誓い 4


この一瞬で、色んなことを考えたと思う。

時間にしたら、ほんの数秒だったかもしれない。

でも…その一瞬で、藍の人生が決まると思ったら、今まで使った事が無いような、脳の端っこまでフル回転させた。


オレは、この世界の事は分からない。

けど…見る側の気持ちなら分かる。


結論…


藍が、スタッフ全員の前で宣言した内容は、世間には受け入れられない。


オレは、深々と頭を下げてる藍の前に出て、全力で否定した。



「違います!違うんです! そんなんじゃありません。あの…誤解です。ぇ…ぁ…あくまでも恋人役…ていうだけで…、つきあってるとか…本当にそんなんじゃ…、」


その時、不意に手首を後ろから引かれた。


「……いいんだって」


藍…


「良くないよ。こんな事したら、イメージ悪くなっちゃうよ。 海外の大きな仕事もあるんでしょ?」


「ああ。あれは、もういいんだ」


「良くない良くない! オレのせいで仕事出来なくなっちゃうよ。恋人が…男だなんて…それも…オレだなんて…世間に公表しちゃダメだよ。オレの過去が…藍を苦しめる事になる……」


「…先月の事件の後…オレなりに考えた。どうやったら、愛を守れるか?て。

結論は、これ。 オレの恋人だって事、世間に公表して、もう二度と、あんなエロ糞ジジイに愛を渡さない。 愛に相談しなかったのは、悪かったと思ってる。でも…これだけは譲れないから」


藍……


スノードームの天使と重なる…


「……でも…だからって…ダメだよ」



吹っ切れたように微笑む藍を見上げながら、次の言葉を探していると、葵さんがオレ達の方に歩いてくるのが、視界の隅に映った。


そうだ。葵さんが藍を説得してくれる。

彼は、オレ達の事…反対なんだから。


葵さんは、オレ達の前まで来ると、クルッと向きを変えた。


え?…葵さん…?


「紫津木が申しました面倒も、事務所が全力でフォロー致しますので、どうかこれからも、モデル紫津木藍を使って下さい。よろしくお願いします。」


葵さんも深々と頭を下げた。


ぇ…どういう事?反対してたんじゃ…?


スタッフさん達は、お互い顔を見合わせて頷いている。

心なしか笑顔のような…


その中の一人の男性が、オレ達に歩み寄って来た。


「私達は、薄々感じていましたし、長い付き合いなので、そんな気を遣わないで下さい。こちらとしては、これ迄通り、紫津木君に仕事をきっちりこなして貰えたら、何の文句もございません。」


「「ありがとうございます!」」


藍と葵さんは、顔を見合わせると、パッと笑顔になり再び頭を深々と下げた。


オレは、この流れについていけず、只々様子を眺めていると、

その男性が、今度はオレの前に来た。


「如月さん?」


「は…はい。」


「私達は、先程も申しました通り、長い付き合いで家族みたいなものですから、私達の前では、気を遣わず、堂々と紫津木君と恋人でいて構わないんですよ。」


「ぇ…でも…」


「彼の場合、あなたとの関係性が、仕事にも直結しているようですので…」


と、チラッと藍を見遣った。

オレもそれにつられて藍を見ると、視線に気づいたのかオレを見た後、きまり悪そうに、視線を外してしまった。



「まあ…そう言う事ですので、これからも支えてやって下さい。」


「…ありがとうございます…。」


戸惑いつつも、オレも頭を下げた。


「それじゃ…始めてください。」


と、その男性がスタッフさん達に声をかけると、それぞれ配置につき準備を始める。



「……今の人は…?」


「編集長。滅多に来ないんだけど、今日、別件で来るって聞いて…。」


「…オレ…良く分かってないんだけど…?」


ひとり、スッキリした顔の恋人を睨む。


「悪いな。説明するよ。」



オレの頭をポンポンしながら、優しく微笑んでる。


ったく…子供扱いして…


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