逢えなくても …… 20


エレベーターが1階に到着し、扉が開くと同時に目に飛び込んできたのは、何故か仁王立ちの藍だった。


何か…機嫌悪そう……。


久しぶりに会えたのに…何で?


手には、2つのヘルメット。


「ほら」と、1つをオレに放ると手を引いて表に出た。目の前には藍のバイク。



「ホント時間無ぇから、説明は後。乗って」



それだけ言うと、メットを冠ってバイクに跨がる藍…。


ハッと我に返ったオレも、慌ててそれに続く。



「飛ばすから、しっかり掴まってろよ」



オレは、返事の代わりにぎゅっとしがみついた。


藍も分かってくれたのか、そんなオレの手にポンポンと触れてからバイクを発進させた。


でも何か…もうちょっと、感動の再会的なものはないの?


ていうか…本当に急いでるみたい。尋常じゃないスピードなんですけど……


それだけじゃなくて、車と車の間も、殆ど速度を落とすことなく通り抜けてる。


ハッキリ言って、怖い…!


いつもオレを乗せてた時は、ワザとゆっくり走っててくれたんだな…と、改めて感じた。


信じて無い訳じゃないけど、怖い事に変わりはなくて……目を瞑って、藍にしがみついてる腕に力を込めた。



「おい。着いたぞ」



……え?……ぁ…


信号待ちで停車しているだけだと思い込んでいたオレは、ぎゅうぎゅうに藍を締め上げていた。



「ぁ…ごめ…ん」


パッと腕を解いて、バイクを降りた。


藍もバイクを降りてメットを取る。


その一連の動作に見惚れてしまう。


今だに恋人に見惚れる…て、どんだけなんだよ。



「怖い思いさせて、悪かったな」



……ぅ…っ…バレてる?


おもいっきり首を横に振ったら、そんなオレを見て藍は、苦笑いを浮かべた。



「愛が頑張ってくれたから、何とか間に合ったよ」



ジーンズのポケットから取り出した携帯で時間を確認すると、オレを労るように呟いた。


なんか…そんな風に見つめられると照れくさい。



「イチャつくのは、中に入ってからにしてくれ」



ぁ…葵さん…


建物から小走りでオレ達の方へ向かってる。


ここって、藍と初めて会ったスタジオが入ってるビルだ…。



「愛ちゃん、久しぶりだね」



オレは、とっさに藍の後ろに隠れてしまう。

だってまだ2人の仲を認めてもらってないから…どんな顔をすればいいかわからない。


葵さんは、そんなオレの様子を確認すると、藍に視線を移した。



「まだ愛ちゃんに話してなかったの?」


「コイツ、ろくに話も聞かねぇで電話切りやがったから」


と、軽くオレの頭に拳でコツンとした。


話が見えないとか、思ってはいるんだけど、それ以上に、頭コツンにキュンキュンしている自分がいて……



「愛ちゃん、顔赤いよ」



葵さんに指摘されたけど、藍にバレちゃうから、そっとしておいて欲しかった…。


藍を見上げると…、

やっぱり、こっち見てる。

カァーッと、ますます赤くなる。



「お前…あん時と変わんねぇな」


「……ん?……あん時…?」


「ま、とにかく中に入れ。バイクは、オレが駐めておくから」


と、葵さんが右手を出すと、藍がキーを放り、それをキャッチする。


そんなやり取りも見惚れてしまう。


オレ…重症かな…久しぶりに会ったせい?



「時間だ。もう行かねぇと」


手を繋いで歩き出す。



「何をするの…?」


「内緒」


と、人差し指を唇の前において、悪戯っ子のように笑った。


嫌な予感しかしないんですけど。


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