逢えなくても …… 3



『服…脱がすよ』


頭の中で、藍の声が響く。


ブルーグレーの瞳が、オレを捉えて離さない。



「な…なんで?」


そう答えるのが、やっと…。



「…嫌か?」


「い…嫌…じゃない…けど」



そんな、捨てられた仔犬みたいな顔して見ないで。


「まっ、嫌だと言っても脱がすけど」


「……は?」



そう言うと、辺りをキョロキョロし始めた藍。



「…藍?」



視界に何かを捉えたらしく、オレの背中に、枕やクッションを置いて、オレの上体をそこに預けると、部屋の隅に歩いて行った。


そして戻ってきた彼の足元には、オレのキャリーバッグ。



「これ、確か愛のだよな?開けていい?」


「…なんで?」


「着替えるぞ。だいぶ汗かいたみたいだからな」



ぇ…



ぁ…そうか…


そういう事か……


……そうだよね……


オレ…


馬鹿みたい…じゃん……



藍の舌が、首筋に触れて…


耳許で囁かれて…


一人で熱くなって…馬鹿みたいじゃん



「どした?」



オレの気持ちなんか、全然分からないとでも言うように、きょとんとした顔。


いつも…いつも、オレだけがドキドキして、

藍は、いつも冷静で…。


馬鹿。



「ほら。バンザイして」



オレの服を摘まんで、まるで子供に言うように、オレを見てる。


ホント…バカ…。



悔しいから、睨んでみた。


けど…


相手は、「ん?」と、首を傾げるだけ。


ったく…



「辛いなら、オレが脱がせてやるぞ」


「……大…丈夫」



本当は、腕を上げるのも怠いけど、悔しいので強がってみた。


自分で裾をたくし上げたら、その後は、

藍が首から服を脱がせてくれた。


Tシャツを中に着ているため、腕だけがヒヤッとする。



はぁ…



ぁ…



何気に自分の腕を見て、血の気が引いた。


急いで布団をかけたつもりだけど、身体が思うように動かないから、全然ゆっくりだったかも…。



こんなんじゃ、見られちゃったよね。


身体が疼いて、変な気持ちになって、


肩透かしにあって


悔しい思いして…



そんな事、グルグル頭の中で考えていたから、危機管理が薄れていたんだ。


こんな身体を藍に見せるなんて…。



「愛? オレ…知ってるから」



え?


驚いている隙に、布団をとられた。



「先に着替え済ますぞ。 風邪引くから」


「…うん」



Tシャツも脱がされ、上半身は裸に。


「ぁ…大したことは無いんだ。あの…殆ど…かさぶたになってきてるし…抉った所は、まだ…治らない…けど…」


「抉った? 擦っただけじゃねぇのかよ」


「うん…まあ…つけられた…あと?

気持ち…悪くて…つい…」


「あの糞ジジイ!やっぱ、一発だけじゃ足りなかったな。」




は?


オレの頭の中が、疑問符でいっぱいになっている間に、

藍は、キャリーバッグからTシャツを取り出して着せてくれた。



「愛?ちょっと抱き締めていいか?」



ぇ…?



おずおずと頷くと…


藍は、そっと手を伸ばしてきて、優しくオレの身体を包み込んだ。



「…ごめん…傍に居て…守ってやれなくて…ごめん…」



藍…



藍が悪い訳じゃない…そんな思いを込めて、オレも…背中に手を回す。



「…こんな目に二度と会わせねぇ」



絞り出すように発せられた声は、震えていた。


この時のオレは、この言葉の意味を理解していなかったんだ…


ただ、傍に居れなかった藍なりの後悔から出た言葉だと思ってた。


そんな単純なものじゃなかった…


久し振りに二人っきりになって、抱きしめられて、

ただただ舞い上がってた。


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