召喚失敗勇者と悪党退治

「はぁはぁはぁ……アカリ様はなんて速さなんだ」

「つべこべ言わずにさっさと追いつくぞ!」

「いや無理でしょ、アカリ様勇者ですよ? そんな人が全力で走って行ったら絶対に追いつけないって……ってえええ! 跳んだ! めちゃくちゃ飛んでますよ! 」


 パーラー達三人は、狭い裏路地をアカリを連れ戻そうと走って行くが、訳の分からない様な速度で走るアカリに追いつけるわけもなく、しかも跳躍し前に居た人を飛び越えたようで、飛び越えられた人は驚いて立ち止まっている。


「まったく何を見つけたのかは知らないが、一人で行かれるのはどうにかしてほしいですね」

 

 まったくだ、この世界に不慣れなアカリ様を護衛する我々の身にもなってもらいたい。

 俺を含む男性従者たちは、全員騎士クラスの実力があるのだが、先程の訓練でもわかってはいたが勇者であるアカリ様には到底及ばないか。

 走りながらパーラーは心の中でつぶやくが、既にアカリの姿を完全意味失っていた。


「んな! 」


 そして、男たちが動き出したのが見えた瞬間……男たちの姿は掻き消え、そこのには大きな袋を持ったアカリが恐ろしい形相でたたずんでいた。


「あれは……一体なにが」


 追いかけていたパーラー達目の前の不可思議な現象に足を止めたが、暫くするとドサドサと言う音とグェ!などと言う男の声が聞こえて来た。


 そしてアカリは袋の紐を解くと、中から少女のように見える頭部が現れた。

 

「やっぱり……このグズ共め」


 アカリはそのまま振り返り、先程吹き飛ばした男性たちに向かい魔法を放ち拘束した。

 いきなり色々な事が起こり固まっていたパーラー達だが、アカリがこちらに振り返り手を拱くのが見え、動揺しながらアカリの方へと走ってゆく。


「パーラー君、こいつらを衛兵に突き出しておいて」


「は、はい……こいつらは一体何を? 」


「こいつら魔法か薬品か分からないけど、何かをしてこの子を眠らせて攫おうとしているのが見えたから現行犯で捕まえておいたわ」


「畏まりました」


 見ればわかるだろうに……あーダメだ少し気が立ってるから思考が刺々しくなっちゃってるわね。それに急に離れたらんだから謝っておかないといけないわね。


「みんなごめんなさい。流石に目の前で人が攫われそうになっていたから、見失わない様に急いでいたから何も言わなくて」


「いえ。大丈夫――ではありませんが、今回の件で私がとやかく言う事はございません……ハンナは怒るかもしれませんが」


 あーそうだよね、ハンナ達女性陣は結構私に対して過保護な気がするのよね。さっきも手を繋がれて、ふらふらとどこか行かない様にされていたし。

 んー私の力をさっき見せたから、よっぽど護衛なんて必要ない事なんてわかっているんだろうけど、それでもやっぱり仕事だからかな?それとも、王様がっていたように皆性格が良い人ばかりだからかな?


「へ、へへへ。仲のいい主従だ事」


「何が可笑しいの? あなた達はこれから取り調べされて牢屋に連れて行かれるのよ? 」


 いつの間に意識を取り戻したのか、拘束されている男の一人目を覚ましてにやけ顔で軽口を言っている。

 どう考えても私の拘束を解くことも。現行犯で逮捕されているんだから、逃げる事も言い訳のしようもないのに何故か余裕な男に対して不信感が現れる。


「へん! あんたたちが何者なのか知らないが、俺たちゃ捕まってもどうとでもなるんだよ」


「いや貴様らはどうあがいても逃げる事なんて出来ないさ」


「……あんたも貴族っぽいが、その辺を歩きで移動しているような貴族ではどうにもできないさ。まあ、お前さん達には関係ない事だがな」


 あーなるほど、自分達にはバックが付いているからどうとでも逃げられるって言っちゃってるわけか。っお? パーラー君の顔がかなり怖い事になっているわね。

 んー誰が後ろについているか分からないけど、パーラー君もハンナも両方公爵家だから、ある程度の相手ならどうとでもなっちゃうだろうし……最悪私が王様に言えば何とかなりそうよね。


 そうやって考えているとパーラー君が男の耳元で何かささやくと、男は急に顔色が悪くなってパーラー君に命乞いをしだした。

 パーラー君は更に何か言ったみたいで、男は青ざめた顔のまま急に頭をブンブン振りだしているわね――後で聞いてみよう。


 しばらく待っているとハンナ達が合流して説教をしようとしたけど、パーラー君が間に入ってくれたおかげでとりあえずは難を逃れられた感じかな?


