最終話 ずっと…… 1

一応、アメ横前まで来たけど…



「ねぇ。本当に、この中入ってくの?」


「…そうみてぇだな」  



やっぱり行くんだ…


目の前には、ぎゅうぎゅうのすし詰め状態の横丁の入り口。


こんなんじゃ、何の店なのか、店先まで行かなきゃ分からない…。



「いくつ回るの?」


「…4つ」



ははっ。回れるのか?


藍も、珍しく不安げだ。



「…ほら。行くぞ」


覚悟を決めたのか、手を差し出す藍。


ん?…でも、この手は?

 

「繋がなきゃ、はぐれんだろ」


「…ぇ…でも…」


「こんだけ混んでたら、わかんねぇって」


オレの返事を聞かずに手を強引に繋ぐと、勢い良く横丁に突っ込んで行く。


うわっ…すごっ…!

 

藍がかき分けて、オレは背中に隠れてるだけなんだけど、それでも、油断してると身体ごと持っていかれそうだ。


でも、思ったけど、これだけ混んでたら、藍ひとりで来ても、気にとめる人も居ないんじゃないの? 何で嫌だったんだろ。


ぁ…やばっ…! 手がっ…、手が、離れる!

あっ!


手がするんと離れてしまった…!

と、思った瞬間、腕を力強く掴まれ、そのままグイッと引っ張られて、藍の前に。


「ったく!危ねぇな」


「…ごめん」


「愛に言ったんじゃねぇよ」


え?そうなの?と、藍を見上げると、ちょっとイラついているようだ。



「しょうがねぇな」


独り言?とも思える位に小さな声で呟いたと思ったら、オレの脇から腕を通してきた。


ん?何するの?

うっ‥うわっ!足が浮いた!


藍は、片腕でオレを抱き上げたようで…


「ちょっ、ちょっと下ろして!」

 

「誰も、足元なんて見てねぇよ」


「だからって」


恥ずかしいんですけど…!        


「また、はぐれんだろ」


うっ‥‥


「一軒目、見えてきたぞ」


「ぁ…佃煮」



店先には、様々な佃煮が並んでいて…

白いご飯が欲しくなる位いい匂いがしていた。



「あら、いらっしゃい! 来てくれたね」


「こんにちは」



流石。と、言いたくなる程綺麗な笑顔を向ける藍。



「今日は、綺麗なコは一緒じゃないの?」


この店の女将さんなのか、アメ横って感じのサバサバしてそうな年配の女性だ。


ん?…綺麗なコって?


疑惑の目を藍に向けると、藍は、勘弁してくれと言いたげに、大きく息を吐いて、


「おばちゃん、あれは母でしょ?」


「あら。そうだったわね。彼女の前でまずかった?」 


そう言って、豪快に笑い始めたおばちゃん。


彼女って……まあ、いいか。


藍を見上げると、ごめん。て、口を動かした。


いいよ。って、オレも首を横に振る。



その後、おばちゃんが色んな佃煮を試食させてくれて、いっぱいサービスしてくれて、さあ、次の店に行くか。て、なった時、徐におばちゃんが、藍の前に色紙を出してきた。


「ごめんね。この間来てくれた時に一緒に撮った写真、孫に見せたら大騒ぎになっちゃって。 一枚いいかね?」


申し訳無さそうに、チラッと藍を見上げて、余程自信が無いのか、助けを求めるように、オレの顔も見てきた。


どうするのかな?と、藍を見上げると、


「いいですよ。お名前は?」


にっこりという表現が、ぴったりな笑顔を浮かべていた。


やっぱりね。


「ありがとう! 助かるわ。美咲っていうの。」


マジックのキュッキュッという音を響かせて、サラッとサインを書くと、「美咲ちゃんに、よろしく」と、一言添えるのを忘れずに、おばちゃんに手渡していた。


たまに、藍のこんな姿を見ると、凄いな。プロだな。と、感心してしまう。


でも、こんな風にファンサービスをした後は、決まり決まって、どっとまとめて疲れが襲ってくるという事も知っている。


おばちゃんは、嬉しそうに色紙を眺めた後、

「写真もいいかしら? 美咲の携帯に送ってあげたいから」


申し訳無さそうに、再度のお願いをするおばちゃんに、藍は、なんて事無い感じに、「いいですよ」と、綺麗に微笑んだ。


色紙を持ったおばちゃんを藍が背後から肩に手を添えてる構図で、オレが撮ってやった。


ずっと貼り付きっぱなしの笑顔を見てると、そろそろ解放してやりたいな。と、思えてくる。



「藍?」


ひとりになった隙に声をかけた時、藍の背後が騒がしくなってきた気がして、何気に視線を藍から外して見てみた。


藍も、オレの視線に気づいて背後に視線を送ると_、

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