逢えなくても …… 14


朝…目が覚めると、もう隣には一条さんの姿は無かった。


寂しさを感じながら、携帯で時間を確認すると、まだ6時。


リビングに居ると思い、行ってみるも姿は無く、ローテーブルの上に、メモが置かれていた。



『病み上がりで、食欲は無いと思いますが、鍋にスープを作って置きました』



もう出かけちゃったんだ。


仕事…忙しいのかな…



キッチンに入って、鍋を開けて見ると、


わぁ…野菜がゴロゴロ沢山入ってる…!


一条さん、いただきますね。



オレは、先に洗面所に行き、朝の支度と着替えを済ませてから、朝食をいただいた。


それから、掃除に洗濯をして落ち着いた頃、珍しく父さんから電話がかかってきた。



『元気か?』


「…え?…うん…元気だよ」


『…そうか…なら、いい』


「どうしたの?……何かあった?」


『…………』



……父さん?


「……あのね…父さん。オレの…周りの人達は、皆んな優しい人達で…オレには、何も教えてくれないんだ。 父さん…? 何かあった?」


『………大した事ではないんだが…

一条君が、目の下にクマが出来ててね…

まあ…愛の熱が下がった事は、聞いたのだが…他に何かあったんじゃないか、と思ってね』


「……そうですか…」



一条さん…眠れなかったのかな…?



……ぇ…?もしかして…オレのせい?



『……愛?』


「……はい」


『愛は、アレに似て、何でもひとりで抱え込む癖がある。 周りの人間は、それを知っているから、余計な事をお前の耳に入れないようにしてるんじゃないのかね?』


「……え…?」


『愛は、藍君だけじゃなく、沢山の人達から愛されてる。それを自覚して、もっと頼りなさい。 喜んで力を貸してくれるはずだよ』


「ぇ…愛されてる? オレ…が…?」


『そうだよ』


「……父さん…も…オレの…事を…?」


『…ああ。当然だ』



二人で話すの…久しぶりだ。


喧嘩同然で家を出て…それ以来か…。



「父さん……今まで色々心配かけて、ごめんね」


『…今までとは…何処まで遡るのかな?』


「んー、父さんが思い浮かべた辺り?ヘヘッ」


『考えたな』


父さんが、優しく笑ってる。


「あの…父さん……藍との事、許してくれて…ありがとう」


『何だね? 今になって』


「うん…きちんとお礼言えてなかったから…」


『……そうか…。真っ直ぐな目をした、いい少年だね。愛も、しっかり支えてあげなさい』


「うん…ありがとう」



電話の向こうから、微かに一条さんの声がした。


『分かった。今行く。 すまん。これから会議なんだ。今度、藍君も連れて遊びに来なさい』


「うん。分かった。電話、ありがとう。それじゃ…」



小さく息を吐き、ソファに身を投げ出す。


胸に突っかかってた物が取れたようで、

何だか清々しい気分だった。


緩んでしまう顔をそのままに、切ったばかりの携帯画面を何気に眺めたら…、


あっ!LINE!


開いて見ると、藍から一件入っていた。


ああああっっ!

オレってバカバカバカ!

どうして気が付かなかったんだ!


慌てて表示してみる。


『熱はどうだ? 昨日の夜は、だいぶ無理させたみたいで…ごめん。 身体、辛くないか? 一週間後に帰れるから、真っ先に会いに行く。いいコで待ってろよ』



昨日の夜…て事は。……ぅっ。そんな前に?既読にならないから、心配してるかな?ごめんね藍…。


ぇ…と…


『心配かけて、ごめんね。もう熱も下がったし、身体も辛くないよ。 藍に会えるのを楽しみにしてるね』



送信_と。




でも……


一週間過ぎても、十日過ぎても、藍は帰ってこなかった。

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