召喚失敗勇者と騎士団

「それじゃあ次はどうするの? 」


「……そうですね。予定では騎士団員との稽古をして剣術を磨いて頂く予定でしたが……」


「それじゃあそれをやりましょう。えーっと、誰とうちあえばいいんですか?」


 周りを見渡すと、いつの間にか集まって居た騎士団員達が居たんだけど――皆私と目線を合わせない様にしているみたい。

 流石に一般人にさっきの様な力は使わないつもりだから、普通に相手になってくれればいいんだけど。

 

「それでは私がお相手致しましょう。アカリ様の訓練になるかわかりませんが」


「あ、大丈夫ですよ。無限身体強化アンリミテッドボディブースト無限保護アンリミテッドプロテクション。これで結構動けるようになりますし、怪我もしないと思いますよ」


 私はヒューズさんに身体強化と防御魔法をかけてあげる。まあ、かけてあげるというより、これをしないと力加減を間違えちゃったときや寸止め失敗したら危ないしね。


「これは――すばらしいですね! 私にもこのような動きが出来るとは」


 うんうん、喜んで貰えてよかったよ。

 ヒューズさんは型の様な物を繰り返し行っているけど、身体強化を使ってもそれほど強くはなっていない様に感じるけど……周りの騎士団の人も驚いているし、本人が喜んでいるんだから水を差すのは良くないよね。


「それではアカリ様よろしくお願いします」


「はーい。ヒューズさんよろしくね」


 訓練場の真ん中でヒューズさんと少し距離を取って相対する。

 ヒューズさんは正眼の様な構えで私に剣を向けてくるけど、私自体は剣技と言うのが分からないから腕を下げて剣を持っているだけのスタイルになっている。

 戦闘が始まっちゃえば、私の中の勇者の知識が勝手にどうすればいいか教えてくれるから、結構適当でも何とかなっちゃいそうなんだよね。


「行きます!」


 そう言って飛び出してきたヒューズさんは常人ではありえない程早いみたいだけど、私からすると――完全にスローモーションで動いているようにしかみえない。

 周りの人が何か叫んでいたりするみたいだけど、今のスローな状況だと何を言っているのかわからないけど、ヒューズさんの動きに驚いている人たちと、私の心配をしている声なんだろう。


 相対していた距離が大体五メートルくらいだったんだけど、体感時間で十秒くらいたってようやくヒューズさんが半分くらいまで来た感じかな?

 うーん、どうしよう?このまま普通に剣を弾いたらそれで終わっちゃうんだけど……いいのかな?


 ――そして、キーンと金属同士がぶつかり合って出す甲高いがあたりに響き、暫くしてドスッと何かが地面に突き刺さるような音がした。


「お見事です」


「いえいえ、お粗末様です。勇者の力はどうでした?」


「いやはや、想像していたより遥かにお強いですね。この剣もそう簡単に折れたりしない物なのですが、これほどスッパリ切れてしまうとは」


「普通そうだよね。私自身もこんなに強いと思ってなかったし、神様がくれた力ってやっぱりすごいんだよね」


 圧倒的に強いと言う事が分かってもらった方が後々面倒がないかなって思ったんだけど、流石に剣が切れてしまうとは想定外だったけど、気にしなくていいと許してくれた。


 その後木剣に持ち替え、他の騎士団員達複数人同時に戦ったんだけど……強化無しでは全員を瞬殺してしまった。

 一応強化魔法を使ってもう一回戦うか確認したんだけど、この中で一番強いヒューズさんが一瞬で終わったのだから、全員で行ってもさほど変わらないだろうからと言われ、騎士団での訓練は終了した。


「それではアカリ様、少し早いですが昼食になされてはいかがでしょう。先ほど確認に行かせたものから、早すぎてまだ魔導騎士団の方は準備が出来ていないようですので」


 そう言われたので、私達は騎士団の食堂で昼食を取ることにした。

 騎士団では出自や階級など関係なく、全員同じメニューが出されるみたいで、元々貴族出身の人達は持って来るなり家に帰るなりしているらしいけど、殆どの人はここで食事をするんだって。あのうるさい騎士団長は、今まで一度も来たことは無いらしいけど。


 今日のメニューは、黒パン二枚にスープと野菜炒めみたいなもので、飲み物は数種類置いてあるやかんから好きなものを持ってくる。

 飲み物は、緑茶、紅茶、コーヒーと何故かワインがあった。

 私は緑茶にしたんだけど、ハンナ達に聞いたらワインは水みたいなものですから問題ありません――とか普通に言ってたんだけど、おかしいよね? お酒だよ? とはおもったんだけど、流石に本人たちはそれで問題ないっていうんだからもんだいないんだよね?


