誓い 14
翌朝、一条さんは、普通だった。
いつものように起こしてくれて…朝食を作ってくれて…。
ただ、出かける前に、『外出する時は連絡しなさい』の一言が加わっただけ。
「いってらっしゃい。」と、玄関先で手を振ると、柔らかく微笑んでくれた。
ぁ…もう一つ気づいた事がある。
それは…
一条さんも男だった…て事。
そんな事は当然で、今までだって、ずっと男だったわけで…
だけど、そんな風に考えた事無かった。
物心ついた頃から、ずっと近くにいて、家族のような存在だったから。
でも、昨日の一条さんは違ってた。
今まで感じた事のない…何て言うか…男の色気?…みたいなものを感じた。
叱られてる時に、そんな事感じてたなんて、もっと叱られそうだけど。
だからと言って、藍に感じてるものを一条さんにも感じてしまった…ていう訳ではなく…何て言ったらいいのかな…
前に、一条さんにも片思いの人がいる…て、言ってたけど…
きっとその人の前では、いつも男の顔してるんだろうな…て、思った。
あんな完璧な一条さんが振り向いてもらえないなんて、きっとどこをどう見られても、パーフェクトな大人の女性なんだろう…と、思ったりした。
そんな完璧な男性の前で、オレはかなり甘えてきた。
これまで一条さんに対してとってきた行動や言動の数々…。
恥ずかしくて思い出したくない。
そんな人の感情に鈍感なオレなり考えた事。
いつまでも、一条さんに甘えてちゃいけない。
オレのマンションに帰らなきゃ…だね。
*****
クリスマスを過ぎると、世の中は、一気にお正月色が強くなる。
歳末セールに福袋の予約、雑誌では新春号とか。
昨年の今頃は、こんなワクワクした気持ちになんてなれなかった。
賑やかな雰囲気も、逆に自分だけ取り残されたような気持ちにされるから嫌いだった。
藍に、家に戻りたい事を伝えたら、
正月は、仕事が入ってて寂しい思いをさせるから、もう少し居たら?て、言われたけど、オレは、年内中に越して、新しいスタートを新年から始めたかった。
一条さんにも伝えると、特に引き止められることは無くて、
ストーカー行為も、収まってた訳ですし、一緒に住む意味も無くなってましたからね。
と、綺麗な笑顔を見せた。
そして…大晦日。
荷物は、来た時と同じキャリーバッグ1つだけ。
「じゃ…オレ、先に下に行ってタクシー捕まえておくから」
藍は、一条さんに軽く会釈をしてから先に出て行った。
「一条さん、ありがとうございました」
「……いえ。私こそ、お礼を言わせて下さい。 この2ヶ月、とても楽しかった。
…貴方が、家で待っててくれる…そう思うだけで、毎日が充実してました」
「……そんな…。オレ…甘えてばかりで…何も…」
「……あんなの…甘えのうちに入らねぇよ」
……ぇ…?
オレが驚いてる隙に、腕を引き寄せられ、抱きしめられた…。
「ぃち…一条さん…?」
一瞬、抱きしめる腕に力が入ったと思ったら、直ぐに身体を離された。
「送って行けなくて、すみません。 藍君によろしく」
「ぁ…の…?」
一条さんは、今の行為を掻き消すように、オレの頭にふわりと手をのせると、綺麗に笑った。
もう何も訊けない。訊いちゃいけないと思った。
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