逢えなくても …… 5



「それ本気で言ってんの? 今、何気に傷ついた。 それから、いつも言ってるだろ?

自分の事、そんな風に言うんじゃねぇよ」


「ごめ…でも…」



頭上から、さっきとは違う諦めのような溜息。


「オレは、安堂から確かに脅されてましたっつー、証人みたいなもんで呼ばれただけだから」


「…本当に?…それだけ? 変な事…訊かれなかった?」


「ああ。……あっ、」


「なに?」


「若い刑事に、愛との関係しつこく訊かれた」


「…それ…で?」


「そいつ、愛に気があるみたいだったから、イジメてやった」


「……は?」


「ああ。それと、もう一つ」


……まだ…何か…?


「あのエロい糞じじいと、廊下ですれ違ったから、回し蹴りを喰らわせてやった」


「…は?……ていうか…何で…分かったの?」


「須藤さんが教えてくれた。ま、ワザとだろうけど」


……ワザ…と?


「その後、スッキリしたって言ってたからな」


哲哉さん…。


「大丈夫…かな?…問題に…ならない…かな?」


「愛は、そんな事まで気にしなくていいんだよ」



「ったく…」そう言って、髪にキスを落としてくれた。



藍の様子を見ていれば、オレの事…許してくれてるのは分かる。



でも…



「今回の事…どう…思った?」


「…どうって?」


「…オレの…事…」


「…ん?」



今のオレの気持ちを受け止めてくれるか…不安…だけど…


「オレね……外に出るのが…怖くなったんだ…」


「…あんな目にあったんだ…。それは、しょうがねぇだろ?」


「…そうじゃ…無くて。哲哉さん…オレの客だと…思われてたんだ」


「奴が、勝手に間違えただけだろ?」


「そうなんだけど…オレ…それが…不安なんだ。オレは…忘れてるけど…あっちは、覚えてる訳で…その…オレと居ると…皆んな客だと…思われちゃう…」


「んな事…オレは、気にしねぇよ。逆に、見せつけてやりたいくらいだ」


藍…


「でも…ひとりの時は、気をつけろよ」


「…うん…」



藍に話すと…嘘のようにあっさり解決しちゃうな。


「後は?まだあるんだろ?悩んでる事。話してみぃ?」



見上げると、変わらず優しい眼差し。


それは、オレだけに向けられるもの。


これからも、ずっと…独り占めしたい。



でも…今は、チクリと針が刺さったように、胸が痛む。


だから…藍に針を抜いて欲しいと思った。


それは、藍に甘えてるだけなのかもしれない。


逆に、藍の胸に針…イヤ…それ以上のナイフを突き刺してしまうかもしれない。


でも…オレは…自分の汚い部分を知ってしまったから…

それを隠して、一緒になんて居られないと思った。



オレは、少しだけ距離をとった。


密着していた身体をほんのちょっと離しただけなんだけど…


オレの異変に気づくには、充分な距離だったみたいで、

オレを抱き寄せていた腕に、ちょっとだけ力が籠もったみたいだ。



「あのね…藍…。」


声が震える。


「…うん。」


オレを落ち着かせようとしているのか、今まで以上に、優しい声が降りてきた。


そんな藍に、今から話す事…。


でも…オレの不安な気持ちも、分かって欲しいから…



「オレ……その…藍が言うエロい糞じじいに……身体触られて……感じたんだ…」




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