逢えなくても …… 13


紫津木藍side



シーツを洗って乾燥機にかけ、乾いてから再びベッドにセットした。


その間、愛は、全く目覚めることは無かった。



「無理させたな…」



ベッドの縁に座り、

愛しい人の頬に、そっと触れる。


安心しきって眠ってるその寝顔に、心がズキリと痛む。


また、やっちまった。



「成長しねぇな。オレも…」



醜い独占欲。


あんな顔でおねだりされたって、キスだけで満足させてやる自信は、あったんだ。


だが…


夢のオレに愛撫されたって、愛の口から聞いたとたん、理性がぶっ飛んでた。


夢ん中のオレにも嫉妬するって_どんだけなんだよ。

結果、愛の身体に負担かけただけになっちまった。


いい加減治さねぇとな。


ホント、余裕無くて…ダッセ…。


ハァ…


大きく息を吐いてから、スーツに着替えた。



「愛…」



触れるだけの口づけ。



オレの部屋着に着替えさせたのは、余裕の無さの表れ。


布団をかけ直して、気合いを入れて立ち上がり、扉のノブに手をかけた。

でも_、やっぱ、もう一度……!


オレは、小走りでベッドまで戻り、愛しい人に頬ずりして、キスをした。


逢いたくて逢いたくて仕方なくなった時、もう一頑張り出来るように…。



「まだ、おいででしたか。玄関にスーツケースがございましたので」



オレが再び気合いを入れ直して立ち上がった時、龍児さんが顔を出した。



「今、出るところだ」



それにしても、この人は、


「龍児さん、敬語」


「ぁ…そうでしたね」


と、小さく笑ってみせた。



なかなか踏ん切りがつきそうにないので、振り返らず、そのまま龍児さんと、廊下に出た。


玄関に出て靴を履き、振り返る。



「龍児さん。愛の事……」



……ぁ…?…ああ…。



「…藍くん…?」



ああ…そうか…そういう事なのか…?


今回ばかりは、自分のカンの良さを恨むぜ。



「どうかしましたか?」


オレは、龍児さんの顎を掴み、瞳を覗き混む。


「ぁ…藍くん…?」


「龍児さん。逸らさないでオレを見て」



やっぱ、そうだ。間違いねぇ。


添い寝する事を了承したつもりだった。


寝るとき、手を握ってやってくれ_とも言った。


オレだって、好きになった奴のために、身を引いて、傍に居ることを選択した龍児さんの気持ちは、痛いほど解る。


そんな龍児さんに、酷なお願いをした自覚もある。


だから…


他の奴ら同等には、責められねぇ。


愛のためにも、器の小せぇ男になんてなりたくねぇ。



だが…



無理だわ。



「龍児さん」


顎を掴んだまま、瞳の奥の本心に訴えるように続けた。


「愛をなかせないで下さいね」


龍児さんの瞳は、大きく見開かれた。


「…わかってるつもり……です…」


逸らされた瞳。


判っていても、愛の事を頼まなければいけない後ろめたさ。



なんだよ。この状況。


掴んでいる手が震えている事に気づき、漸く龍児さんを解放した。



今回の事件といい、

全然、守れてねぇじゃん…



「…悪ィ…顎、赤くなっちまったな。」


「っ!!ぃ…いえ…大丈夫です。」


「イタリア行って、頭冷やしてくるわ。」


「…いってらっしゃいませ。…お早いお帰りを。」



深々と頭を下げた龍児さん。


オレは、それには答えず玄関を後にした。



アー!! クソッ!!



絶対ぇ成功して、戻ってくるからな!




紫津木藍side end

 

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