ずっと…… 17


ゆく年くる年を見ながら、お蕎麦をすすってると、


「ねえ?あなた達の明日の予定は、どうなってるの?」


と、お母さんに訊かれた。 



「…オレは、朝から仕事」


「…そう。愛さんは?」


「オレは…特にありませんけど、明日は、実家に泊まろうと思ってます。昨年は、全く帰らなかったので」


「ご両親は、御健在なの?」


「……母は、オレを産んで直ぐに亡くなりましたので、父だけです」


「まあ、そうなの。それじゃ、お父様もご苦労なさったのね…」


「今は、そう思えますが、昔は、素直に父と向き合えませんでした」


「それに気づけただけでも偉いわ」


「そうでしょうか」


「そうよ。これからいくらでも取り返せるわ。……ぁ…あーくんは、何時までなの?」


「……昼には終わるけど?」

 

「だったら、それまで愛さんは、ここで待ってなさい。 あーくんが帰ってきたら、一緒にご実家に行けばいいわ。どうせ、きちんとご挨拶してないんでしょ?」


「……ダメだ」


……え?…何が…ダメ?



「あら、どうして?」



そうだよ。何でだよ。オレだって一緒に実家に帰ってみたいよ。


藍は、黙々とすすってた箸を止め、どんぶりの上に置くと、オレの腰を引き寄せた。

 

「……愛をひとりにして行けるかよ」



……ぇ…?



「「あっ…」」



何気に達郎さんの顔を見たら、視線が合って……2人の声が揃ってしまった。


たぶん…同じ事を思ったんだと思う。



「あらぁ。2人、仲良くなったのね」


「貴和子さんも、そう思うでしょ?だから、大丈夫だよ。藍君? それに…僕、メンズの仲間入りしたんだから」


「…ぁ…あの…達郎さんのおっしゃってる意味は解らないけど…

…藍?オレ…平気だよ? ていうか…平気に、なりたい。藍のご家族だし…。ね?だから…」



オレの気持ちが伝わるように、真っ直ぐに藍を見つめた。


藍も、オレの真意を探るように瞳の奥まで見つめてきた。


それから天を仰ぎ溜め息を漏らすと、


「わーったよ。但し、何かあったらトイレかオレの部屋に逃げて鍵閉めろよ。解ったな?」


「ありがとう!藍!」


思わず藍を脇から抱き締めた。


「こら!愛!離せ!」



あれ?調子に乗りすぎちゃったかな?


抱き締めながら、藍を見上げると、


ぁ…顔…真っ赤だ…耳まで赤い…


「あーくんの顔が赤くなるの不思議?」

 

……え? 


お母さんは、藍にそっくりな悪戯っぽい笑みを浮かべた。



オレ…不思議に思ってた。


百戦錬磨の藍が、何でオレごときに赤くなるのか?

それも、意外なタイミングで。



「はい! どうしてなんですか?」


「つまんねぇ事、訊いてんじゃねぇよ」


「ダメ? だって、オレ、藍の事なら何でも知りたいんだ」


  

シャツの袖を掴みながら、藍を見上げたら、冷めかけてた顔が、また赤くなった。


そんな様子を見ていたお母さんが、吹きだすように笑い始めた。


「あーくん…ほんっとに…愛さんの事が好きなのね」


 

それには答えず、明後日の方を向いている。


「藍君の、そんな顔。僕にとっては新鮮だな」


「昔は、よく見せてくれてたのよ。まあ、私と私の母限定だったけど」


「あの…」



チラッと藍を見上げると、片手で顔を隠していて、落ち着かない様子だった。


「…どんな時に?」


「嬉しい時よ」


「嬉しい?」


「そう。小学生の頃まではね。 中学生になった辺りから、顔を赤らめなくて済む術を身につけたみたいで、前みたいに人前で赤くなる事は無くなったのよね。でも、それは、ある条件下で発動する事が解ったの」


と、オレの方に身を乗り出してきたので、オレも合わせて乗り出す。


「どんな?」


「人を実験動物 みたいに言ってんじゃねぇよ。愛も、のっかてんじゃねぇ」


「それはね……」


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