誓い 5



「コーヒー淹れるから、そこ座って」



ソファを指して、コーヒーマシンの前に行く藍。



「ぇ…でも…」


「さっき外で寒そうにしてたろ?飲んで暖まろうぜ」


「撮影は?」


「もう始まってるよ」


「…え?」


「自然に話してるのを撮られるだけだから。楽勝だろ?」



楽勝_て…藍は慣れてるから…


チラッと向こうを見ると、確かに撮影されてる。


すっごく緊張するんですけど…!



「愛は、オレだけ見てればいいんだよ。それなら、いつもと同じだろ?」



いつもと同じ_て、何気に恥ずい事言うなよ…。


藍は、揶揄うように口許を上げながら、両手に持ってるマグカップの1つをオレに渡した。



「萌え袖にマグカップ。やっぱイイね」



何が?


そんな事を言いながら隣に座った藍は、オレの髪を指にクルクルと、絡め始めた。


ダメだ。藍のペースになってる。



「ところで、説明してくれるんじゃないの?」


「…そうだな」



そう呟くと、藍はマグカップをローテーブルに置いた。


オレも、マグカップを置いて聞く体勢になると、藍は悪魔の様な微笑みをたたえて、膝をポンポンと叩いた。


そこに座れ…と?


オレが躊躇していると、


「ほら。」と、手を差し出されて、

恐る恐るその手を掴むと、グイッと引き寄せられて、向かい合わさる形で膝の上に座らされた。


うわぁ…この体勢…考え過ぎかもしれないけど…厭らしくない?



「オレの目を見てよ」


見れるわけないじゃん。


そしたら…顎をクイッとされて、強引に上を向かされた。



「真っ赤だな」


そんな事言われて、ますます赤くなる。


「そんな顔で、瞳うるうるされたら、襲ってくださいって、言ってる様なもんだぞ」


「藍のせいだろ? 藍にしか…こんな顔しないよ…」


藍は、ハッとしたように一瞬固まっていたが、

「そうだな」と、自嘲する様に小さく笑うと、オレを優しく抱き寄せた。



「悪い。意地悪が過ぎた。一応、撮影中だから、恋人らしい事もしなきゃいけないんだ」


「……うん」



オレは、藍の肩に顔を埋めて、安心する彼の匂いを嗅いだ。



「最初に言っとくけど、葵さん…許してくれた」


「……ぁ」



やっぱ、そうなんだ…



「詳しくは、後で本人から聞いて」


「……うん」



オレは、肩に顔を埋めたまま藍をギュッと抱き締めた。



「…ありがとう」


「オレに礼言ってどうすんだよ? 葵さんにだろ?」


「…ううん。藍にも言ったの」



だって藍が、認めてもらえるように頑張ってくれたからなんでしょ?



「……愛?」


「…うん?」


「一応、撮影中だから、顔上げて」


「あっ…ごめ…っ」



オレ…甘えモードになってた!

恥ずかしい!


慌てて顔を上げると


「……んっ…」



啄むようなキスをされました…。


オレ…羞恥で死ねるかもしれない…



オレは、何も言い返せず、カァーッと熱くなった顔を手で隠していたら、


「…平気そうじゃん」


「……は?」


何を言ってるのか分からず、怒り口調のまま藍を睨むと、


「…写真撮られんの」


「……ぁ」


そうだ。確かに…ホント……凄い…



「オレ…すげぇ嬉しい」


「……え?」


「愛の傷が1つ消えたみたいで…」


「ぁ…うん…」



藍…こんなに喜んでくれるんだ…


だったら…あの事伝えたら…もっと喜んでくれるかな…



「あのね…藍…」


「ん?」



オレは恥ずかしくて、再び藍の肩に顔を埋めた。



「オレ…もう一つ、トラウマ減ったよ」


「…マジで?…どんな?」



肩から響いてくる藍の声が心地良くて、


額をすりすりして、まったりしてしまう。


「今、話すの恥ずかしいから、その時に話すね」


「……その時?」



揶揄うような声色に焦ってしまって、


「ぇ…ぁ…違うから…違わないけど…」



あーオレ、何言ってんの?


弁解しようと顔を上げた瞬間…


またしても、やられてしまった。


はい。……キス…されました…。



「学習能力無さ過ぎ。……まあ、そこが可愛いとこだけど。」



唇を少しだけ離して呟かれて…


「…意地悪」


「愛の顔見てると、苛めたくなっちまう」



そんな艶っぽい瞳で、オレを見ないで。



「せ…説明…忘れてない…?」



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