召喚失敗勇者とイオリゲン王国

「そなたに頼みと言うのは、この世界のゆがみを正してもらいたいのだ。先ほどぬしと話をしていたセクメトリー達神々が昔に行ったある事を行ったせいで、この世界の神々のバランスが崩れかけておるのだ」


 いきなりそんな壮大な話をされても困るんですけど。私まだこの世界に来てから何もしてない新参者だし、そもそもこの世界にで魔王も倒さないといけないらしいのにそんなことまでする暇なんてないんじゃないかな?


「そう申すな。お主自体にはそこまで難しい事をやってもらうつもりはない。」


 ……あの、タケミカヅチ様……心を読んで会話しないでくださいよ……まあいいですけど。


「すまぬな。我が下界に姿を現すと色々と影響が出るでの、特定の神殿などの隔離されたところで相手の思念だけ読みとっての会話しかせんからの。それはさておき、お主にやってもらいたいことは――」


 タケミカヅチ様が言うには、この世界の神々が他に居た神々を排斥してしまい、今はタケミカヅチ様を含む七柱の神々しかいなくなってしまったそうだ。


 それでも、その六柱達は特に争いをせずに平和な世界の維持をしていたのだけど、その歪みから魔王と言う存在が現れたのだとか。

 しかも、その魔王と言うのは過去に居た六柱の神々が排斥したと思われていた神々に何かが起こり、魔王と化していると言う事が前回の魔王討伐の際に解ったのだという。

 それに気が付いたタケミカヅチ様は、六柱の神々が過去に行った事柄などを調べた結果――六柱神全てがそのことに関与していたことが分かったのだとか。

 しかも、タケミカヅチ様が六柱神の一人に力を貸し与えたことが原因であったとわかり、今現在の世界の歪み――魔王や悪魔達の討伐をどうにかしたいと考えていたのだというが……。


 うん、無理。

 人間である私の人生は高々数十年、そんな短い時間でそんなことは無理だと思うし、私の人生全てをこの世界に捧げる事なんて出来ない! と言うか断固拒否!!


「……我は其処までお主に無理を言うつもりはないので安心しろ。我がお主に頼みたいのは、他の六柱神の神々の力を抑えるか削いで欲しいのだ」


 神様の力を抑えるか削ぐって、それって私が他の神様から恨み買って襲われたりしそうで怖いんですけど。


「少し勘違いしている様だな。お主は神々の力とは何だと思っておる? 」


 え? 神様の力? 何だろう……供物とか? おなかがすいたら力も出ないし。


「ま、まあ、それも間違いではないが――それは神々を信じる事や助けを求めたりする信仰心そのものが我ら神々の糧となるのだ」


 ほうほう、神様は私たちが祈ればお腹いっぱいになるんだね――便利?


「……違う。我ら神々に空腹とか飢餓感の様な物は存在しない。信仰心と言う力が我らのような神々の存在を肯定し顕現させるのだ。しかし、我のように元々日ノ本の国にもおり、このような異世界に分霊しているような神の場合はどちらの力も統合して使う事が出来るので多少は異なるがな」


 なるほど――タケミカヅチ様が異世界チートを使っていると言う事なのですね!


「違うわ! ……その辺りが今度話すことにしよう。して、お主のやってもらう事は簡単な事だ。他の神々を信仰している者達の中で、悪事を働いている者達をどうにかしてもらいたいのだ」


 っは? 何で私がそんなことしないといけないの? そう言ったことは警察の人がやるべきことでしょ! って、警察がこの世界にあるのかわからないけど、そう言った仕事をしている人が居るはずなんだからその人たちに言ってよ! しかもそんな事でなんで他の神様の力が削げたりするのよ!


「おい、『っは?』ってなんだ『っは?』って……」


 ご、ごめんなさい。ちょっと調子に乗りました、申し訳ありませんでした!

 流石に神様の向かってこれは無いよねと思ってジャンピング土下座をした……チラチラ……


「――はあもう良い。簡単に説明するぞ。この世界は現代の日ノ本の国のように安全ではない。善良な者も悪事を働いている者もこの世界では、基本的にはどこかの神を信仰する宗派に入っているのが普通だ。しかし、そういった者共の中で信仰心が強い者ほど神職や地位のある者が多く、そして悪事を働く者達も多いのだ。我々がこのような事をしても罰を与えられないのは真摯に神々に祈っているおかげだ、ともいう者すら居る始末。そのため、お主にはそう言った悪事を働く者どもを断罪し他の神々の力を削いでもらいたいのだ」


 とりあえず悪さをする人を懲らしめればいいわけね? でも、どうやってその人たちが悪さをしているかって調べるの?


