誓い 2


「いや、無理無理無理無理!絶対無理です!今日は、その…二日酔いで!瞼なんか腫れてるし…本当に…その…オレなんかが、モデルなんて…そんな…」


オレは必死に手を横に振って抵抗したが、


「ごめんなさいね。決定事項みたいで、私にはどうにも出来ないのよ」


と、上河内さんは、すまなそうに小さく笑った。


ここで駄々をこねても、彼女に迷惑をかけるだけなので、覚悟を決めておとなしく鏡の前に座る事にした。


でも…どうしよう……冷静になって考えてみたら、オレ…顔出しNGなんじゃない?


しかも、藍と一緒だなんて…迷惑かけるだけだ……


藍に話して、わかってもらわなきゃ。


写真を撮られるというのもそうだが、

一緒に居ると、オレの客に間違われるんじゃないか?という、新たなトラウマになっていた。



「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。紫津木君が、リードしてくれると思うから」


「……はい。そうですね」


と、心配かけないように笑ってみせたけど…


今度は、さっき上河内さんが言ってた言葉が気になって…


「それより…あの…、」


「ん?なぁに?」


と、手を休める事なく、鏡越しにオレを見た。



「先程…おっしゃってた…藍の肌をボロボロにした…て、どういう事ですか?

オレ…知らないうちに、皆さんにご迷惑をお掛けしてたんですか…?」


「え?アッハッハッ 違う違う」


と、豪快に笑って否定する上河内さん。


オレが、きょとんとしたままなので、少し落ち着いたトーンに戻して話し始めた。



「8月のお盆過ぎだったかな?

目の下にクマ作ってきたことがあって」


クマ…?


「自己管理が、しっかり出来る子だから、珍しいな?とは思ってたんだけど…そんな事が続いて、そのうちニキビまで出来ちゃってね。 本人も、ニキビなんて初めてだ_なんて笑ってたんだけど…

空元気だという事が、まる分かりでね」


確かに…ニキビのイメージが無い…


「あんまり続くもんだから、葵さんに相談したんだけど…そしたら…」


と、パッと笑顔になって


「恋の病だって言うじゃない? もう…ビックリよ!」


ぅっ…それって…


「だってそれまで紫津木君て、一人の人に執着した事なんてなかったから、もう嬉しくて! だから、どんな人なのか、会うのが楽しみだったのよ」


「……こんな人間ですが…平凡でしょ?」


「何言ってんのよ、可愛いじゃない。 癒やし系ってヤツだよね」


「いえ…それで…藍の肌は、回復したんですか?」


「葵さんに話したのが良かったのか…回復は、早かったわね」


そんなに…オレの事で悩んでたんだ。


いっつもオレの前では余裕たっぷりだったけど……


男同士という事で、藍も一歩踏み出すのに…勇気が要ったんだな。



「はい!メイクは終了ね。それから、これ。紫津木君から預かって来たんだけど。これ着て撮影みたいよ。」


「ありがとうございます。」


と、紙袋を彼女から受け取り、中身を確認すると……


えっ?なんで?


中には、藍からプレゼントされたもふもふパジャマが入っていた。

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