召喚失敗勇者と副騎士団長
私が寝坊してみんなを困らせたことを謝り、遅めの朝食の支度をしてもらう。
朝食のメニューは、パンと厚切りにされたベーコンに目玉焼き、豆のスープにサラダと朝からちょっとボリュームがあるんだけど……意外と食べられるものね――あ、もうお昼がちかいんだった。
朝食を終え、食後のカフェオレっぽいものを飲みながら、本日の予定をパーラー君が説明するのを聞く。
……パーラー君の説明とは関係ないけど、私が座るソファーの後ろにハンナさん達女性側仕えの子達が並び、対面のソファーの後ろに立つパーラー君達……なんだろうこの微妙な距離感の差は。
女の子たちは、良く言えば年の近い友達とそのお姉さんたちって感じなんだけど、まだイケメン集団のパーラー君達とはあまり仲良くなれていないからなー……うーん、でも仲良くなれる気がしない。
だって、何処の世界に映画のイケメン俳優たちを侍らせて何とも思わない人なんて居ないでしょ……実際にはそんな妄想をすることはあったとしても、実際にそんな状況になったら普通に無理!
だって、まともに顔を合わせると光り輝くような笑顔をこちらに向けてくるんだもん。
そんな美青年達とまともに話が出来る訳がないじゃない! 私は王族でも貴族でもない、ただの一般市民なんですから!?
まあ、そんなこんなで、相変わらず私は男性陣の顔をまともに見て会話することが出来ず、よそ見をしながら行儀悪く話を聞いている。
「おはようございますアカリ様。本日のご予定ですが、アカリ様の防具の為の採寸を行っていただいた後、騎士団駐屯地での能力測定をになります。駐屯地に着いた後は仮の装備に着替えて頂いた後剣術の確認、その後魔法使用の確認をさせて頂きます。そして昼食後、確認させていただいた内容に合わせての訓練などをさせて頂くご予定になります。夕刻には再び王城へ戻った後自由時間になります。騎士団へは私とヴィンとビューそれにハンナとリリアンが随伴し、王城へお戻りになられましたら他の者達と交代させて頂きます」
ふむふむ、今日はとりあえず訓練で一日が終わりなのね。
自由時間があるって言われたけど、流石に夕方以降だから外には出られないでしょうから、今日は早めに寝ようかしら? それとも、側仕えの子達と仲良くするのがいいかしら?
うーん、その辺りは帰ってからきめればいいか! 予定が決められているならその通りに動いておけば問題ないかな?
「パーラー君ありがとう。それじゃあちゃっちゃと支度して騎士団に行きましょう! 」
「それではアカリ様こちらへ」
ハンナさんに呼ばれて着替えスペースでちゃちゃっと採寸をして、急ぎ騎士団へと向かう。
騎士団へと向かう時は馬車で移動だったんだけど、六人乗りの豪華な馬車で移動した。
豪華と言っても、外からの装飾が派手なのと内装の椅子の素材が良いだけで、私側は女性三人だから良いんだけど、パーラー君達は男三人でかなり狭そうに座っていた。
馬車が目的地に着くとパーラー君達が先に降りて、私のが馬車から降りるのをエスコートしてくれた。
馬車を降りて周りを見渡すと――そこは四方を壁(正確には建物)で囲まれた広めの空間で、たぶんここが訓練場かな。
「んー! やっと着いた!」
馬車での移動で固まった体を伸ばし、軽くストレッチ見ないな事をしておく。
それにしても、馬車って思っていた以上に揺れるのね。お尻は痛くは無いんだけど、揺れに耐えるために体を硬くしていたから、筋肉が凝り固まってしまっているかんじがするのよね。
その後、ハンナに連れられて更衣室で仮の私の装備に着替えて戻って行くと、そこには先日あった騎士団長が待っていた。
そう言えば、なぜ騎士団長と魔導騎士団長と別れているかと言うと、元々は同じ騎士団でまとめていたらしいのだけど、昔副騎士団長だった騎士と魔導士どちらが騎士団長にするのかと揉めていた。そもそも魔法の使えない騎士が多いのだから騎士から出すべきと言う人と、そうなると少数派に当たる魔導士たちの待遇が悪くなると懸念した魔導士達と対立していたんだけど過去に召喚されて勇者様二人が、勇者も剣と魔法の二人いるんだから騎士団長も二人で良いんじゃね?っと言う事で同等の権力を持つ騎士団長が二人になったんだって。
