召喚失敗勇者と革新魔法

 バルヒェットさんの執務室にある、応接用のソファーに私が座って側仕えの子達は後ろへ立っている。

 対面にはバルヒェットさんが座って、後ろにコジーラさんと女性の魔導騎士団員の人が左右を固めていた。


「それで、コジーラ副騎士団長。先ほどの行為は一体どういう事でしょうか?」


「あーえーっとですね。いやー、勇者様の魔法を見たら興奮してしまって……申し訳ございません」


「アカリ様がお許しになったので私がとやかく言う必要はないかと思いますが、あの時アカリ様が本気で抵抗していたらあなたは今生きてはいません。アカリ様の優しさに感謝しなさい」


 ハンナさんが本気で怒っている声がして、後ろを振り返る事が出来ずに反省しているコジーラさんを見つめている。

 ハンナは私が恐怖で固まっていたことを勘違いしているみたいだけど、もし反射的に動いていたら……コジーラさんが本当に見るに堪えない姿になっていたかもしれない。


「あのー。それで、なんでなにがお知りになりたかったんです? 」


「えー……その……。」


 私が質問すると、コジーラさんはハンナをチラチラ見て話していいか確認しているみたい。


「……発言を許します」


「それでは……先ほどのアカリ様の魔法ですが、恐らく勇者様のみが使用できるような魔法かと思われるのですが、あの魔法は一体どのような魔法なのでしょうか? 見た感じ火属性と風属性の複合魔法と思われるのですが、私ではあの魔法を再現することが出来ないと思いますが、新しい魔法の概念を教えて頂ければと思い」


 こうしてみると普通の魔導士に見えるんだけど、さっきのは一体なんだったのかしら?


「火と風は間違っていないのですけど、それに無属性魔法を追加した三属性の複合魔法です」


 私がさっき即興で考えた――過去の勇者の知識を使ったのだけど――魔法なんだけど、どんな感じで魔法を構築したのか、どの属性がどのように作用したのかを説明すると……コジーラさんが目をキラキラ始めていた。


 その様子に、私も含め周りの人達全員が呆れた感じになったんだけど、この人って魔法が大好きで魔法の事になると周りが見えなくなっちゃう性格なのかな? マッドサイエンティストだと科学者だからマッドマジシャンって感じかな?


 因みに、私が教えた理論を直ぐに確認しようとして両サイドの団員から滅茶苦茶怒られてた。


「……ふうむ、この魔法は私一人では構築も制御も出来ませんね。やはり勇者様は特別と言う事ですか……何とかする術はないものでしょうか」


「えっと、コジーラさんはどこまでなら出来そうなんですか? 」


「二属性の複合魔法なら使えるのですが、流石に三属性ですと何とも……。二属性の複合魔法でも使える者は少ないですし、それを三属性ですと右手で書類を書きながら左手で絵をかきながら、魔法の講義をするくらい難しいですね」


「は、はぁ。よくわかりませんけど、一人ではどうしようもない事だけはわかりました……? 」


 一人じゃ出来ない? それなら……


「あの、一人出来なければ他の人と協力して魔法を構築することって出来ないでしょうか? 」


「そ、それはどういった事でしょか! 複数人で同じ魔法を構築すると言う事ですか!? 」


「あ、え、う。そ、そんな感じです。例えば、今コジーラさんが無属性魔法で両サイドの騎士団員の方が火属性と風属性を使って混ぜるとか……できませんかね? 」


「「「!!!」」」


 私の発言に、コジーラさんが驚愕の表情を浮かべ、バルヒェットさんや他の騎士団員の人達も急に何か考えだしてしまった。


 あー、もしかして、魔導騎士団と言うか魔導士って皆このパターンなのかな?

 新しい事を考えたりすることが大好きで、考え出すと周りを気にせずに思考し始めちゃう感じ?


