誓い 9   



「で…アイツなりに考えたのが、愛ちゃんとの事で、どうせ公表するなら、大きい舞台で…とか思ったんじゃないか?そこを崩したんだから、文句はねぇよな?てね。」


「…葵さんにそんな事?」


「んー、オレにもそうかもしれないけど、愛ちゃんにもじゃないかな?」



オレを守るため…?

 

だとしても…藍が負う代償は、大きい。



「ちょっと難しい話をすると、今イタリアは、同性婚に対して世論が真っ二つに分かれてる。ローマに、カトリックの総本山があるからだと思うが…同性愛に関してもデリケートな問題なんだ。」


「……そんな中で藍は、オレとの事を…」

 

「だから最初、この話を持ち出した時、

難色を示したのは、当然の事なんだ。揉めた…ていう程の事ではないよ。」


「でも…」

 

「詳しく話すと、藍の中性的な魅力に惹かれてのオファーだった。」


「え?…藍が…ですか?」


「腹筋のシックスパック見ると、そうは思えないけど、外国人モデルに比べれば、線が細いからね。顎も小さいだろ?」


「…確かに…着痩せするタイプですよね。」


「控え室の鏡に貼ってあった藍の写真見た?すみれの花びらの…、」


「ぁ…はい!見ました。」



凄く綺麗で…妖艶だった。



「あの写真は、VIOLETの創刊5周年記念巻頭グラビアを飾ったものなんだけど、それが先方の目に留まってね」


それで…か…


「だから、愛ちゃんとの事は、仕事上なんの問題もないんだ」


「え?…どういう事ですか?」


「わかんない? なんか…外国人の男性モデルとの絡みも、新たに加えようなんて言ってたし、最後には、随分乗り気になってたな」

 

えっっ!!  見たくない!!


そんなオレの様子を見て、葵さんは、「大丈夫だよ」なんて言って、可笑しそうに笑った。


「愛ちゃんに、見せたいものがあるんだ。 こっちに来て」


「はい」



オレは、言われるがままにスリッパを履いてセットを出ると、葵さんがテーブルの前で手招きをしていた。



「これを見て」


「…はい」



葵さんが指したテーブルの上のモニター画面を見てみると、写真が何枚も映っていた。


よく見ると、その写真は全て今撮ったばかりのものだ。



「愛ちゃん、いい顔してるよ」


 

……え?……ぁ…


ぅっ……うわぁ…っ……ゃ…やばい…!


オレ、こんな顔してたの?!



オレの顔は、真っ赤な顔をして、デレていて…これじゃ…藍のことが大好きだって、まるわかりじゃん…!!


はっ…恥ずかしい…!!



「こんな蕩けた顔するのは、紫津木の前だけかな?」


「…すっ…すみません…」

 


もう、どっかに消えてしまいたい…!!



「そんな謝る事ないよ。ほら、ここにも1人いるから」



葵さんが指した写真を見ると、オレが藍の肩に顔を埋めてた時の写真だった。


……ぇ……ぁ…あ…お?


こんな…顔…してたんだ…


幸せそうに顔全体を緩ませて、太陽のような穏やかで暖かな笑顔を見せていた。



「こんな笑顔見せるのは、愛ちゃんにだけだよ」



……ぇ…?



オレいつも恥ずかしくて、直ぐに目を逸らしてたから、実際藍がどんな顔してたかなんて、知らなかった…。



「まあ…実際、こんな締まりのない顔は、使い物にならないかもしれないけどね」


「ぁ…すっ…すみません」


「何で愛ちゃんが謝るの?」


と、可笑しそうに笑ってる。



「オレはね、寧ろ感謝してるんだよ。紫津木のこんな表情を引き出してもらって」



……ぇ…?



「こんな笑顔、アイツからとりあげる訳にいかないでしょ?」


ぁ…


「葵さん?」


オレは、真っ直ぐに葵さんの瞳を見てから、頭を下げた。


「藍との事、認めて頂いてありがとうございます!」


「そんな頭なんて下げなくていいよ。オレの方こそ、冷たくしてごめんね。 結局、愛ちゃんを苦しめただけで、なんの解決にもならなかった」


葵さんは、切なそうにオレを見ている。



「これからは、事務所を掲げて二人をバックアップするから。 難しい事は、考えなくていいからね。 愛ちゃんは、藍の事だけ考えて。 解った?」


「は…はい!」



葵さんは、オレから視線を逸らすと、ニヤッと笑ってから、再びオレに視線を向けた。


「ほら、藍が入ってきた。仲直りしておいで」


そう言って、オレの背中を押してくれた。





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