誓い 11


「……今回の事は、ごめんな。2人の事なのに相談もしないで決めて。

これからは、きちんと事前に話すから」


「……うん」


「本当は、帰国後直ぐ、マスコミにメールするつもりだったけど、葵さんに止められたんだ。スポンサーの絡みもあるから、勘弁してくれって」



ぁ……


彼女の頬に自分の頬を擦り寄せてる藍の顔が浮かんだ。


大手の清涼飲料水メーカーの事かな…?



「愛の事を守りたいとは思っているけど、そのために周りに迷惑をかけるのは、違うと思うから」


「…うん。そうだね」


「今は、限られた場所しか恋人らしく出来なくてごめん」


「…ううん。そんなの全然いいよ。今でも充分幸せだから」



なんか照れくさくて笑ってしまう。


泣いたり笑ったり忙しいけど…

それは全て、藍がオレに与えてくれた感情で…こんなオレも悪くないかな?て…


藍が好きになってくれたオレの事を好きになってみようなかなって…思えるようになった。



「今度イタリアに行くときは、一緒に行こう」


「?」


「愛にも会ってみたいって、言ってくれたからさ」


「うん!嬉しい! ぁ…でも…叱られる…とか?」


おそるおそる訊いたオレに、紫津木は、笑って「大丈夫だよ」と、オレの頭をくしゃくしゃっとした。


その時、チラッと藍の袖口から黒革のベルトの時計が見えた。


いつも携帯で時間を確認していたから、珍しいな…と思って何気に訊いてみた。


「その腕時計、どうしたの?」


「えっ?! …ぁ…ああ。契約の記念にプレゼントされたんだ。革製品で有名なブランドだけど、時計も出してたなんて知らなかったよ」


一瞬、慌てたように見えたのは、気のせいだろうか?



「かっこいいね」


「えっ?! …そう思うか?」

 

「う…うん」


ん?どうした? かっこいいと思った言葉に嘘は無いけど…

何で自信無さげ?


「良かった。実は、これ」


そう言って、藍はポケットから小さな箱を取り出した。

表面には、そのブランドのロゴマーク。


箱をパカッと開けると、藍と同じ時計が。



「これは、オレから愛にプレゼント。

カッコ良くて気に入ったから」


「…へ?」


「これは、自分で買った。その…これからも、一緒に時を刻んで下さい…みたいな?」



……ぇ…?



「ああ!クソッ…!」



藍は、自分の髪をくしゃくしゃっとして、天を仰いだ。


オレが意味が解らずきょとんとした顔しているせいだろうか?



「ごめん。ぇ…と…?」


だって、藍…顔が真っ赤だよ?…。


「藍?…どうしたの?」


「…ぁ…悪ィ」

と、口許を片手で隠しているけど、真っ赤な顔はそのままで…



「なあ?」

 

「ん?」


「この時計…指輪の代わりだって言えば,渡す意味、解るか?」


 

………ぇ…?



「高校生のオレが、こんな事言っても現実味無いっつーか、信じて貰えないかもしれねぇけど」


……ぇ……何何何何?!


「これからもずっと、オレの傍に居て下さい」

 

そして、片膝を立ててしゃがみ、深々と頭を下げた。


どっかの夢の国の王子様が、ずっと人知れず健気に頑張ってきた主人公に、プロポーズしてるみたいな…


こんな事されたら、世間の女子高生は、キャーキャーもんだな。とか…


あまりの突然の申し出に、どこか、ドラマを見ている視聴者のように、その姿がはまり過ぎてる藍を眺めていた。


オレがこんな調子で、瞳をキラキラさせてポーッとしてたら(たぶん)、


「愛?」と、いつの間にかこっちを見ていた藍が、瞳を揺らしながら訊いてきた。



「…心臓保ちそうに無いから、返事聞かせてもらっていいか?」  



ぁ…


そんな事を訊いてくる藍の表情は、たった今プロポーズした大人っぽい藍とは思えないくらい、純粋にオレの答えを待ってる少年のようだった。



「…愛?」


「ぁ…ごめん。見惚れちゃって…ヘヘッ

ぇ…と…あの…」



オレは、お腹の底から突き上げてくる、じっとしていられないような感情を落ち着かせようと、藍に気づかれないように小さく深呼吸して、

左手首を前に差し出した。


「藍?その腕時計、はめてくれる?」


一瞬目を丸くした藍が、

「…え?それじゃ…?」と、訊いてきたので、


「不束ものですが、よろしくお願いします!」

と、勢い良く頭を下げた。


……涙がレンズのようになり、一瞬視界がくっきりしたが直ぐに滲んできて、下を向いてるせいか、ポタポタと粒になって下に落ちる。


…ずっとこれから一緒にいられるって事で、良いんだよね?

いつか同じ家に帰れるようになって、同じ朝を迎えて……



藍……



こんなオレに、変わらぬ愛を注ぎ続けてくれて…ありがとう。



藍は、立ち上がって拳を振り上げ、何て言ったか解らないけど叫んでた。


それから、オレを抱き上げてグルグル回って、やっぱり何か叫んでた。ふふっ。



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