 振り返ってみんなを見ると、一様に苦笑いをしていて私の考えていることが伝わったのか、一同首を縦に振っていた。


 暫く個人個人で考えていたみたいだけど、埒が明かないと思ったのかバルヒェット達魔導騎士団の面々はあーでもない、こーでもないと相談し始めてしまった。


 あーうん、これはだめだね。

 そう思ってハンナの方を見ると完全に呆れた顔をしていて、私の視線に気が付いて取り繕っていたけど、他の人達もダメだこりゃって顔をしていた。


 たぶんこのままいつまでも相談して居そうな感じだったので、失礼しましたと小さな声であいさつをして執務室から皆で退出していく。

 

「はぁ……魔導騎士団ってあんなかんじなんですね」


「……そうみたいですね。私も初めて知りました。普段お会いするときは皆あのような感じではなかったのですが……」


「なにか、あそこまで行くと逆にすがすがしいですわね……かなり失礼ですけど」

 

 リリアンの言葉に一同頷き、呆れながら騎士団を後にする。

 




 騎士団を後にしたと、そのまま王城へと戻っても良かったんだけど、流石に予定よりもかなり早く終わってしまったこともあり、私の提案で街を散策してから王城へ戻ることになった。


 女性陣は多少渋りながらも許可してくれたんだけど男性陣がかなり渋って、散策と言うよりも騎士団から王城へと帰る道すがら街を見学するって感じになったんだけどね。

 

「うわー! ここがキザオカの街なのね! すごーい! 」


 周りも見渡せば、元の世界では見たことのない様な景色が広がっていた。

 アスファルトやコンクリートでできた道ではなく、石畳で出来た大通り。

 石や木で作られた建物や道端には多くの露店が軒を連ね、これぞ異世界と言った雰囲気を醸し出している。


 そして、その道を歩くのは普通の人以外にも大勢いて、耳や尻尾が生えている人たちや完全に獣の様な顔をした人たちなど様々な人たちが闊歩している。

 

 一人はしゃぐ私をみて、ハンナとリリアンが私の両サイドに来て二人して手を繋いできたけど、そんなことはあまり気にならないくらい興奮していた。

 二人を引っ張りながら、道すがら露店を覗き込み時にはパーラー君達におねだりして珍しい果物を買ってもらったりして、ウキウキしながら街を探索してた。


 のだけど……はしゃぎまわっていた視線の隅に、私はあるものを見て立ち止まった。

 

「どうかなさいましたか?」


「アカリ様何かまた欲しいものでもありました? ビューに行って何か買ってこさせましょうか? 」


「……ちょっと待って」


「あ、アカリ様! おまちください! 」


「え? きゃ! 」


「三人ともアカリ様を追って! 」


 私は皆を置いて全力でそのある物の方へと駆けてゆく。

 通りの建物の間の路地を入り、そこの先に見える……大きな袋を持った男性数名を見つけた。

 男たちは大きな袋を二人で担ぐような形でそれを小走りで運び、その前方にも人が居るみたいだけどここからは見ることが出来ないけど……さっき見えた時に男性は四人居たので二人いるのだと思う。

 

 このまま後ろから突撃して逃げられても嫌だったので、私は大きく跳躍して掛ける四人の前に勢いよく着地する。


「な、なんだ! 」

「おいなんだ!? 何が起きたんだ! 」


 いきなり目の前で土煙が上がって、男たちは少し同様したみたいだけど、その土煙が晴れて見えたのは小娘だとわかると顔を見合わせて、安堵した顔をしたのも束の間、急に下卑た笑みを浮かべだした。

 そして小さな声で「こいつもいきやすか」「ああ、こいつは上玉だな」と物凄く嫌な会話をしているのが聞こえた。


「おいおい嬢ちゃん、急に落ちてくるなんてあぶねぇじゃないか。俺達は先を急ぐんでどいてくねぇかな」

 

 そう言いながら男たちは私との距離を歩きながらじわじわと詰めて行き、すれ違いざまに汚らしい腕が私の伸びてくる。


 

 その瞬間、私の中で何かが切れる様な音が聞こえた気がした。


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