逢えなくても …… 12


そんな…一条さんを納得させるなんて…


無理だよ…



「……どうしたんです? 自信が無いのですか?」



目が真剣だ…


やっぱり…本気で再現させる気なんだ…



「……自信…ありません…」


「…はい? でしたら、交際は…、」


「あれは!…藍だから…藍だから…聞いてくれたんだ。一条さんじゃ…無理です」


「……何故?」



うわぁ…っ…ますます怒らせたかな?

…でも…


「……オレを…抱けますか…?」


「……ぇ…?」


「抱ける訳無いですよね。変な事訊いて、ごめんなさい。 でも…この世界で、こんなオレの事を抱けるのも…、恋心を抱いてくれるのも…藍だけなんです。 そんな藍だからこそ…オレが強請った時、受け入れてくれたんです。 だから…オレが、ここで再現してみたところで、 オレに恋心を抱いてない一条さんの心には届かない」



一条さんの反応が怖くて、一気に捲し立ててしまったが、

やっぱり反応が気になって、おそるおそる一条さんを見上げた。


一条さんは、オレが反論したのが意外だったのか、目を丸くしていたが、直ぐに自嘲のような笑みを浮かべた。



「……それはつまり、貴方が私に対して恋心を抱いていないから、完璧に再現するのは無理…という事ですね?」


「……そういう意味…になるのかな…?」



一条さんは、小さく息を吐くと天を仰いだ。

それから、オレの方に向き直ると、



「変なお願いをして、すみませんでした。大人気無かったようですね。」


「……ぇ…それじゃ…?」


「もちろん、今まで通り藍君と会って頂いて結構ですよ。 貴方の身体が心配で、少し意地悪しただけですから」


「…良かった…ありがとう…」



オレは、そう笑ってお礼を言いながら、一条さんの表情が気になっていた。


オレの事が好き…て、言ってくれた時の、今にも泣き出しそうな表情に似ていたから…。



「起きるには、まだ早い時間ですし…二度寝しますか?」



一条さんは、ふわっと優しく微笑んだけど…まだ、哀しそうな表情には変わりなくて…

「はい」と、返事はしたものの、気になって仕方なかった。


一条さんは、布団を捲ってオレを促した後、眼鏡をサイドテーブルに置いてから、入ってきた。


その間も、オレと目を合わせてはくれず、直ぐに背中を向けてしまった。



「ぁ…の…一条さん…?」


オレは、堪らず声をかけた。



「…どうしました?」


背中を向けたまま、返事が返ってくる。


冷たい声色じゃなかっ事に安心して、話を続けた。



「……心配かけちゃって…ごめんなさい」


「……いえ…」


「…………」


「…………」


「あの……部屋…明るくしていてくれて…ありがとう。いつ、目覚めるかも分からないのに…パニックにならなくて済みました」


「…それは…藍君から聞いていたからです。私の判断では、ありません」


「……でも…わざわざ藍に、聞いてくれたんでしょ?……ありがとう一条さん」


「……まだ病み上がりなんですから、早くお休みになった方が……、」



いつもの一条さんじゃない事に不安を覚える。



「さっきの話なんだけど…」


「その話は、もう…」



やっぱりオレが知らずに、一条さんを傷つけたんだ…



「……ごめんなさい」


「……何がです?」


「……ぇ…と…」



オレ…何言ったっけ…?思い出せ!



「…前にもお話したと思いますが、分からない事は、謝らなくても……、」


「オレ!……あんな言い方したけど…一条さんの事好きな事に変わりはないから…!」



反応が無い…


ていう事は…やっぱりこの事だったか…?



「…オレ…鈍くて…、」


「分かってます。私は大丈夫ですから…もう…休みましょう…」


「……うん」



オレ…藍だけじゃなくて…一条さんにも何か我慢させてる事あるのかな…



それから、言われた通り目を瞑って眠る姿勢になったけど、眠れなくて…

布団を顔の半分位まで、引き上げてみたけど同じで…


ふっと隣の背中を見つめた…


やっぱりダメだ…

いいオトナの男が_て、思われるかもしれないけど…


「……一条さん?…まだ…起きてる?」


「……はい…どうしました…?」


「あの…お願いがあるんだけど…」


「…はい」


「………背中に…くっついて眠っていい?」



返事が直ぐにこなくて不安になり始めた頃


「……構いませんよ。」て…



頼んでおいてなんだけど…


…やっぱり、一条さんは優しい。



まずは、額を背中につけた。


ピクッとなる背中。

何も言われないので、続けて身体全体を一条さんに預けた。


暖かい…安心して…眠れそう…。



……そうだ…前に哲哉さんに言われてた事…このタイミングかな…?



「………大好きだよ…龍児さん……。 だから…もう哀しそうな顔…しないで…」


「……ハァ。……貴方って人は…、」



でも…半分夢の中だったオレは、その後、一条さんが話した言葉を聞いていない…。


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