逢えなくても …… 16


助手席の車窓には、キラキラと輝くクリスマスのイルミネーションが映しだされていた。


ケヤキ並木の光の中を通ると、フロントガラスまでが、キラキラして…


「うわぁ…キレイ…」


思わず声に出していた。



「普段、この道は混むので避けて通るのですが…今日は、特別です」


「…もしかして…これをオレに見せるために?」


「……はい」


「…ぁ…ありがとう! 運転中じゃなかったら…オレ、抱きついてたかも!」


「……っ!ょ…喜んで…頂けて…私も嬉しいです。ハハッ…」


と、一条さんは、困ったように笑った。


珍しく動揺してる…?



「ぁ…ご…ごめんなさい! 運転中なのに…変な事言って困らせて…」


「……いえ…」


「…オレ…哲哉さんにも、変な事言っちゃったみたいで…急ブレーキを踏まれた事あります…」


「何を言ったんですか?」


うっ…何か怒ってる…?



「…それが…覚えてなくて…」


小さな溜息…


「…そうですか…」


「…一条さんは、知ってると思うけど

、オレ…昔は、こんなに感情を表に出した事無くて……その…あんまり酷かったら、注意して下さい」


「良い事だと思いますよ。少し、驚きましたが。……藍君の影響でしょうか?」


「うん…ヘヘッ。安心して…思ってる事話せるようになった。全部、受け止めてくれるって、分かるから」


「……彼なら、そうですね」



信号が赤になり、交差点の手前で停車したので、賑やかな街の様子を眺めていると…


広場のような場所に、クリスマスマーケットが、催されていた。


うわぁ…見てみたいな…



「興味がお有りですか?」


「うん!オレ…小物とか、雑貨とか見るの大好き」


と、一条さんの方に振り向いて答えると、一瞬、目を丸くしたが…直ぐに苦笑いを浮かべた。



「……貴方のマンションのリビングを見れば、分かります」


「女の子っぽいとか、思ってたの?」


と、口を尖らせて見せた。



「いえ…寄ってみますか?」


信号が青になり、走りだした。


「……ううん。寄らなくていい」



たぶん…クリスマスも、藍とは会えない。


雑貨とか買っても、虚しくなるだけだ…。



「……一条さん、好きな人いるよね?」


「はっ??」


思いっきり、こっちを見る一条さん。


「一条さん、前!前!」


「あっ!…すみません」


「…ごめんなさい。また、変な事訊いて」


「……いえ…何故、そんな事?」


「うーん。最近…母さんの写真、ずっと伏せたままだったから…そうなのかなって」


「…そうですか…時々、鋭い事おっしゃいますね。 まあ…好きな人は確かにいますが…片思いなので」


「そっか…片思いか…」


何か…良かった… 前に進んでるんだ。

母さんも、ホッとしてるかな…?



「それじゃ…クリスマスは、その人誘うの?」


「……クリスマスは、仕事ですし…その人には、おつきあいされてる彼が、いらっしゃいますので」



前を向いてるから、わかりづらいけど…

最近見せるようになった、哀しそうな表情のような気がした。

報われない恋だから…?



「ぁっ…ねぇ…、クリスマス、一緒に過さない? オレ…ケーキとか…チキンとか…準備して待ってるから!」


「……藍君は? がっかりなさいますよ?」


「うん…」


期待して待ってて、ダメ…てなった時…

立ち直れそうにない…



クリスマスは、来週に迫っていた。


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