 食事がが終わっても迎えの人が来ないので、ハンナ達とおしゃべりしていると三十分くらいしてようやく魔導騎士団の人が迎えに来てくれた。


 

 その人たちに付いて行くと、さっきの訓練所とはまた違った少し狭い所に案内された。

 その訓練場には二重になっているみたいで、中心付近に人型を模した人形の様な物が何体かおいてあって、その訓練場を囲うように設置された石の様な物の外に通路があって、そこには魔導士達がずらりと並んでいた。


「アカリ様、ようこそいらっしゃいました」

「初めましてアカリ様。私は魔導騎士団副団長を務めさせていただいています、ジャック=コジーラと申します」


 私を出迎えてくれたのは、先日もあったバルヒェットさんと副団長のコジーラさんと言うふたりだった。

 ハンナ達が言うには、魔導騎士団は魔法オタクの様な人の集まりで、魔法の事になると頭がおかしい人が多いけど、基本的には無害な人がおおいらしい。


「アカリ=シクラです。今日はよろしくお願いします」


「こちらこそ、ご教授の程よろしくお願いします。それではアカリ様、まずは弱い魔法で良いのであの標的に魔法を放ってください」


「わかりました。それじゃあ『火球ファイアーボール』」


 弱い魔法って念じたら、頭の中に様々な一杯魔法が浮かび上がって来たんだけど、簡単そうな魔法と思って火球の魔法を使ってみた。

 魔法を唱えると、目の前に一メートル程の火の玉が出現したので、その火球を標的に向かうよう念じると結構な速さで魔法が飛んで行った。

 

 火球が命中した人形は、命中と同時に燃え上がって火が消えた所には炭のかたまりみたいになっちゃってた。

 うーん、これが一番弱めの魔法だったんだけど思ったより威力が高いのね。これあだったら、剣より魔法で戦った方が簡単にたおせそうかな?


「流石です。火球であの大きさもさることながら、あの威力は流石は勇者様と言ったところでしょう」


「あ、やっぱりそうなんですか? 弱めの魔法と思って使ったんですけど、思ったより威力があってびっくりしました」


「そうですね、勇者様以外が使うと『火球ファイアーボール』っと、この程度のサイズで威力も――御覧の通り、燃えはしますが燃え尽きる様な事にはなりません」


 バルヒェットさんが説明の為に魔法を使ってくれたけど、大きさは三十センチくらいで威力も命中した所が少し焦げた様な感じにはなっているけど、私の魔法と比べるとかなり威力が弱い。


「そしてアカリ様、先程の火球でどの程度魔力の減少を感じました? 」


「魔力の減少? それってどんな感じです? 」


「……特に何も感じておられないのであれば、アカリ様は先ほどの魔法の殆どをマナで補っておられると言う事でしょう。私も火球であれば数百と打つことはできますが、もしアカリ様と同等の大きさと威力であれば、数発撃ったらオド切れになってしまうでしょう」


 バルヒェットさんが言うには、マナが大気中や物質に宿っている魔力で、オドが体内にある魔力になるんだけど、さっきの魔法だと私が集めたマナは百とするとバルヒェットさんが集めたマナは二十位になるみたい。因みに威力だけであれば、超越魔法と呼ばれる使い手がかなり少ない魔法の威力位あるみたいで、それだけでも破格の性能だとか。


 しかも、私は消費したことに気が付かない程少量のオドしか消費しておらず、バルヒェットさんは少しではあるけど消費たことを感じるんだって。

 

「それではアカリ様。一番威力のある魔法であれば流石にオドの消費が分かるかと思いますので、それを使ってみて下さい」


「一番威力のある魔法ですね。ええっと……バルヒェットさん、ここではその魔法は使えないですね」


「どういうことでしょうか?」


「えーっとですね……一番威力がありそうな魔法ですと、無限アンリミテッドクラスになるんですけど、この魔法……際限がないみたいなんです。使ったら……この国無くなっちゃいますよ」


 私の答えに魔導騎士団全員と側仕えの子達がかなり驚いているのが見えるんだけど、最強魔法はどんなのかなって考えていたら複数の隕石を落とす魔法とか、大地震を起こす魔法とか……流石に洒落にならないくらい強烈な魔法がたくさん頭に浮かんでくる。

 しかも、隕石は推定数十メートルから数百メートルまで選べるみたいで、数百メートルの隕石なんて落ちたらこの世界が滅亡してしまう。


 その中でもまだ使えそうな魔法があったんだけど……この魔法もかなり危ない気がするのよね。どうしたものかしら。  

 

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