「そこは我から時折神託を授ける。しかし、こことは違い下界の神殿以外の場所では我の声もうまく届かぬ故、ヒントの様な物しか届かぬかもしれぬがな」


 ヒントだけで悪事を裁くって、どんな謎解きゲームですか!――ごめんなさい。

 そうなるとタケミカヅチ様から悪事を働く人の情報を貰って、その悪事を裁く依頼を貰うって事ですよね? ――報酬ってなにかあるんですか? 

 

「どれだけ神々の力を削げたかによってその報酬をやろう。しかし、お主が召喚された国と我が信仰されて居る国はなかなか距離があるのだ。まあ、お主が我の祀られておる神殿に行った際に各神殿より少しばかり報酬を払う事にしよう。そして、我の祀る本殿にお主が来た際に残りの全てを与えるとしよう。勇者はまずその本殿を目指すのが普通であるから、誰にも疑問に思われることはあるまい」


 そのわずかばかりの報酬って、私の世界で言う所のどの位の金額になるんですか?

 それに、どの程度の悪事を働く人を裁くとどのくらいの報酬になるんですか?


「……まあ、我の依頼一つに付き銀貨数十枚から金貨一枚ほどであろう。銀貨十枚で平均的な家庭の月収程ではあるが、この世界では食事にかかる費用が安価であるから少しあいまいではあるが、食料であれば銀貨一枚が五万ほど、その他の物であれば一万程の価値になるだろうか。因みに銀貨百枚で金貨一枚になるが、これは神職の司祭や国の高官などを断罪した時に支払う事にしておる」


 なるほどなるほど、そうなると悪事を働くものを倒せば倒すほど報酬が貰えて、更に地位の高い人を裁けば更にボーナスが貰えるって事ですね。

 それに、タケミカヅチ様が祀られている本殿に行けば更に上乗せされると――やります!


「げんきn……ん、んん。そうか、やってくれるか。であれば、我からもお主に祝福を与えておこう」


 タケミカヅチ様がそう言うと、私の体が光出して力が沸き上がるような感じがした。

 あれ?さっきのセクメトリー様の時はこんなエフェクトなかったけど、そう言えば勇者の力ってもらえてるんだよね?


「セクメトリーの力はお主がこの異界に来た時点で既に付与されて居る。ほれ、先程変な土下座をした際に痛みなどは感じなかったであろう」


 そういえば、あれだけ盛大にジャンピング土下座を板の間の上でやったのに、一切痛みはなかったわ。これが勇者の力なのか……あれ? そうなるとセクメトリーの勇者二人分の力より、タケミカヅチ様がくれた力の方がかなり強いのかな?

 

「祝福はお主が何かをやらかした際に巻き込まれる恐れのある仲間たちの為に多めに付与してある。まあ、この祝福はお主自身が使っても良いし、お主が気に入った物に与えても構わないと言う事だ。ただし、祝福を付与した物が無くなった場合はその分の祝福も消え、二度と戻らないので注意せよ。ふむ、そろそろ時間切れのようだ。下界で始まったお主の召喚の儀式がそろそろ終わるようだ。それでは頼んだぞ、今代の勇者よ。世界を守りながら、他の神々の力を削いで行け!」


 ちょ、タケミカヅチ様唐突に別れの挨拶って――あーれー。


 タケミカヅチ様の会話が終わると直ぐに体が浮き上がるような不思議な感触がして、背中に紐でも付けられている人形が引っ張られるように建物から飛び出し、真っ白な世界の空へと飛びあがった。



 まあいっか。とりあえず異世界に着いたら情報収集と、勇者として何をして欲しいのか、そして何を支援してもらえるかとか確認してからこれからの事を考えよう。

 イケメン従者とかマッチョなナイスガイな叔父様とか仲間にして魔王討伐も楽しそうだけど、まずは年の近そうな女の子が一人は欲しいわね。




 そんな様々な妄想を考えているうちに真っ白な異界から、異世界の召喚陣へと飛ばされたのであった。

















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