ずっと…… 2


キャァァァッッー!!



ほんの一瞬だけ、やばっ! ていう顔になったけど、それは本当に一瞬で、直ぐに営業スマイルを取り戻し、にこやかに手を振っている。


後で解った事だけど、大晦日にアメ横に紫津木藍が現れるという噂が、ネット上で噂になっていたらしく、ファンのコ達は、それぞれの店に、はっていたらしいのだ。


恐るべしSNS。


「ごめんなさいね。私が無理なお願いしちゃったから」


「いえ」


そう答えたものの、このままじゃ、お店に迷惑かけちゃう。


藍も、説明してくれてるけど、このままじゃ埒が明かない。


オレがなんとかしないと…!


藍の傍まで行って、息を大きく吸い_、


「申し訳ございません!」


まず第一声、大きな声を出してみた。


すると、ファンのコ達だけでなく、藍も、驚いた目をして振り向いた。


よし!


「紫津木は、これから次の仕事に行かなければいけません! この辺りで失礼させていただきます! 申し訳ございません!」



藍は、オレにだけ解るようにニヤッと笑った後、ファンのコ達に向き直って、


「ごめんね」


と言って手を振っている藍の顔は、爽やかなイケメンスマイルに戻っていた。


恐るべし。


おばちゃんに教えてもらって、裏口から出ようとしたけど、他の買い物は、どうしようか。という事になり、 店の事務所で悩んでいたら、


おばちゃんが、お詫びに私が代わりに買ってきてあげるわ。て、言ってくれて。


買い物リストを藍が見せると、それぞれの店に電話してくれた。そしたら、おばちゃんの声掛けのお陰か、お店の人が持ってきてくれる事になった。



「すみません。ご迷惑かける形になってしまって」


藍が、ペコッと頭を下げると、


「何言ってんのよ。いつも、ごひいきにしてもらってるんだから、このくらい」


と、豪快に笑ってから、店番に戻って行った。



「愛?」


「ん?」


「さっきは、サンキュな。助かった」


「うん。ヘヘツ」



*****



藍と事務所で待たせて貰っているうちに、裏口の方から次々と品物が届き始めた。


毎年買いに来てるのか、「にぃちゃん、毎度! おまけしといたよ!」とか、

佃煮屋のおばちゃんみたいに、「お兄ちゃん、有名な人だったんだね。サインくれる?」とか、中学生位の女の子を連れてきたおばちゃんもいて、その女の子に藍は、丁寧に対応していた。頬をピンク色に染めて、初々しくて、一緒の写真を撮ってあげたら、「家宝にします!」て、何度も頭下げて、可愛かったな。ちょっと羨ましかった。


集まった品物は、マグロのサクに、車海老のフライ、お正月飾り。


毎年、お母さんが再婚する前から、大晦日にここで買い物するのが恒例になってるみたい。


顔を覚えられる訳だよね。


でも、何で今年はオレと来たんだろ?


たまたま今日、オレの引っ越しで一緒に居たから?


うーん。



それから、おばちゃんにお礼を言って出てきた訳だけど……



何で?


何でこうなる?



「どうした?固まってんな」


喉を鳴らしてクックッと笑ってる。


「騙し討ちだ」


「気づかない愛が悪い。親に頼まれたつっただろ?」



うっ‥‥


そうだけど…


心の準備が……



目の前には、ローマ字表記された


SHIZUKI


の表札が…。









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