逢えなくても …… 2



「愛? 意識あんのか?」


「…ゆ…め…?」


「夢じゃねぇよ。 馬鹿だな」


ぅ…そ…ぇ…えっ?


「ほん…もの…?」


「恋人の顔も忘れたのか?」



その時、ふわっと身体が宙に浮いて、藍に横抱きにされた。


間近で見る藍の横顔は、紛れもない本物で、夢の中の彼を思い出し、妙にドキドキした。


もう何回目だろ。

藍に、こうやって運ばれるの。

まるで雲の上にいるみたいで、ふわふわして…とっても気持ちいい。


好き……大好き……!


次々と愛しさがこみ上げてきて、止まらない…



藍は、ベッドに優しく寝かせてくれたけど、

オレは離れたくなくて、幼い子供のように、藍の胸辺りのシャツを握りしめて離さなかった。


「ごめ…っ……ワガ…ママ…なのは…分かる…けど…離れたく…な…い」



藍は、少し驚いたように目を見開いていたけど、

握りしめたオレの手の上から、藍も握ってくれて、額にチュッと、リップ音と共にキスを落としてくれた。


「すっげぇ嬉しい。」


……ぇ…?


「愛は、あんまそういう事言わねぇだろ? だから」



いつものように柔らかく微笑んで、オレの髪を梳いた。



「安心しろ。どこにも行かねぇよ。今日は、泊まっていけるから」



ぇ…?



「…一緒に……寝てくれるの…?」


「おう。……久し振りに、腕枕してやるよ」


「…うん…」



安心すると、途端に先程の自分の発言が、子供っぽかった事に気づき、恥ずかしくなった。



「さっきは…ごめ…困らせる…ような事…言って…」


「だから、言ったろ? 嬉しいって。愛は、いつも我慢し過ぎ。もっとオレの事困らせろよ。そういうの、世間では幸せな悩みつーんじゃねぇの?」


どうしよう…幸せすぎて怖い…


藍が傍に居るだけで、こんなに暖かい気持ちになる。

身体が自然に反応する。

この疼きは、熱のせいだけじゃないよね…?


強請って、断られたら?


呆れるかもしれない…


でも…


今度いつ会えるかわからないなら…




「ところで、愛?」


布団をオレの首の辺りまでかけると、不思議そうな顔をした藍が、顔を近づけてきた。



「廊下に出て、何しようとしたんだ?」


「ぁ…ぇ…と…お水…飲みたくて…」



顔が近づいたからって、オレが何考えてるか…なんて、分かるはずもないのに、つい、目を逸らしてしまう。



「水って…これじゃねぇのか?」



ぇ…?


藍の手元を見ると、ペットボトルのミネラルウォーターが。

サイドテーブルの上には、トレーにのったコップが置かれていた。



「龍児さんが、用意してくれてたんだな」



うっ…そんな…全然見えてなかった。


重い身体を引きずって、廊下まで出たのに。


「飲ませてやるよ。」


と、藍は、小さく笑った。


熱で、顔が赤いだろうから、表情が読み取りづらいと思うんだけど…


わ…笑われた…。


藍は、コップに水を注いでから、オレの上体を起こすと、

オレの両肩を片腕で支えながら、コップを口許に運んでくれたので、一口、流し込めた。


「もっと飲むか?」


コクっと頷くと、再びコップを口許に運んでくれた。


今度は、コップの水を飲み干す勢いで、飲み続ける。


はぁ…生き返る…。


口の中、カサッカサだったし…喉の奥がくっついちゃってる感じがしてたけど…


もっと…もっと飲みたい…!


渇きが癒えない…


口の端から水が溢れ、首筋まで伝っていくのをヒンヤリして気持ちがいいので、そのままにしていた。


そしたら…



「はぁ…ん…っ…」



変な声が出ちゃった…


だって、藍が、伝った水を舐めとったから…。



「……その声…エロい…」



ひゃぁ…


ずっと変な事考えてたって…バレちゃった?


いつもなら、話題を変えて誤魔化すところだけど、気力体力が無いオレは、目を伏せて身体を藍に預けながら、藍の出方を伺うだけだった。


すると、持っていたコップをサイドテーブルに置いた藍は、耳許に唇を寄せて囁いた。



「服…脱がすよ。」



……ぇ…っ…?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る