ずっと…… 18



「それはね……油断してる時よ」


「……っ!!」


「ほら、『当たってる』みたいな顔した」



ぇっ…?


藍の顔を覗くと、一歩遅くて顔を手で隠してしまっていた。



「ぁ…あの…油断…て?」


「さっきのは、まさしくそうね。

想定内の事なら防御出来るんだけど、

不意に抱きつかれちゃったり、貴方の事なら、何でも知りたいの。て、上目遣いで強請られたり、想定外の事が起きると、ポーカーフェイスを保てなくなるのよ。

たぶん、愛さんは、あーくんの予想の遥か上をいつも越えてるんじゃない?」


「…ぇ…そう…なの?」


「…ったく! もう部屋に行くぞ」


オレの視線を感じたのか、この話題は終わりにしたいのか、椅子を引いて立ち上がった。



「もう行っちゃうの?カウントダウンは?」


「とっくに新年になってるよ」


「「「えっ?!」」」



それから、慌てて新年の挨拶をすると、

オレ達は、リビングを出た。


廊下を歩きながら、藍が小さな声で「母さんには敵わねぇな」と、呟いてた。


オレは、そんな藍の背中を見ているうち衝動に駆られてしまい、背後から抱きついてしまった。


「藍。オレの前では、もっと嬉しそうな顔してよ」


一瞬、身体をピクッとさせてから、やっと聞き取れる位の声で「愛と2人きりの時ならな」て、言ってくれた。





部屋に入ると、途端に緊張してきた。


先にお風呂入っちゃったし、後は寝るだけなんだよね。


そんなオレの気持ちなんてたぶん知りもしない藍は、淡々と明かりの調節をしている。

気づかなくて、いいんだけどね。



「このぐらいでもいいか?」


顔の判別が出来て、寝るのに邪魔にならない程度の明るさにしてくれた。


「うん。ありがとう」


 

藍が先にベッドに入り、布団を捲って

「おいで」と、て手招きしてる。



「……うん。……お邪魔…します」


  

こんな時、どこを見たらいいのか解らず、藍に背中を向ける形で潜り込んだ。


お風呂上がりに、下着は新品のを貰ったけど、部屋着には、藍が中学の時に着ていたスウェットを貸してくれた。


中学生と同じか?と、少しムッときたけど、藍のオレを見る優しい眼差しを見てたら、何も言えなくなった。


衣擦れの音と共に、背後から抱き締められる。



「ぁ…藍?」


「おやすみ」と、耳許で囁かれた。


「…ぅ…うん。…おやすみなさい」



鎮まれ!鎮まれ!


こんなに密着してると、鼓動まで聞かれそうで……変に意識してるのがバレそうで……ますます緊張してくる。


いつもより濃い藍の匂いにオレ……


おかしくなりそう…


だから…鎮まれ!オレのいろんなところ、大人しくなって!



「……ん……はぁ…」  



オレがいろいろ戦っていると、背後から艶っぽい藍の息遣いが…。


耳許を藍の息が掠めていき、動悸がさらに激しさを増す。


ダメだ。身が保たないから、手だけ握って貰う事にして、少し身体を離そう。



「……藍?」


 

そう思って声をかけたのに、返事が無い。

もう一度呼んでみようと思った時、背後から規則正しい寝息が聞こえてきた。


ぁ……なんだ…寝ちゃったんだ…。


ん?……なんだ…て、なんだよ。


心の呟きに、期待していた自分が居たことを認識して、可笑しくなった。


それと同時に寂しさを感じてしまったのも事実で…

行き場の無いこの熱をどう鎮めようかと思ったけど、直ぐに冷めるはずもなかった。


こんな気持ちになるんなら、その時になったら…なんて言ってないで、トラウマの話、しとけば良かった。


そうじゃなくても、ベッドに入る時に自分からお願いすれば良かった。



「…藍……抱いて…」



……なんて…聞いてるはず無いのに。




「……いいのか?」






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