誓い 13


その後、スタジオ中拍手が鳴り響いて、指笛を鳴らす人もいたりして…


一気にお祝いムードになったんだけど、

オレは、恥ずかしくて落ち着かなかった。

藍は、相変わらず余裕で、オレの分もスタッフの皆さんに手を振ってくれていた。



*****



帰りは、行きと違って安全運転で…

赤信号で停車する度に、手を握ってくれたり振り返ってくれたり…

自分で言うのも変だけど、甘い雰囲気で…


だから…


大事な事を忘れていた事に気づかなかったんだ…



PM 23:38



「どういう事か説明してもらいましょうか?」



合鍵を使って扉を開けたら、一条さんが仁王立ちで待っていた。


連絡しないで、外出しちゃったんだ…!


藍も、しまった!みたいな顔をしている。



「申し開きがあるなら聞きますよ」


メガネの縁を指で押し上げて、一段高い所から、オレ達を見下ろしている。


「ごめんなさい! オレ…舞い上がってて…何も言わず出てしまって…すみませんでした」



一条さんは、大きな溜め息をついてから、怖いくらいに冷静な口調で話し始めた。


「愛が舞い上がるのは解ります。会えないと思っていたクリスマスに会えたのだから。でも、藍君は違うでしょ? 君まで冷静さを欠いてもらったら困る」


「オレの配慮が足りませんでした。申し訳ございません」


言い訳する事無く、深々と頭を下げる藍_。

いや…違う…言わなきゃ…!


「藍は、悪く無い! 時間も無かったし、それに…焦らせてしまったのは、オレにも原因が…!」


「そんな事…! オレには、どうだっていい」


「……ぇ?」



一条さんの、それまでの声色との違いに驚き、俯いていた顔を上げて更に驚いた。 


オレは、これまでオレの事を保護者として、叱ってくれてると思っていた。


でも…今、目の前に立っている一条さんは、保護者というより………


男の匂いがした…。



「大人の男が、こんな時間に恋人と帰宅したからと言って、叱るのは不粋かもしれない」 


一条さんは、オレにではなく、藍に話しているようだった。


「しかし…愛は…愛は、違うだろ? 何か事件に巻き込まれたんじゃないか…て…、心配で…、何かあったら…どうしよう…て…」


一条さんは、言葉を詰まらせて…片手で顔を隠してしまった。

そんな一条さんを見て、心臓がギュッと掴まれたような…そんな感覚になる。


「まあ…いい。今日は、遅いから、藍君も早く帰りなさい」


そう呟くように言うと、一度もこちらを見ずに書斎に入ってしまった。



「ねぇ…藍。一条さん、様子が…」


「おかしいと思うか?」


「…ぇ?…うん」


「オレに対しては、いつもああだぜ」


「…ぇ?」


「すっげぇ心配してたみたいだし…。お前の前で取り繕う余裕が無かったんだろ?」


「ぇ…と…オレ…」


「別に…今まで通りでいいんじゃねぇの? じゃなきゃ、オレが困る」


「ぇ…? 藍、困るの?」


「…これで、貸し借りチャラに、しといてやるか」


訳が解らず、もっと説明して欲しくて藍を見つめたが、


「今日は早く寝て、明日になったら龍児さんのフォロー頼む」


「…うん」



でも、やっぱり少し不安で……。

そんな気持ちのまま、藍を見上げると、藍も、オレを見てて、

「大丈夫だ。お前の知ってる『一条さん』だよ」

と、小さく笑った。

 

「…うん…そうだよね」


 

それから藍は、オレの頭をポンポンして、

軽く頬にキスすると帰ってしまった。


でもなんか…上手く誤魔化された気がする…。



 

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