路があればそこから侵入し奴隷商の館を予想外の位置から強襲することが出来るし、もし地下通路が無ければそのまま合流して館を抑えてしまえばいいわけか。
ただ、地下通路があっても無くても館にでの戦闘に参加できるのは、私達の隊と館を抑えている一分隊のみとなってしまう。
戦力的にどの程度のいるのかはわからないけど、あの貴族屋敷並みの大きな屋敷にどれだけの警備を入れているか分からないのが問題なのよね。
ただ制圧だけが目的なら私一人でも可能なのだとは思うのだけど、その場合はかなり嫌な状況になりそうだからやらないけどね。
「ただそうなると、館から出て逃亡を企てられた場合魔導騎士団の一分隊でとどめておくことが出来るのか? 下手したら数十人のゴロツキや奴隷共が一斉に襲ってくるわけだが」
「その場合はこちらも魔法で反撃することになりますので、こんな夜中であれば音と光で他の部隊にも状況が伝わるでしょうし、それだけ騒々しければ衛兵達も動かざる得ないでしょう」
ベロニカさんの言葉にラルスは首を縦に振るが、微妙な顔をしている様にも見えてしまう。そんなラルスを説得させるかのようにベロニカさんは話を続ける。
「それに、実際にはそれほど大したことが起きるとは思ってはいませんわ。魔導騎士団と戦闘になり逃走した時点でこの国では犯罪者扱いになるでしょうし、そうなると他国に逃亡するしかなくなります。それに、もし国外に逃亡できたとしても我がイオリゲン王国から他国にも協力要請が出ると思いますので、最終的に逃げ切ることは出来ないと思いますわ」
「そうですね、いくら領主様がこの辺りでの騒動に手を出すなと言われていても、流石に現場で魔法が炸裂していては警邏の部隊が確実に向かうでしょう。それに、周辺の屋敷の視線もある事なのであまり無茶な事は出来なくなる可能性は高いです。しかし、奴隷商自体が実際どこまでこの件に関わっていたか分かっていませんので、下手したらこちら側が不当捜査と言われる可能性が在りますが」
「……その可能性はあるか」
そう言えばそうよね。ゲルメルトはクロが確定しているんだけど、奴隷商自体は現在は証拠が出ていないからグレーと言えばグレーなのよね。
ただ、問題となっているゲルメルトがこの屋敷にいること確実だけど、直接確認していない現状でもし衛兵達が来た場合、どのように説明するのかが問題点ね。
私が魔法で確認したといっても良いんだけどそれが証拠になるか微妙な気がするし、もし衛兵と共に領主が来た場合かなり面倒な事になりそうなのよね。
どうしたら良いか皆がうんうん唸っているんだけど、一人だけ何か言いたそうにしている人が居た。
「アイリスちゃん、もしかして何か案があるの?」
「い、いえ! な、何でもありません」
いやいや、その言い方は何でもなくないじゃないの。
うーん、この子は相変わらず自分の意見を言うのが苦手みたいだけど、アイリスちゃんの意見は結構参考になったりするから言いたいことがあれば言ってもらいたいのだけどな。
「うーん、なんでもいいからいってみてよ。地下道の件だってアイリスちゃんが言わなければ気が付かなかったんだしね」
「……わかりました。私が考えたのはですね――」
アイリスちゃんが考えた内容には皆が驚き、そして納得してその案が採択されることになった。
それにしても、やっぱりアイリスちゃんはみんなと発想が違うから良い提案をしてくれるわね。
「それじゃあ、時間になるまで皆も体を休めておいてね。あ、ビュー君とラルスさんは申し訳ないけど準備の方をお願いします」
二人は畏まりましたといって部屋を出ていったが、ラルスさんは私の部下でも何でもないのに良く協力してくれるよね。
もしこの作戦がうまくいったら、何かしてあげられないかな……まあ、それもすべて終わってからだけどね。
こうしてゲルメルト捕縛作戦の準備は着々と進んでいくのだった。
そして時間は進みいわゆる丑三つ時に私達は目的地である空き家の前に集合していた。
ここに集まって居るのは私の他に、パーラ君にヴィン君とビュー君の男性三人組とラルスさん、それとハンナとアイリスの計六人。
全員完全武装しているけど、皆かなり装備に偏りがあるように見える。
パーラー君達三人組は見た目かなり豪華な装備を纏い、どう考えても一般兵士には見えないような細かな装飾を施された鎧を身に付けている――恐らく素材も鉄などではくファンタジーな素材で作られているんじゃないかな。
一方ハンナは魔法使いの様なローブに胸当てなどの最低限の防具を付けているみたいなんだけど、ハンナが言うにはこのローブは普通の剣では切れず矢も刺さらない逸品で、魔法に対しても耐性もかなり高い魔物素材のローブだそうで、このローブ一つで大豪邸が買える程の価値があるんだとか。
まあ公爵家の娘が戦に参加するんだからそう言った装備があるには越したことは無いんだけど、流石にやり過ぎ感が半端ないし見た目が魔法使いみたいで余計狙われてしまいそうだ。
そしてアイリスちゃんは、完全に普通の鎧をまとっていた。
材質も鉄製で、一応女性が着るように調整されている物みたいだけど、オーダーメイドではないようで少し動きずらそうにしている感じがする……最悪アイリスちゃんは私の魔法で強化してあげれば問題ない――一応全員掛けるけどアイリスちゃんは特別に強いのをかけておこう。
最後に、いつものメンバーではないラルスさんだが……これは完全にただの衛兵装備だ。
薄っぺらい胸当てに、小手だけしかない腕、下半身には革鎧の様なものを着ているだけで防御力はペラペラの装備のみだった。
流石に装備のレベルが違うので何か貸してあげたいのだけど、ここは王都ではないのでそう言った伝手は無いので頑張って生きて貰わないといけないね。
因みに私は、何故かハンナが用意していた鎧を着こんでいる。
そもそもここに来る時急いできたから装備品などは剣位だったはずなのに、何故全員のフル装備がハンナが持ってきた袋から出るわ出るわで驚いたわ。
何でも袋の中の空間が拡張されていて、見た目と中に入る量が一致しない高級品なんだってさ。
でも、そのおかげで準備も整ったし――そろそろ行こうかな。
「それじゃあみんな、作戦第一段階を始めましょう」
そう言って私達は、空き家の中に侵入していくのだった。
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