ただ、今の騎士団長二人はあまり仲が良くないみたい。そもそも、騎士団長のヴァレンシュタインさんは侯爵家の出で、魔導騎士団長のバルヒェットさんは男爵家からのたたき上げで、ヴァレンシュタインさんが見下している感じでかなり仲が悪いみたい。
「ようこそ騎士団駐屯地へ! アカリ様、まずは剣の腕前を見せて頂きたくともいます! ヒューズ副騎士団長! 」
「はっ! どうぞこちらへ。」
「は、はい」
見た目おじいちゃんなのにヴァレンシュタインの無駄にでかい声に、一瞬びくっ!として耳を抑えてしまおうと思う程、馬鹿みたいに大きな声で叫んでいる……この人とは仲良くなれなさそうね。そして、ヒューズさんと呼ばれた中年の副騎士団長さんが私を案内したのは、よくある鎧を付けた案山子の様なものだった。
と言うか、あの人ヒューズさんに任せて自分はどこか行っちゃったよ!え?いいのあんなので? ……まあ、私もあんな声だけ大きなおじいちゃんより、実直そうなおじさんの方が訓練とかしやすそうで良いんだけど……少し呆れたわ。
少しジト目でヴァレンシュタインが消えていった扉を見ていると、ヒューズさんは苦笑いをしながら小さな声で申し訳ないと言っていた。
「こちらでは、アカリ様の力や剣の扱い方を見させていただきます。あちらの目標に切りかかって頂ければ結構です。剣はこちらをご使用ください」
「あの、私が切ったら真っ二つになってしまうと思うんですけど……大丈夫ですか? 」
「……か、構いませんが、そんなことが可能なんですか? 」
「たぶん簡単に真っ二つにできますよ? ちょっと見ててくださいね」
そう言うと、私は受け取った剣を片手にブンブン高速で振り回しながら案山子の側まで寄って行き……振り返る。
それを見ていたヒューズさんや側仕えの人達は頭にはてなマークが浮かんでいるような顔をしていたんだけど、私が戻りだしたとたんに案山子はバラバラに崩れ去った。
「な、な、なんてことだ」
「おいハンナ、あれ見えたか?」
「見える訳ないでしょ。少し体がぶれたようには見えたんだけど、流石にあの剣速はみえないわよ」
「どうですか? そこそこ綺麗に切れたと思いますけど? 」
「……あ、はい……すばらしい……です……」
あれ?ヒューズさんの何か魂が抜けかかってるように見えるんだけど? なにかあったのかな?
そう思ってハンナさん達を見ると、苦笑いしながら説明してくれた。
曰く! アカリ様が勇者と言う事は聞いていたけど、見えない程高速で剣が触れるとは思っていなかったようで、想像をはるかに凌駕した力にびっくりしたんだってさ……もしかして知らないのかな?
「ヒューズさん、それにみんなも、勇者の力の事についてどこまでしってます? 」
「勇者様の力……ですか。私が聞いているのは、神々より力を与えられて魔王を討伐されると言う事だけしか……」
「そうですね。私が聞き及んでいた力は、人では到達できないくらい強としか。アカリ様は少し特殊な気もしますが、冒険者の中でも最強の白金クラスのより多少強いくらいかと思っていました」
冒険者って何となくイメージは沸くんだけど、強さっていうのが良くわからないのよね。
「白金クラスの冒険者ってどのくらい強いの? 」
「チームとしての強さなので一概には言えませんが、下級悪魔を倒せるくらいでしょうか? 」
「ごめん、悪魔の強さが分からない」
「そうですよね。下級悪魔がもしこの場に出たら――騎士団で生き残れるのは半数以下でしょうね」
白金冒険者ってかなり強いのね! でも、もし私が制限なく暴れることが出来たのであれば、この王都が無くなるくらいの力が出せてしまうのよね!
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