第3話 クリスマス


 朝、悠人は教室で頬杖をつきながらぼーっとしていた。


 「昨日見たぜ~」


 そんな悠人にある男子生徒が話しかけてきた。


 「何を?」


 「とぼけるなよ。白石先輩と一緒に帰ってたじゃないか」


 神谷浩之かみやひろゆき。明るい性格で悠人とは中学時代からの付き合いである。もちろん、オスカーのことも知っている。


 「あれはうちの店に来たいっていうから案内しただけ」


 「ほんとにそれだけか?」


 「それだけだよ。ほら、授業始まる」


 授業が始まっても浩之はチラチラこっちを見てくる。


 (クリスマス、か・・・)


 ーーーーーーーーーーーー昨夕、喫茶店オスカー内


 「注文が決まったら言ってくださいね」


 「う、うん」


 平日の夕方ということもあり、店内に彼女、白石愛華以外の客はいない。


 「じゃあ、このモカブレンドを」


 「かしこまりました。少々お待ちください」


 悠人はサイフォンを取り出し、お湯を準備する。豆をセットし、静かにお湯を注ぐ。

 適量注いだところでヘラを使って攪拌。あとは下の容器に溜まったコーヒーをカップに注いで出来上がり。


 「お待たせしました。モカブレンドです」


 「手慣れてるね」


 「いつもやってますから」


 彼女はカップを両手で包み込むように持って、口を付けた。


 「おいしい・・」


 「それはよかったです」


 悠人は営業スマイルとともに答える。学校では見せない表情だ。


 「やっぱり学校とは別人みたいだね」


 「まあ、自覚はあります」


 しばらく、沈黙が店内を満たす。時々悠人が、拭いていた食器を置く音が響く。少ししてから彼女は口を開いた。


 「なんで今日ここに来たいって言ったか聞かないんだね」


 「話したくなったら話してください。といってもは聞くくらいしかできませんが」


 「・・・・・うん、聞いてくれる?」


 「はい」


 悠人は食器を置いて、答える。


 「あのね、私の友達にね、彼氏がいるの。クリスマスには一緒にイルミネーション見に行くって約束してたくらい二人は仲よかったんだけどね」


 「なるほど」


 「その彼氏がね、何考えてるのかわかんないんだけど、私に告白してきたの」


 「彼女がいるのにもかかわらず?」


 「うん。それでその告白してるとこが誰かに見られてたらしくて、今日ばれちゃったんだよね」


 「それは気まずいですね・・」


 「うん、私はどうすればいいのかな」


 「・・・先輩はどう思ってるんですか、その彼氏のこと」


 「なんとも思ってない」


 「そ、そうなんですか」


 (彼女いるのに別の女子に告白するそいつもそいつだけど、ここまで脈なしだと少し同情するな)


 「それに彼、付き合ってる人いないよねって言ってきて。あきらめないって・・」


 「でも普通に恋愛対象として見れないって伝えれば・・・」


 「それがね、その私の友達にも告白のことばれちゃってるから、なるべく波風をたてないようにしたいんだよ」


 「ああ~。ならいい方法がありますよ」


 「えっ、なになに?」


 愛華は身を乗り出しながら、食いついてきた。


 「先輩に彼氏がいるってことを見せつければいいんですよ」


 「私、彼氏いないよ?」


 「別に誰か年の近い男子と、それこそイルミネーションでも見に行けば誰かしらうちの高校の生徒がいるでしょうから。そこから噂になるんじゃないですか?」

 

 「なるほど~」


 愛華はコーヒーを見つめながら、考え込んでいる。


 「じゃあさ、」


 「なんでしょう」


 「彼氏役、やってよ」


 「はい?」

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