逢えなくても …… 18


クリスマスイブ



藍からは、帰国の連絡は無かった。


ソファに寝そべりながら、スノードームを眺める。


部屋のライトに照らすと、キラキラと光を反射させて綺麗だった。


身体の傷も癒えて、付けられなかったネックレスも定位置に収まっている。


ただ、藍が居ないだけ。



TVをつけてみる。


そろそろ藍が出てる清涼飲料水のCMが流れる時間。


この時間は、ロングバージョンが流れる。



「……ぁ…始まった…。」



急いで起き上がり、座り直す。



藍が、女性と2人でじゃれ合いながら、イルミネーションの街路樹を歩いている。



いいなぁ……


オレも…藍と歩いてみたい…


結局、藍とデート出来てない…



女性に頬ずりして、微笑んでる藍…



外でじゃれ合って歩いてみたいな…


まあ…無理だけど…



『…あん時は、愛と、もう出逢ってたんだよ』



藍の言葉が甦る。



『もう、好きになってた頃だ』



思い出しただけで、心臓がトクンと跳ねた。



『…オレは、オレだよ?なんも変わんねぇよ』



藍……! 会いたい……!



ロゴマークの横で微笑む藍が滲む…



グスッ…


鼻水が垂れる…


カッコ悪い…



さっ…気持ち切り替えて、夕飯作らなきゃ…


今日なら早く帰れるという一条さんに合わせて、ケーキとチキンを準備する事にしたんだ。



オレが、立ち上がった瞬間…、

藍から電話が入った。


気持ちを出来るだけ落ち着かせ、ゆっくりと通話ボタンを押した。



「藍? もしかして帰国したの?」


『いや…まだローマの空港だ』



走って移動中なのか、息が荒い。



『これから、そっちに帰る。ギリギリになるけど、クリスマスには間に合いそうだ』


「本当?」


パッと視界が、広がる様な気がした。


『おう。……ただ…』


「?……ただ…?」


『日本での仕事も押してて、そっちに到着次第、撮影に行かなきゃいけない』


……え…?


『だから…、』


「わかった!」


『…愛?』


「…大丈夫だよ。お仕事…優先させなきゃね」



藍から、『会えない…』という言葉は、聞きたくない。


『おい、聞けって!』


「聞きたくない! ごめん! いいコのまま電話を切らせて! それに…オレ…これから明日のクリパの準備しなきゃいけないんだ。じゃぁね。」


プツッ


通話ボタンを切った。



「明日に変更になったんですか?」



……え?



リビングのドアに一条さんが立っていた。



「あれ?早いね」


「社長が、気を遣って下さったんだ」


「へぇ…そうなんだ…」


やばい…涙腺…限界…かも…


「で?…いつ、明日に変更に?」


「今…? 変更…ていうか…連チャン? ヘヘッ」


一条さんは、これでもか?ていうくらい、大きな溜息をついて…

そんな行動とは逆に、そっとオレを抱き寄せて、オレの顔を隠してくれた。



「いつも…いつも…貴方って人は…」


「ごめんね…ごめんね…ありがとう…」



涙でグチャグチャになった顔を一条さんの胸に埋めた。


暫く貸して下さいね…いつものように笑えるまで…



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