嘘つき父さん

@jimo-fu

嘘つき父さん

僕は父さんが嫌いだ。

いつも嘘をつくからだ。昨日の朝も、

「今日は7時ぐらいには帰れそうだから、おいしいもの作っとけよ!」

と言ったのに、8時ぐらいになって、

「ごめん、急な仕事が入って、今日も遅くなりそう。先に食べててくれ。」

ってメールが入った。

先週の日曜日も、遊園地に連れて行ってくれると言っていたのに、仕事だと言って行けなかった。

母さんに、父さんの仕事を聞いてみても、いつも遠くを見ながら、「お父さんはね、とても忙しい仕事をしているのよ。」としか答えなかった。

父さんは多分、家族を愛していないんだと思う。浮気相手でもいるのだろうか。

ついさっき、駅前で偶然あった時、一緒に帰ろうと言ってきたのに、急に電話が掛かってきて、「ごめんなシゲル。父さん、仕事入っちゃった。」と言って、真面目な顔で走り去っていった。


父さんはひどい人間だ。嘘をついて、いつも僕と母さんを傷つける。どうしてそんなことができるのだろうか。

父さんは、最低で、最悪な人間だ。だから、僕は父さんが嫌いだ。

「キャー!!」

きっとこんな風に、女性の叫び声がしても助けないだろう。きっと目の前まで行ってから、仕事だと言って、逃げていくのだろう。


ん?何やら様子がおかしい。さっきから地鳴りが止まらない。いろんな人が、一目散に逃げていく。

加えて、とても人とは思えない咆哮が聞こえてきた。

おいおい嘘だろう?こんな大怪獣、見たことない。この前父さんと見た、ゴジラみたいな感じだ。恐ろしい。怖い。

泣き叫ぶ子供と、手をつないで走る父親を見て、目を覚ました。そうだ僕も逃げなきゃ。これが夢だろうと、死んでしまうのはマズイ。

おかしい。体が動かない。逃げたいのに、逃げられない。怖くて足が動かないなんて体験、初めてだ。

それなのに、僕には手をつないで逃げてくれる父親なんていない。怪獣と目が合った。死が目前まで迫っていた。ズンズンとこちらに進んでくる。もうだめだ。


思い返せば、ひどい人生だった。ずっと父さんに嘘をつかれ、裏切られた人生だった。その最後がコレか。

報われない。巨大な足が目の前にある。潰される。

最後にもう一度、会いたかったな――。



何かがおかしい。急に目の前が明るくなった。僕は死んだのか?ゆっくりと目を開けた。

怪獣はいなかった。代わりに、目の前には、ウルトラマンぐらい大きい、ヒーローが立っていた。

そのヒーローは、僕をそっと拾い上げ、避難させてくれた。初めて見たはずのヒーローからは、なじみのある雰囲気がした。

僕はその理由が直感できた。根拠なんて一つもないのに、一瞬で理解した。間違いない、

「父さんだ。」

僕は無意識に声にだしていた。

そこには、いつもの父さんには、想像もできない、頼もしい背中、力強い格好。そして、絶対に平和を守るという、大きくて強い意志が感じられた。


それからというもの、慣れた手つきで怪獣を追い詰めると、少年なら誰でもあこがれるような光線を放ち、怪獣を見事に退治した。

そして、周囲の安全を確認すると、力強い声とともに去っていった。僕はただ、その様子を見ていた。頭の整理が追い付かなかった。

しばらくして、向こう側から走ってくる、いつもの見慣れた父さんを見て、ハっとした。

「シゲル!こんなところに居たのか!探したぞ!」

さっそく父さんは嘘をついた。本当は、最初からずっと僕を見つけていた。

「よくとっさにここまで避難できたな。お前は本当にすごい奴だ。」

また嘘だ。本当にすごいのは、父さんの方だ。

「さぁ、父さんの仕事もなくなったし、一緒に帰ろう!」

そう言って、手を差し出してきた。どうやら、これは本当のようだ。


帰り道、僕はこんな質問をしてみた。

「もし、またあんな怪獣が出たら、父さんは僕たちを守ってくれる?」

そうすると、父さんは力強い目で、

「どうだろうなぁ。父さん、力もないし、小さいし、守れないかもなぁ。」

またそうやって嘘をつく。だから、

僕は父さんが嫌いだ。

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