 そしてビュー君が衛兵達を呼んできて、男たちはおとなしく連行されて行った。

 連行していく衛兵達は男たちを見てうんざりしたような顔をしていたけど、パーラー君とハンナの二人が何か話したみたいで、急に態度が豹変してすごくやる気を出したみたい――なんか私の方を見て目がキラキラしているのはなぜだろう?



 後で聞いてみたら、パーラー君が男達に言ったのは自分が公爵家の者である事、そして取り押さえた人が今代の勇者であるから逃げることなどできないぞと脅したんだって。そして、裏に居る者とか悪事を洗いざらい吐けば、協力的だったと言う事で減刑を口利きしてやると言う事だった。

 流石に私はその件に付いて問い詰めようとしたんだけど、パーラー君曰く「処刑が過酷な鉱山奴隷になるだけで実質的にはどちらも変わらず、命を落とすことになるだろうだって。

 鉱山奴隷は基本的には重度の犯罪を起こした者達が連れて行かれ、この辺りだと火の晶石が取れる火山地帯に送られ、扱いもかなりひどく一年の死亡率も数十パーセントもあるらしい。


 それと、衛兵達も男達が数度捕まっては釈放されていることが分かっていたんだけど、さっきの男達と同様の事を教えて絶対に逃がさないと約束したんだって。

 それで私が勇者って事が分かったから、あんな視線を私に向けて来たのね。


 そんなこんなありつつも、その後は特に問題も無く王城へ戻ることが出来た……はずもなく、帰りながら永遠とハンナから説教をされ、リリアンは半泣き状態で心配しましたとか言われてしまった――流石に今後は気を付けたいと思うけど、また今回のような事が合ったら関係なく突っ走っちゃいそうだわ。


 王城に戻った後、側仕えの子達が変わって自由時間と言われたんだけど……やる事が無いのよね。

 パーラー君達は、さっきの無法者たちの件で一度衛兵本部に向かって事情を説明するみたいで、ハンナは国王様に今回の件を伝えに行ったみたいだから、国王様自体が関わっていない限り逃げることは出来なさそうね。


 そして、男達に攫われそうになった女の子はクリスちゃんっていうみたいなんだけど、なんでも母親が亡くなって路頭に迷っていた時に攫われてしまったみたいで、衛兵さん達が養護院に入れてくれることを約束してくれたんだけど……なんと、クリスちゃんは実は失踪したミュラー侯爵って人の侍女の娘だったらしい。


 その侍女は侯爵と体の関係が合ったみたいなんだけど、体調不良を起こしたと思ったら突如として失踪してしまったらしく、その侍女が付いていた侯爵の奥さんが問い詰めると関係が合ったことが分かって、恐らく身ごもってしまったから失踪してしまったんだとか。

 

 この国の法律は少し変わっている所が合って、貴族の者が妻以外の者と子供が出来てしまった場合、その家が養わなければならないと言う法律があり、もし闇に葬ったりした場合爵位と領地没収という、かなり厳しい罰則が付いているんだって。

 なんか、初代勇者が決めた国法らしく、今現在でもかなりしっかりと取り締まりを行われているんだって。


 後日、そのクリスちゃんに合おうとして侯爵の家に行ったんだけど、クリスちゃんは貴族としての暮らしが合わなくて難儀しているみたいだった。

 

 ミュラー侯爵って人にもあったけど、なんか他の貴族たちとは違って結構人が良さそうな人だったし、クリスちゃんが家になじめない様なら最悪侯爵がやっている養護院に戻して支援しようと考えているみたいで、クリスちゃんの事を色々と考えてあげているみたい。


 なんだかこの国は、まともな貴族と変な貴族が入り混じった不思議な国の印象が出来てしまった。

 

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